研究課題/領域番号 |
23K10503
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59010:リハビリテーション科学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
浦川 将 広島大学, 医系科学研究科(保), 教授 (30445811)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | fNIRS / リハビリテーション医療 / 痛み / 慢性疼痛 / 情動 / 意識 / リハビリテーション / こころ / 理学療法 |
研究開始時の研究の概要 |
異なる視覚的フィードバック誤差を生じさせる環境下として(1)仮想現実(Virtual Reality: VR)を応用した異なるフィードバック制御下での上肢運動制御、(2)運動出力を作為的に変動させた環境下でのタブレット上の目標追跡課題の二つの状況を設定し、パフォーマンス向上に及ぼす神経生理学的機構として大脳皮質脳活動と情動反応を検証する。さらに、本研究で明らかにした大脳皮質神経機構をターゲットにニューロフィードバックシステムによって賦活を試み、より効率的な運動制御が得られるか検証する。
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研究実績の概要 |
ラットを用いた動物実験では、坐骨神経一部結紮による神経障害性疼痛モデルで8週間の持続的な痛みをともなう慢性疼痛を引き起こす。ひとの慢性疼痛と類似した症状として、痛みの初期(損傷から2週間後)では情動行動を評価するオープンフィールドテストと高架式十字迷路試験において顕著な変化が見当たらないが、痛みが持続した8週間後では、どちらの評価テストにおいても不安様行動が亢進した。この不安様行動亢進には、情動関連領域の扁桃体基底外側核と海馬でのパルブアルブミン陽性神経の数が関与することが示された(Behav Brain Res, 459:114786, 2024)。痛みに対するリハビリテーション治療を念頭に、運動介入や外界からの刺激によって情動行動の変化と、情動関連領域における神経可塑性がどのような変容を示すか研究を継続している。 一方、トレッドミルの床上ランダムに点在した標的を正確に足で踏みながら歩行を継続する困難な歩行課題中のヒト脳活動を計測したところ、補足運動野、背外側前頭野、上頭頂小葉など前頭-頭頂葉間の大脳皮質活動が重要な役割を担うことが示された(Cereb Cortex, 33(22):1157-69, 2023)。このことは、通常の歩行様式とは異なり注意や集中を必要とする歩行課題特異的な脳活動が存在することを明示しており、リハビリテーションにおける歩行課題でも類似の脳活動の重要性が示唆される。歩行以外にも、種々のリハビリテーション課題と意識や集中がどのように行動パラメータとかかわっているのか研究をすすめている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ひとの慢性疼痛にも見られるような痛みが持続することで誘導される情動面の変化と、それに関わる情動脳領域を動物実験により明確にしたが、現在までのところリハビリテーション医療を模した運動介入や外界からの刺激によって痛みそのものも改善し、情動行動変化も抑制できることがわかってきた。ひとの慢性疼痛では、うつ様症状や不安症状が亢進し社会活動を含めた活動量が低下し、痛みの増悪につながる負の連鎖がもたらされる。本研究で、リハビリテーション介入によって慢性痛の改善を誘導し、そのメカニズムの一端として脳の情動関連領域におけるパルブアルブミン陽性神経細胞に着目し研究をすすめている。 ひとの歩行課題で前頭-頭頂葉皮質の活動が困難な歩行課題で重要な役割を担うことを示したが、別の種類の歩行課題についても検討をすすめている。リハビリテーションにおける歩行を念頭に、参加者の正面前方に設置した鏡によって間接的な視覚情報をもとに歩行を実施する場合、どのような脳活動が得られるか検証している。歩行にかかわらずリハビリテーション介入では視覚情報をもとに運動の軌道を修正しながら行動を実施する場合があり、これには前頭-頭頂葉の大脳皮質連携が重要であることを我々の研究室の実験で実証している(Brain Behav, 12(7):e2681, 2022)。これらの知見を基に、視覚誘導動作における大脳皮質活動を計測し、リハビリテーション課題動作における神経機序を解明する。
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今後の研究の推進方策 |
慢性疼痛にかかわる情動関連領域のパルブアルブミン陽性細胞に着目して研究をすすめているが、扁桃体や大脳皮質でのパルブアルブミン陽性細胞の機能発現に、その周囲を取り囲むペリニューロナルネットがかかわることが報告されている。キンカチョウの歌学習過程に、このペリニューロナルネットの発達が関与し、可塑性の発現と学習後の機能保持に重要な役割を果たしていることが報告されている。我々の研究室でもパルブアルブミン陽性細胞神経細胞の周囲を取り囲むペリニューロナルネットが存在し、この細胞学基質の有り無しに着目して研究をすすめている。リハビリテーション介入を模した研究で、慢性疼痛特有の症状が改善することがわかってきているが、これにパルブアルブミン陽性細胞とペリニューロナルネットの構造変化がどのようにかかわっているのか明らかにしていく。 ひとの大脳皮質研究と、集中力に関する研究では、いわゆるゾーンに入った高い集中力がパフォーマンスの躍進的な向上をもたらすことが知られている。これに関してこれまでの報告では、聴覚刺激による誘発電位を脳波によって計測し、聴覚誘発脳電位の振幅が集中度合によって変化するとされており、我々の研究室でもひとの意識と動作パフォーマンスにどのような影響がもたらされるか、聴覚はじめ視覚刺激、体性感覚刺激を用いた誘発電位の変化と意識の関係性について検証をすすめている。これまでのところ、異なる感覚モダリティによって異なる誘発電位変化が得られており、それぞれの感覚刺激による特徴について検討している。
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