研究課題/領域番号 |
23K09423
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分57070:成長および発育系歯学関連
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
田中 陽子 (大塚陽子) 日本大学, 松戸歯学部, 講師 (50349974)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | Down症候群 / APP / DSCR1 / DYRK1A / サイトカイン / 細胞内シグナル伝達 / 慢性炎症 / 癌 / 歯周病 / Down症候群責任遺伝子 |
研究開始時の研究の概要 |
Down症候群(DS)はDS責任遺伝子が1.5倍であることに起因して,アルツハイマー型認知症の発症率が高い一方で固形癌の発症率が低いことから,病態解明のモデルや薬剤研究開発モデルとして着目されている。しかしながら現在までに,DS責任遺伝子が口腔の慢性炎症病態にどのようにかかわるのかを究明した報告はない。本研究で,DS責任遺伝子の歯周病による炎症病態における役割を解明する。DSのみならず歯周病そのものの病態解明につながる。
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研究実績の概要 |
Down症候群(DS)は固形癌になりにくいが,重篤な歯周病の罹患率は高い。慢性炎症は癌の発症に深く関与するため,この特徴はミスマッチである。DSの発癌抑制は21番染色体上のDS責任遺伝子APP,DSCR1ならびにDYRK1Aのトリソミーに起因するとの報告があることから,これらの遺伝子と歯周病との関係性を明らかにすることを目的とした。DS由来歯肉線維芽細胞(DGF)と健常者由来歯肉線維芽細胞(NGF)から無刺激でRNAを回収し,これらの遺伝子が健常者と比較して1.5倍以上あるのかを確かめた。DGFの個体差は著しかった。次にCa2+を細胞内に流入させ,炎症性疾患に関与すると指摘されている環境変化感知センサーであるTransient Receptor Potential (TRP)チャネルに着目した。DGFおよびNGFにPorphyromonas gingivalis由来Lipopolysaccharide(LPS)で刺激し遺伝子発現を確認したが,21番目染色体上のTRP melastatin2はDGFの方が低かった。LPSの病原性の弱さも考えられ,大腸癌の起因菌であるF.nucleatumについて,炎症モデルとしての有用性を確かめた。F. nucleatum生菌に対するNGFとDGFの細胞応答性を比較した。その結果,F. nucleatum接種によるDGFのサイトカイン遺伝子発現はNGFよりも有意に高く,DYRK1A が発現調整に関与しているERK1/2のリン酸化タンパク質発現はDGFの方が有意に高かった。次に細胞を回収しフローサイトメトリーを用いて細胞周期における細胞数を計測した。さらに遺伝子発現解析を行った。経時的な細胞数はDGFの方が有意に多かった。DGFの方がDNA合成期および分裂期の細胞数が有意に多かった。DYRK1A遺伝子の発現パターンに異常が生じていた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Down症候群由来の歯肉線維芽細胞(DGF)にはCell lineがなく,全て臨床から得られた辺縁歯肉から分離培養する必要がある。DGFにおける21番染色体上のDS責任遺伝子APP,DSCR1ならびにDYRK1Aの遺伝子発現量の計測結果から,Down症候群由来の臨床サンプルは健常者以上に個体差が大きいことからサンプル数は多い方が良いと判断した。そのため,現在継続して実験に供せる細胞の確立を行っているが,徐々に増えて約30サンプルとなっている。一方,健常者由来の歯肉線維芽細胞の確立数は不足しているため,スピードアップを図る。実験は細胞の確立と平行して行っている。21番染色体上にのるTRPM2遺伝子発現の低さは想定外であったため,炎症病態モデルとしての実験条件を多様にすべきと判断し,細胞への刺激をP. gingivalis由来LPS以外にF. nucleatum,それぞれの菌の Outer Membrane Vesicle(OMV),サイトカインでも行うように炎症の実験モデルの幅を広げた。 炎症過程においてNF-kappaBとMAPKの1つであるERK1/2は通常炎症関連物質の発現誘導に関与するがDS責任遺伝子はNF-kappaBの発現を低下させる一方,ERK1/2の発現は増大させると言われており,そのアンバランスさを解決することが本研究課題において重要なカギとなると考えており,現在,すべてのサンプルに対して,検証をし始めている。 以上のことから,概ね順調に進展していると考えている
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今後の研究の推進方策 |
今後,細胞表層と細胞内シグナル伝達経路における細胞応答性の違いの検討を行う。その後,APP,DSCR1,DYRK1AのDGF細胞からの欠損モデル,NGFにおけるこれらの遺伝子の過剰発現モデルの確立をする必要がある。 また,個体差が大きいため,サンプル数が必要である。Down症候群由来の細胞は30サンプル以上になっているが,健常者由来の細胞が5サンプルであり,少ない。 今後,健常者からの細胞を増やしていく必要がある。
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