研究課題/領域番号 |
23K10739
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59030:体育および身体教育学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
小林 稔季 東京大学, 大学院教育学研究科(教育学部), 特任研究員 (60966969)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
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キーワード | 運動制御 / 冗長性 / 誤差修正 |
研究開始時の研究の概要 |
身体運動による課題を正確に遂行するために、脳の運動制御系は運動の誤差を素早く検知し修正する機構を備えていることが、腕到達運動実験課題を用いて明らかにされてきた。しかし、従来の研究で抜け落ちていたのが「身体運動の冗長性」の問題である。例えば、ゴルフショット時のクラブヘッド位置が全身の姿勢に依存するように、日常的な運動課題に関わる制御対象は、課題の成否を決める変数より高い自由度を持つ。このような冗長な系において運動誤差が生じたとき、運動制御系は全身の姿勢を如何に変化させ誤差を減らすのか?本研究では、一本のスティックを両手で操作する冗長な運動課題と実践的な多自由度運動課題を用いてこの問題を検討する。
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研究実績の概要 |
たとえばゴルフショットの際のクラブヘッド位置が全身の関節角度に依存するように、日常的な運動課題に関わる制御対象は、課題の成否を決める変数より高い自由度を持つ。そのため、課題を成功させる方策は一意的に決まらず常に無数のパターンが存在する。このような冗長な系において運動誤差が生じたとき、運動制御系は全身の動作をどのように変化させることで誤差を減らすのだろうか。従来の腕到達運動では、手先位置が決まれば、対応する腕の姿勢も一意的に決まってしまうため、この問題を取り扱えない。 そこで本研究では、仮想的な一本のスティックを両手で操作する冗長な運動課題を開発した。スティック先端の位置を目標点へ到達させるための両手の動作パターンは、平行移動させたりスティックを傾けたりなど、一意的に定まらない。この冗長な運動課題を用いて、我々はこれまでに、無数のパターンがあるのにもかかわらず被験者はみな典型的な動作パターンを示すこと、先端位置の動きを徐々にずらす外乱を与えると、被験者はこの典型的なパターンに従うようにして両手の動きを無意識的に修正すること、先端位置は変えずにスティックの傾きのみを回転させる外乱を与えると、やはり典型的なパターンに従うようにして両手の動きを修正することを明らかにしてきた。おそらく、運動制御系は、冗長な身体自由度を制御する際、課題の成否に関与する次元と関与しない次元とを、固有の関係性で結び付けているのではなかと考えられる。 本年度は、この仮説の頑健性を実証するため、動作中に突然誤差が生じると意識にのぼるよりも早く修正応答が出現する運動制御系の超高速性という性質に着目した。具体的には、被験者がスティック先端の位置を目標点へ移動させている最中に、スティック全体がシフトされる、スティックの傾きが回転される、などの視覚外乱を与え、どのくらいの潜時でどのような動作変化応答が現れるのか調べた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、当初の計画通り両手スティック操作課題を用いた素早い動作修正に関する実験を進めた。その結果、随意的な応答が現れるよりも早い動作修正においても、運動制御系は課題の成否に関与する動作パターンと関与しない動作パターンを結びつける固有の関係性に沿うようにして、修正パターンがステレオタイプ化されていることを明らかにした。したがって、冗長な系における動作パターンの拘束が、運動適応のみならず素早い自動修正においても生じることを実証した。11月にはこれらの成果を北米神経科学学会にてポスター発表した。 また、赤外線マーカを用いて、ゴルフパットやティーバッティング時のスイング動作の解析に取り組むなど、より実践的な全身動作の実験準備にも着手した。 さらに、両手スティック操作課題における運動適応の実験結果は、北米神経科学学会のサテライトシンポジウムであるAdvances in Motor Learning & Motor Controlに採択され口頭発表を行い、また論文としてまとめたプレプリントを学術誌へ投稿し、現在査読中である。 したがって、積極的な成果報告も含めて研究実施状況はおおむね順調であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、両手スティック操作課題をさらに活用し、冗長な系における運動制御の基礎的知見の基盤を固めていく。具体的には、運動適応によって獲得した新たな制御則が、目標点位置や操作物体の形状などが変わった時にどれだけ汎化されるのか、スティックを消し先端位置のみ見せることで使える視覚情報を減らしたような状況では動作はどう変化するのか、などを検証する。また、実践的な多自由度運動課題も用いて、より一般的な誤差修正動態の解明を目指す。
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