研究課題/領域番号 |
23K09127
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57010:常態系口腔科学関連
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研究機関 | 明海大学 |
研究代表者 |
佐藤 元 明海大学, 歯学部, 講師 (10432452)
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研究分担者 |
野崎 一徳 大阪大学, 歯学部附属病院, 准教授 (40379110)
三浦 治郎 大阪大学, 歯学部附属病院, 助教 (70437383)
工藤 忠明 東北大学, 歯学研究科, 助教 (50431606)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 味覚 / 冷感覚 / 孤束核 / ロテノン / 一次感覚神経 / パーキンソン病 / 多感覚統合機構 |
研究開始時の研究の概要 |
口腔内の温度感覚は味覚を修飾する重要な因子であるが、味覚障害発症時の味覚機能と口腔内温度感覚機能を同時に評価した研究はきわめて少なく、それらの連関は不明である。本研究では、行動学的、組織学的あるいは巨視的/微視的な電気生理学的手法を用いて、末梢/中枢両観点から遅発性パーキンソン病モデルマウスで発症した苦味障害と口腔内冷感覚障害の機能連関の有無を明らかにする。本研究は、味覚と口腔内の冷感覚の機能連関解明の一助となり、その学術的意義は高い。また、本研究成果は、パーキンソン病に関連した味覚障害の発症機構の解明や、味覚障害に対する新たな治療法/治療薬の開発に繋がり、本研究の臨床的意義は高い。
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研究実績の概要 |
本研究では、ロテノンを1週間鼻腔内投与した遅発性パーキンソン病(PD)モデルマウスを作成し、その苦味感受性の低下と口腔内冷感受性の低下の因果関係を末梢/中枢両観点から明らかにすることを目的とする。今年度前半に、遅発性PDモデルマウスにおける苦味( 0.3 mM QHCl)、冷水 (5℃) およびメントール (0.3-2.3 mM) 溶液飲水時の口腔感覚機能の変化を、1ビンリッキング装置 を用いたブリーフアクセステストにより評価した。その結果、遅発性PDモデルマウスは苦味感受性の低下だけでなく、口腔内冷(メントール)感受性の低下も同時に示し、苦味感受性の低下とメントール感受性の低下との間に有意な正の相関が認められることを明らかにした。この結果は、ロテノン鼻腔内投与が味覚と冷感覚の機能連関の破綻を誘発し、その破綻に末梢神経系の障害(一次感覚神経或いは孤束核を含む局所神経回路)が関与する可能性を示唆する。一方、遅発性PDモデルマウスにおける全身(四肢)の冷感受性の変化を検討するために、温度場所嗜好性試験を実施した。その結果、遅発性PDモデルマウスの四肢冷感受性には変化を認めなかったが、通常は忌避する冷たい床(部屋)へ何度も入室してしまうという異常行動(退屈様行動)が有意に増加した。これらの興味深い結果は、遅発性PDモデルマウスに末梢神経障害が発症すると同時に、退屈様行動に関わる中枢神経障害も併発している可能性を示唆する。今年度前半に明らかとなったこれら行動実験の結果は、本年度後半に国際学術誌に投稿・受理された (Frontiers in Cellular Neuroscience, 2024 Feb 6:18:1345651)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究当初から、苦味や口腔感覚の忌避行動発現に孤束核(二次感覚神経)のカテコラミン(TH陽性)細胞を中心とした局所神経回路が関与し、その破綻が遅発性パーキンソン病(PD)モデル動物の味覚/口腔感覚障害を誘発するという仮説を立て検討してきたが、近年、味覚の一次感覚神経核である膝神経節にもTH陽性細胞が存在し、その細胞が味覚情報のみを伝えるという興味深い結果が報告された (Tang and Pierchala, 2022)。そのため、「遅発性PDモデルマウスにおける苦味や口腔感覚の変化に、膝神経節内の一次感覚神経細胞間或いは神経細胞-グリア細胞間のCross-excitationが一部関与する」という新たな仮説を立案した。そこで、孤束核のTH陽性細胞の器質的/機能的変化を検討すると同時に、膝神経節のTH陽性細胞の器質的/機能的変化にも着目した実験計画を再立案し推進した。現在までのところ、微細な膝神経節のホールマウント免疫染色方法を確立し、確かに膝神経節内にTH陽性細胞が存在することを確認できている。また、膝神経節にカルシウム指示薬 (Cal520) を負荷し、共焦点顕微鏡を用いたex vivo カルシウムイメージング法を用いて、膝神経節の神経細胞およびサテライトグリア細胞のイメージング(可視化)に成功している。現在、これら2つの手法を用いて、遅発性PDモデルマウスの孤束核および膝神経節におけるTH陽性細胞が器質的/機能的に変化するか否かの検証を進めている段階であり、本研究課題はおおむね順調に進展している状況である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、TH陽性細胞に緑色蛍光タンパク質 (GFP) を発現させたマウス:TH-GFP マウスを用いて、膝神経節内のTH細胞、非-TH細胞およびサテライトグリア細胞を区別しながら、それらの細胞の器質的/機能的変化の有無および細胞間の相互作用/機能連関の有無についてカルシウムイメージング法および免疫染色法を用いて検証する。また、一次感覚神経節(膝神経節、三叉神経節)と舌が共存するex vivo 標本を確立しつつあり、この新たな ex vivo 標本を用いて、舌刺激(味覚、メントール或いは温度刺激)時の一次感覚神経節のカルシウムイメージングにもチャレンジする予定である。イメージング記録後、一次感覚神経節のRT-PCRを行い、TH, Transient receptor potential ankyrin 1(TRPA1)およびGlial fibrillary acidic protein(GFAP)の発現動態を定量的に評価する。一方、三叉神経節/膝神経節の初代培養を行い、培養細胞の細胞体および神経突起のロテノンに対する脆弱性を形態学的に評価し、カルシウムイメージング法を用いた機能的評価を併せて行う。さらに、退屈様行動に関わると推定される不全顆粒性島皮質(AI)に着目し、AIのTH陽性線維の器質的変化を調べ、AIへカテコールアミン拮抗薬(ドパミンD1/D2受容体拮抗薬など)を微量投与した際の退屈様行動の変化についても検討する予定である。
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