研究課題/領域番号 |
23K10856
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
田中 芳夫 東邦大学, 薬学部, 教授 (60188349)
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研究分担者 |
吉岡 健人 東邦大学, 薬学部, 講師 (50758232)
小原 圭将 東邦大学, 薬学部, 講師 (90637422)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | α-リノレン酸 / n-3系多価不飽和脂肪酸 / 血管収縮抑制 / 冠動脈 / 脳動脈 / TP受容体 / トロンボキサンA2 / プロスタグランジンF2α / 収縮抑制 / DHA / EPA |
研究開始時の研究の概要 |
エゴマやチアの種子、亜麻仁、くるみの実などの植物油に豊富に含有されるn-3系多価不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸(ALA)が、その代謝物であるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)を介さずに、それ自身が独立した機序で脳動脈の収縮反応を即時的かつDHAやEPAに匹敵するほど強力に抑制する特性を検証し、その仕組みに関わる分子基盤を薬理学的・生化学的アプローチにより解明する。これにより、ALAが脳動脈攣縮に対する新たな予防戦略となることをその作用機序とともに提唱し、「日本人の身近にあるALA含有食品(植物油)を利用した疾患の予防戦略の科学的根拠の確立」に資することを目指す。
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研究実績の概要 |
研究代表者らは、ブタ冠動脈およびブタ脳動脈での検討結果から、n-3系多価不飽和脂肪酸(PUFA)に分類されるDHAとEPAが血管攣縮誘発因子であるトロンボキサンA2(TXA2)の安定誘導体であるU46619やPGF2αによる収縮反応を選択的かつ即時的に抑制することを見出し、この作用がDHA・EPAによる冠動脈や脳動脈で発生する攣縮に対する抑制効果に反映される可能性があること、DHA・EPAによる抑制効果の一部にTP受容体での拮抗作用が関与することを明らかにした。本研究課題では、エゴマやチアの種子、亜麻仁(亜麻の種子)、くるみの実などの植物油に豊富に含有されるn-3系PUFAであるα-リノレン酸(ALA)が、DHA・EPAと同様の血管収縮抑制作用を発揮する可能性を検証するとともにその仕組みを明らかにする目的で、各種摘出動脈(ブタ冠動脈、ブタ脳動脈、モルモット大動脈)での検討を行い、以下の新知見を得ることに成功した。 1.摘出ブタ冠動脈標本において、ALAはU46619とPGF2αによる収縮反応を顕著に抑制したが、高カリウム(80 mM KCl)による収縮はほとんど抑制しなかった。 2.摘出ブタ脳動脈標本においても、ALAはU46619やPGF2αによる収縮反応を顕著に抑制したが、高カリウム(80 mM KCl)による収縮はほとんど抑制しなかった。しかし、ALAはET-1による収縮反応も強力に抑制した。 3.摘出モルモット大動脈標本において、ALAはU46619とPGF2αによる収縮反応を抑制したが、その作用はブタ冠動脈、ブタ脳動脈での作用ほど強力ではなかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で一番重要な目的は、研究代表者らがこれまでにブタの冠動脈や脳動脈の標本を用いた検討により見出すことに成功したU46619およびPGF2αによる攣縮の好発部位である動脈での収縮反応に対するn-3系PUFAであるDHA・EPAの選択的抑制効果が、植物油由来のn-3系PUFAであるALAによっても発揮されうるのかどうか、また、ALAによる血管収縮抑制効果にどのような特性があり、その機序が何であるのかを明らかにすることにある。 まず、ブタ冠動脈で検討を開始し、DHA・EPAにより示されたのと同様、ALAが高カリウムによる収縮をほとんど抑制せずにU46619およびPGF2αによる収縮を強力に抑制することを見出した。モルモット大動脈でも同様の結果を得たが、ブタ冠動脈での抑制ほど強力ではなかった。ブタ冠動脈では、予備検討の段階ではあるが、他の攣縮候補物質(アセチルコリン、ヒスタミン、セロトニン)による収縮に対する顕著な抑制効果は得られていないため、ALAの抑制効果はU46619およびPGF2αによる収縮に対して選択的であると考えている。 ブタ脳動脈でもALAによる収縮抑制作用を検討し、U46619およびPGF2αによる収縮に対する顕著な抑制効果を認め、その効果はDHA・EPAに匹敵するほど強力であった。ALAは高カリウムによる収縮に対する抑制は示さなかったが、驚くべきことに、エンドセリン-1(ET-1)による収縮に対しても比較的強力な抑制作用を示した。 今後さらに詳細を吟味する必要はあるものの、ALAは冠動脈と脳動脈においてDHA・EPAと同様にTP受容体の抑制を介してプロスタノイド類による収縮反応を抑制するが、TP受容体での拮抗以外の機序によっても収縮抑制をもたらす可能性がある。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は下記のとおりである。 1.プロスタノイド類以外の刺激薬に対する抑制効果の検討。冠動脈ではアセチルコリン、ヒスタミン、セロトニンについては予備検討を行い、今のところ著明な抑制効果は得られていないが、実験をさらに追加し、実験結果を確定させる必要がある。ET-1収縮に対する検討も行ったが、持続収縮が得られていない状況にあり、精査が必要である。脳動脈では、プロスタノイド類(U46619及びPGF2α)も含め、実験例数が十分でないため、さらに検討を行う必要がある。 2.TP受容体での拮抗作用の可能性の検討。冠動脈、脳動脈のいずれにおいてもU46619による収縮はTP受容体の選択的拮抗薬(SQ 29,548)により強力に抑制されることから、TP受容体を介していると判断され、ALAがTP受容体抑制作用を有する可能性がある。この仮説を検証する目的で、両動脈標本においてU46619の濃度反応曲線に対するALAの抑制効果を検討する。また、TP受容体安定発現細胞株を作製し、細胞内カルシウム濃度変化を指標とすることにより、U46619による細胞内カルシウム濃度上昇変化に対するALAの抑制効果を検討する。 3.ALAのTP受容体以外の標的の可能性として、平滑筋のカリウムチャネルが考えられる。その根拠として、ALAが高カリウムによる脱分極性収縮に対して抑制効果を示さなかったことが挙げられる。そこで、ALAの収縮抑制作用に及ぼすカリウムチャネル分子種選択的抑制薬の影響を検討し、ALAの標的となり得るカリウムチャネルの分子種を推定する。必要に応じて、カリウムチャネル分子種のmRNA発現等を検討し、選択的抑制薬の影響と照合する。 4.以上の検討で得られた結果を取りまとめ、学会や専門誌で成果を発表する。
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