研究課題/領域番号 |
23K09685
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分58020:衛生学および公衆衛生学分野関連:実験系を含む
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
原田 哲也 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主幹研究員 (70516723)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | バンコマイシン耐性腸球菌 / VRE / 線状プラスミド / 院内感染 |
研究開始時の研究の概要 |
「なぜ、多様なvanA線状プラスミドがこれほど急速に拡大しているのか。」、そして、「同一の院内感染事例内で多様化するvanA線状プラスミドについて、遺伝学的関連性を示すことはできるのか。」を本課題の核心とし、①院内感染事例で分離されたバンコマイシン耐性腸球菌のvanA線状プラスミド完全長の決定と構造比較、②多様なvanA線状プラスミドの伝達効率比較、③接合伝達前後のvanA線状プラスミド受容株のゲノム解析を実施する。さらに、①では、vanA線状プラスミドの基本構造となる塩基配列についてアライメント解析を行い、遺伝学的関連性を判断するための有用な分子疫学マーカーを探索する。
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研究実績の概要 |
令和5年度は、解析対象とする院内感染事例について代表株を決定した。2016年から2022年にそれぞれ異なる医療機関で、バンコマイシン耐性腸球菌(VRE)が10症例以上から分離された12事例について、制限酵素SmaIによるPFGEデータを比較し、類似度80%を基準として代表株を選出した。これらに加えて、本年度に報告された事例についてもPFGE解析を実施し、同様に代表株に加えた。その結果、13事例から82株の代表株を決定した。代表株は全てVanA遺伝子保有株で、Enterococcus faecium 75株、E. avium 4株、E. casseliflavus 1株、E. gallinarum 1株、E. raffinosus 1株であった。これらのうち、32株についてはイルミナプラットホームによるショートリードデータは取得済みで、その他の株についてもデータ取得を進めている。 線状プラスミドの分子疫学解析法を検討するため、ショートリードデータを取得済みの一部の株について、既報の線状プラスミドpELF2をリファレンス配列として、マッピングによる一塩基多型の抽出を行った。その結果、同一事例内の一塩基多型はすべての事例で0から3であったが、異なる事例においても同頻度で一塩基多型が抽出された。 大阪府内で採取された下水サンプルからのVRE分離法の検討と菌分離を実施した。分離法は、VancomycinおよびAztreonam添加BPWとVancomycin添加Enterococcosel brothを用いた二段階増菌培養(42℃)を用いて実施した。令和6年3月末までに60検体中18検体よりVREが分離され、VanA遺伝子保有株の一部が線状プラスミドを保有する可能性が示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度は、過去の院内感染事例の精査と代表株の選定を第一目標として本研究を実施した。また、本年度も大阪府内の複数の医療機関でVRE院内感染事例が発生したため、分離株の同定およびPFGE解析を実施し、代表株に加えた。代表株については、順次ゲノムデータの取得を進めている。代表株の3割程度についてはイルミナプラットホームによるショートリードデータの取得は完了しているが、ロングリードデータについては未着手であり、この点についてはやや進捗が遅れていると判断している。 線状プラスミドの分子疫学マーカー探索のため、一部の代表株について既報のpELF2を参照配列として一塩基多型の抽出を行い、いくつかの事例間で比較を行なった。同一事例内での一塩基多型は0から3となり、事例特異的なプラスミドも確認された。しかしながら、異なる事例間でも区別できない線状プラスミドも示されたことから、その識別能は不十分である可能性が示された。 大阪府内で採取した下水サンプルからのVRE汚染実態調査を、新たな課題として追加した。分離法については、濃縮サンプルの直接塗抹法、抗生物質添加液体培地による増菌培養法、培養温度、平板培地発育濃厚部位のスイープPCR法を検討し、42℃培養による二段階増菌培養法とスイープPCR法が有用であることが示された。令和5年11月から令和6年3月に実施した菌分離では、VanA遺伝子保有株が15株およびVanB遺伝子保有株3株が分離され、VanA遺伝子保有株の一部で線状プラスミドpELF2のヘアピン構造配列を標的としたスクリーニングPCRが陽性となり、線状プラスミドを保有する可能性が示された。
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今後の研究の推進方策 |
令和6年度は、代表株のゲノムデータ取得完了を最優先事項として、本研究を遂行する。ショートならびにロングリードデータの取得が完了した株から順次、ハイブリッドアセンブルを実施し、線状プラスミドの完全長ゲノムデータを取得する。 線状プラスミドの分子疫学マーカー探索のため、次年度は線状プラスミドの構造決定ならびに事例間での構造比較を行い、分子疫学マーカーとなりうる領域や配列を決定していく。得られた線状プラスミドの完全長ゲノムデータについて、アノテーション後に構造比較を実施する。 線状プラスミドの構造決定後、分子量や構造の異なる線状プラスミドを保有する代表株をそれぞれドナー株とし、同菌種あるいは異菌種のレシピエント株を用いて接合伝達試験を実施し、各プラスミドの伝達効率を比較する。さらに、伝達後のレシピエント株についてゲノム解析を実施し、線状プラスミド接合伝達をゲノムレベルで検証する予定である。 下水サンプルからのVRE菌分離は通算で1年間続ける予定であり、令和6年度も継続して実施する。分離法は令和5年度に確立した42℃培養による二段階増菌培養法を用い、分離株については研究費の残額、進捗状況に応じてゲノム解析を行う予定である。線状プラスミド保有株については、分子疫学マーカーの有用性を評価するための供試株とし、下水サンプル由来株が保有する線状プラスミドの多様性を検証する。
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