研究課題/領域番号 |
23K09194
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57030:保存治療系歯学関連
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研究機関 | 九州保健福祉大学 |
研究代表者 |
中村 真理子 九州保健福祉大学, 臨床心理学部, 教授 (90284067)
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研究分担者 |
沖原 巧 岡山大学, 環境生命自然科学学域, 講師 (70243491)
吉田 靖弘 北海道大学, 歯学研究院, 教授 (90281162)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 骨 / 歯 / 粘着 / 接着 / リン酸化プルラン / 機能性分子 / 湿性組織 |
研究開始時の研究の概要 |
濡れた歯や骨に接着する材料があれば、歯質接着、歯髄再生や根尖部完全封鎖、薬剤送達やGTRの封鎖性向上など保存治療系歯学の全分野で展開され治療技術の革新的進歩をもたらす。しかしながら最先端の歯質接着材料でも濡れた歯には接着しない。そこで本研究では我々が有する歯質/材料ナノ界面と分子挙動の解析技術を駆使して、濡れた歯や骨に強固に接着する新素材を開発し、保存修復、歯内療法、歯周治療各分野への応用を目指す。
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研究実績の概要 |
濡れた歯や骨に接着する材料があれば、歯質接着、歯髄再生や根尖部完全封鎖、GTRの封鎖性向上など、保存治療系歯学で幅広く展開される。しかしながら、最先端の歯質接着材料でも、濡れた歯には接着しない。そこで本研究では、我々の有する歯質/材料ナノ界面と分子挙動の解析技術を駆使して、濡れた歯や骨に強固に接着する新素材を開発し、保存修復、歯内療法、歯周治療各分野への応用展開を目指す。初年度の令和5年度は、高リン酸化率のリン酸化多糖合成法開発に取り組んだ。唇顎口蓋裂の治療用材料として実用化展開中のリン酸化プルランは、水を溶媒として合成したため、リン酸化率は条件が整った状態でも10%程度までしか上げることができない。水系での塩化ホスホリル(オキシ塩化リン)反応においては、高いリン酸化率のものが得られないのは、アルカリ条件下で塩化ホスホリルの分解が急速に進行するため、リン酸化プルランを回収した段階では塩化ホスホリルは完全にリン酸と塩化ナトリウムに分解しているためであると考えられた。そこで、有機溶媒条件下でポリリン酸を用いて合成したところ、水を溶媒とする従来の合成品よりもリン酸置換度が高いリン酸化プルランを合成することに成功した。反面、当該合成法では、内毒素エンドトキシンが大量に残存する可能性が示唆された。リン酸化プルランの電荷がリピドAと近いこと、溶液の粘性が高いことなどから、ヒト体内で使用可能なレベルまでエンドトキシンを除去することは困難であると予想される。これに対して、実用化展開中の新素材『リン酸化プルラン』は、エンドトキシン量が検出限界以下であった。安定製造を考えてリン酸化率が4%から8%の範囲内で製造しているが、体内埋植用途に限っては水を溶媒とする従来法の方が有効であると思われる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度である令和5年度は、リン酸基数の増加と分子構造の最適化を通して湿性硬組織への接着性を高めることを目的として研究に着手した。様々な合成法を検討した結果、有機溶媒とポリリン酸を用いることでリン酸化プルランのリン酸化率を高める合成法を開発することができた。我々が創製したリン酸化プルランは、リン酸基が歯や骨の無機成分表面のCaにイオン結合する。多数のリン酸基を一分子中に有することで、湿性硬組織に粘着・接着し、封鎖性を高めることが期待される世界初の吸収性体内埋植素材である。故に、リン酸化率が向上すれば、アパタイト表面のCaとのイオン結合も増加し、接着には有利であると考えられる。本技術の臨床応用にあたっては、生体吸収性材料としてとの競合を考えねばならないが、実際のところ、臨床で多用されているコラーゲン、ヒアルロン酸、ポリグリコール酸、ポリ乳酸のいずれも生体硬組織への接着性はない。さらに、ポリグリコール酸やポリ乳酸は分解時に炎症を惹起し、コラーゲンやヒアルロン酸は生体親和性に優れるが動物由来のため未知のウイルスや病原性因子のリスクがある。これに対し、我々が創製したリン酸化プルランの原料であるプルランは、動物由来でないため未知のウイルスや病原性因子の混入リスクがない。しかも、プルラン自体がセルロース系接着剤の2倍以上の接着強さを有することが知られている。そのプルランに、硬組織の無機成分であるアパタイト表面のCaとイオン結合するリン酸基の導入率向上を達成したから、進捗状況は「おおむね順調に進展している」とした。歯科で求められる「接着」を獲得した新しい吸収性材料として、広い応用展開が期待できる。
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今後の研究の推進方策 |
実用化という観点で考えると、体内埋植に用いることも視野に入れて内毒素であるエンドトキシンの含有量と除去法を検討していく必要がある。これは、過去の開発研究でも研究代表者の中村が担当してきたことである。エンドトキシンの測定は同一の研究者が測定した方が良いということで、開発当初から担当してきた。これまでの実績として、リン酸化プルランのエンドトキシン量は、検出限界0.0078EU/ml以下を達成した。経済産業省の事業で大量製造技術を開発したリン酸化プルラン水溶液についても、ほぼ検出限界である。低エンドトキシンとして販売されているコラーゲンやヒアルロン酸などの基準が100EU/g以下であることを考えると、非常に高性能であることが分かる。その結果を受け、現在、AMED事業にてクラスⅣ医療機器『リン酸化プルランバイオアドヒーシブ』のキーマテリアルとして、パイロジェンフリー・リン酸化プルランを用いた治験機器の製造に取り組んでいる。しかしながら、リン酸基の置換率は11%がチャンピオンデータ、実用化を考えるとパイロジェンフリー・リン酸化プルランのリン酸基の置換率は4~7%程度が限界である。歯科での応用展開を考えると、よりリン酸化率の高いリン酸化プルランの合成法を確立したいところである。歯科では、用途でのエンドトキシン許容量には違いがあり、必ずしもパイロジェンフリーを目指す必要はない。例えば、間接あるいは露髄の範囲が限りなく小さい場合の直接覆髄では、ある程度のエンドトキシン量を許容できる。しかし、直接覆髄でも露髄の範囲が大きくなれば、エンドトキシン量を下げる必要があり、歯周外科ではパイロジェンフリーが望ましい。合成したリン酸化プルランのリン酸基の置換率とエンドトキシン量を考えて、研究開発を進める予定である。
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