研究課題/領域番号 |
23K09230
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57040:口腔再生医学および歯科医用工学関連
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山下 仁大 東京医科歯科大学, 歯学部, 非常勤講師 (70174670)
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研究分担者 |
野崎 浩佑 東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 講師 (00507767)
橋本 和明 千葉工業大学, 工学部, 教授 (90255159)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 2,080千円 (直接経費: 1,600千円、間接経費: 480千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | β-TCP / 表面電荷 / 超高密度表面電荷 / カルシウムイオン電導 / 骨伝導能 |
研究開始時の研究の概要 |
β-リン酸三カルシウム(β-TCP)は,生体内で吸収され骨再生を促進する吸収性骨伝導材料として幅広く利用されているが,その吸収速度に対して,骨再生速度が不足するために骨伝導能の優れた自家骨や非吸収性の骨補填材と併用する必要が生じている.そこで本研究は,骨再生速度を促進させ吸収性と調和のとれた自己組織化促進型人工骨を開発するために,β-TCPの構造中に特異的に存在する格子欠陥(空孔)と周囲に配位するカルシウムイオンにより形成される電気双極子モーメントを利用して,β-TCPの高密度表面電荷を惹起し,骨伝導能の向上させることを目的とする.
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研究実績の概要 |
外傷や炎症性疾患などにより生じた骨欠損の損傷治癒のため,様々な骨補填材が使用されている.自家骨は骨再生能に優れ骨補填材の第一選択となるが,骨採取による侵襲および新たな機能不全や採取量の制限から,人工骨の使用は必須とされている.しかしながら,生体骨のように優れた骨伝導能を有し,生体内で吸収され自家骨に置換する骨補填材は上市されていない.近年,生体材料の表面電荷と骨再生の関連性が着目されており,表面電荷が制御された生体材料は,生体反応の制御のみならず抗菌活性や埋入後の予後に影響することが報告されている.申請者は,吸収型のβ-リン酸三カルシウム(β-tricalcium phosphate: β-TCP) に着目し,その表面電荷制御試みたところ,HAの表面電荷に対し,β-TCPではその100倍以上であることを見出した.さらに申請者はβ-TCPの表面電荷メカニズムを詳細に検討し,β-TCPに特異的に存在する空孔を経由したカルシウムイオン電導が表面電荷を形成する最重要因子であることを見出した.このことは,β-TCPの空孔量を制御することにより,誘起される表面電荷の量的制御が可能であることを示唆している.しかしながら,高密度に表面電荷を付与するためには空孔量を増加させる必要があるが,このような高密度表面電荷のβ-TCPの開発に関する報告は皆無である.本研究では高密度表面電荷を誘起させるために,高度に焼結されたβ-TCPの試料を開発し,電気分極処理により表面電荷を制御した.その結果,従来と比較して60倍の表面電荷を有するβ-TCPを開発した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
β-TCPの結晶構造は,AカラムとBカラムで原子の配置が異なり,Aカラムは-P(1)O4-Ca(4)O3-Ca(5)O6-の繰り返しで,Bカラムは-P(2)O4-Ca(1)O7-Ca(3)O8-Ca(2)O8-P(3)O4-の繰り返し構造となる.β-TCP の結晶構造の特長はAカラムのCa(4)の席占有率が0.5となり,単位格子内には空孔が存在し,カルシウムイオンが空孔を経て伝導することにより表面電荷が誘起される.β-TCPは高温で焼結することによりα-TCPに相転移するため,焼結性の高い試料を得る事が困難であったが,本研究では,試料の合成を工夫することにより90%以上の焼結率を有するβ-TCP試料の作製に成功した.本試料を電気分極により表面電荷を制御するために,分極条件の最適化を行った.従来は,低温,低電圧でのみ表面電荷を制御可能であったが,本試料では高温,高電圧にて電気分極処理をすることが可能となった.本年度は,電圧を100,200,300,400V/mmにて分極処理を行い,電圧の増加に伴い,蓄積電荷量が増加することを見出した.また,表面の元素分析の結果,正電荷を有する面ではカルシウムイオンの増加が認められたことから,カルシウムイオン電導により表面電荷が誘起されていることが明らかとなった.従来は,カルシウムイオン電導の直接的な証明は困難であったが,本研究成果によりβ-TCPがカルシウムイオン電導体であることが明らかとなった.しかしながら,正電荷を誘起した面で,異種化合物の析出が認められたことから,今後,そのメカニズムの解明と生体活性に及ぼす影響を評価する必要があることが示唆された.
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今後の研究の推進方策 |
Aカラムに存在する空孔(□)がカチオン固溶の適用範囲を広げ,Feの3価カチオンの場合には2Ca(5)+Ca(4)+□= 2M3++2□のようにFe3+はCa(5)に置換(固溶限界:9.09mol%,組成: Ca18Fe2□2(PO4)14(Fe-β-TCP)し,電荷補償のためにCa(4)はすべて空孔となる(図3).空孔量はFe3+の固溶量に依存し,表面電荷を誘起するキャリアの増強が可能となることから,超高密度化が期待される.また,電気分極処理したβ-TCPのゼータ電位,表面電位やナノ粒子表面における電荷の分布をマッピング解析し,超高密度電荷を達成させる条件を検討する.また,Fe-β-TCPのバルク体を電気分極処理すると負に帯電したN面と正に帯電したP面を生ずる.これらの面における骨芽細胞や破骨細胞の活性と骨形成に及ぼす影響を評価する.評価には,マウス頭蓋骨由来MC3T3-E1細胞およびマウスマクロファージ由来RAW264.7細胞を使用し,一定期間試料上で細胞培養を行う.それぞれ細胞増殖能の評価と,骨芽細胞分化能,石灰化能,骨吸収能を評価する.生体吸収性には,β-TCPの化学的溶解性が強く相関すると考えられる.また骨形成モデルとしてリン酸およびCa2+イオンを含む溶液におけるアパタイトの析出を用いられる.これらを勘案し,ハンクス液中における溶出及び析出挙動に対する表面電荷の効果を解析する.
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