研究課題/領域番号 |
23K08683
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分56020:整形外科学関連
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
佐藤 結子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 研究員 (70445443)
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研究分担者 |
宮本 健史 熊本大学, 大学院生命科学研究部(医), 教授 (70383768)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 異所性石灰化 / 異所性骨化 |
研究開始時の研究の概要 |
アキレス腱や肩腱板の異所性骨化は、マイナーな腱損傷などを契機に発症すると考えられている。本研究では、アキレス腱や肩腱板の異所性骨化症例の多くで強い疼痛を伴うことに着目し、腱損傷により生じる炎症が異所性骨化に関与すると考えた。今回のアキレス腱損傷モデルでは損傷部で強い炎症細胞浸潤と炎症性サイトカインの発現上昇を認めており、この炎症と異所性骨化の関連やそのメカニズムの解明を進めることで、異所性骨化のメカニズムやその治療標的の同定が可能になると考えている。
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研究実績の概要 |
肩腱板やアキレス腱の異所性石灰化に代表される腱や靭帯の付着部における異所性骨化は、日常診療においてしばしば目にする疾患であり、強い疼痛の原因となることから、その対策は重要である。しかし、その病態の詳細は不明のままであり、対応策も明らかではなかった。申請者は、動物モデルとして野生型マウスのアキレス腱の踵骨付着部を切離することで、切離部に100%の確率で異所性骨化を生じるモデルを樹立することに成功した。肩腱板における異所性石灰化症は腱のマイクロダメージをもとに発症すると考えられているが、以前よりH2ブロッカーであるcimetidineが異所性石灰化を改善させることが報告されていた。そこで、本モデルでもcimetidine投与を行なってみたが、異所性石灰化の改善は得られなかった。本モデルで異所性骨化部を解析すると、切離部においてTNFαを発現する炎症性細胞浸潤とともにシグナル分子であるmammalian target of rapamycin (mTOR)の活性化を認めた。さらに、アキレス腱切離部において、炎症性サイトカインであるTNFαのほか、IL-6及びIL-1の発現も有意に上昇することを見出している。このうち、まずマウスの準備が整ったTNFα欠損マウスにおいてアキレス腱踵骨付着部切離モデルを作成したところ、異所性に形成される骨化が有意に抑制されることを見出した。一方、続いてIL-6欠損マウスならびにIL-1欠損マウスにおいて、アキレス腱切離モデルの作成を行い、同様に異所性骨形成の評価を行ったところ、異所性骨形成は野生型と差がなかった。さらに、野生型マウスのアキレス腱切離モデルにおいて、mTOR阻害薬を投与すると、切離部における異所性骨化が有意に抑制される知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、野生型マウスにおけるアキレス腱切離モデルで、100%の確率で異所性骨化を生じること、肩腱板における異所性石灰化症に有効であることが報告されているcimetidine投与では異所性石灰化の改善が得られないこと、アキレス腱損傷部においては炎症性サイトカインであるTNFα、IL-6、IL-1のいずれもが発現が上昇し、さらにmTORの活性化すること、などの知見を得ている。炎症性サイトカインの異所性骨化発症における役割の解析については、TNFα、IL-6、IL-1の各遺伝子欠損マウスを用いてアキレス腱切離モデルを作成し、異所性骨化をマイクロCTで評価したところ、TNFα欠損マウスでは野生型マウスや他のIL-6欠損マウス、IL-1欠損マウスに比べて異所性骨化が有意に抑制される知見を得ている。また、アキレス腱損傷部におけるmTORの活性化の異所性骨化発症に果たす役割を検証するため、野生型マウスのアキレス腱損傷モデルに、mTOR阻害剤であるRapamycinの投与を行い、異所性骨化への影響を検証したところ、こちらも、mTOR阻害薬によってアキレス腱踵骨付着部切離モデルにおける異所性骨化が有意に抑制される結果を得ている。すでに異所性骨化モデルの作出に成功していることや、TNFα欠損マウスあるいは野生型マウスにおいてもmTOR阻害薬によってアキレス腱踵骨付着部切離モデルにおける異所性骨化が有意に抑制される知見が得られており、おおむね順調に研究が進行していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
TNFα、IL-6、IL-1の各遺伝子欠損マウスを用いたアキレス腱切離モデルにおける異所性骨化の評価、野生型マウスにおいてもmTOR阻害剤であるRapamycinの投与によるアキレス腱切離モデルにおける異所性骨化の評価は、引き続き解析を行う。アキレス腱損傷部においては炎症性サイトカインであるTNFα、IL-6、IL-1の発現が上昇していたことから、同部で炎症が惹起されていることは明らかである。そこで、遺伝子ノックアウトマウスの他、野生型マウスにおいて一般的な抗炎症薬投与によっても異所性骨化が抑制できるかを検証する。さらに、炎症性サイトカインとmTORの関連についても、TNFα、IL-6、IL-1の各遺伝子欠損マウスのアキレス腱損傷部におけるmTORの活性化を、また逆にRapamycin投与マウスにおけるアキレス腱損傷部の炎症性サイトカインの発現や炎症性細胞浸潤を評価することで、上流因子特定のための評価を行う。またin vitroの培養系においても、炎症性サイトカイン添加によるmTORの活性化の有無などを検証する予定である。また、アキレス腱損傷モデルにおける骨化形式が、内軟骨性骨化の形式をとるのか、膜性骨化のような形式を取るのかについても、検証を行う予定である。
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