研究課題/領域番号 |
23K10922
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分59040:栄養学および健康科学関連
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研究機関 | 県立広島大学 |
研究代表者 |
齋藤 靖和 県立広島大学, 生物資源科学部, 教授 (90405514)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 細胞老化 / 複製老化 / ストレス老化 / ストレス曝露 / ヒト線維芽細胞 / 細胞老化随伴分泌現象(SASP) / Senotherapy / ストレス / SASP / Senolysis / Senostatics |
研究開始時の研究の概要 |
加齢に伴い体内に蓄積する老化細胞が様々な疾患に関わることが明らかとなり,老化細胞を標的とした様々な抗老化研究が進みつつある。申請者らは老化細胞が種々の生理活性物質を分泌する現象SASPに注目し,これまでに複数のSASP抑制化合物を見出してきた。一方,これまでにSASPの発生機構は明らかにされつつあるが,細胞を取り巻く環境や外的因子がSASPの量や質に与える影響については研究が進んでいなかった。そこで本申請では,“ストレス環境下でのSASP産生を理解し,細胞老化制御に活かす”という視点から加齢性疾患の予防・改善,人々の健康維持・増進への貢献を目指す。
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研究実績の概要 |
近年、加齢とともに体内に老化細胞が蓄積することが動物やヒトにおいて報告され、蓄積された老化細胞がサイトカインやケモカイン、細胞外マトリクス分解酵素や増殖因子、エクソソーム等さまざまな生理活性物質の分泌する現象であるSenescence-Associated Secretory Phenotype(SASP)を介して周辺組織に慢性的な炎症を引き起こし、様々な加齢性疾患の発症・進展・増悪化の素地となることが明らかとなってきた。このような背景から、老化細胞を人為的に除去(Senolysis)あるいはSASPを抑制(Senostatics)することで細胞老化を制御するなど、老化細胞をターゲットとした様々な抗老化研究が急速に進みつつあり、人類の健康寿命の延伸に向けたアプローチの一つとして注目されている。我々はこれまでに老化細胞が種々の生理活性物質を分泌する現象であるこのSASPに注目し、老化細胞制御を目的に複数のSASP抑制化合物を見出してきた。一方、SASPの発生機構は徐々に明らかにされつつあるが、細胞を取り巻く環境や外的因子がSASPの量や質に与える影響については研究が進んでいなかった。そこで本研究では、“ストレス環境下でのSASP産生を理解し、細胞老化制御に活かす”という視点から加齢性疾患の予防・改善、人々の健康維持・増進への挑戦を試みる。研究初年度の本年は、研究に用いる老化細胞をどのようにして取得し、検討を進めるすべきかという原点に立ち戻り、細胞老化の契機による老化細胞の特性が異なるのか否か?という疑問の解決から着手した。また、並行してSASP制御に有効なSenostatics化合物としてこれまで見出していたプテロスチルベン多糖体のSenostatic drugとしての応用に向けた検討も進め、その有用性を確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本課題に取り組むにあたり老化誘導した細胞を用いて検討を進めることになるが、我々はこれまでの研究結果において細胞の分裂の繰り返しによる複製老化細胞とストレス曝露等による早期老化細胞が類似性はあるものの同様の性質を有するわけではないと予測しており、老化細胞の成因にも考慮した上で検討をするべきではないかと考えていた。この考えをより確かなものとするため、初年度においては、複製老化とストレス誘導性老化の違いについてRNAシークエンス解析を用いた解析を進めた。非老化細胞、複製老化細胞、ストレス老化細胞における遺伝子の発現パターンを相互比較したところ、非老化細胞と複製老化細胞間における発現変化遺伝子数は非老化細胞とストレス老化細胞間の約3倍と大な違いが認められた。また、エンリッチメント解析から、複製老化細胞およびストレス老化細胞の両者において細胞分裂や炎症に関わる遺伝子群など老化細胞に特徴的な変化が共通して認められた一方で、両者の違いも確認された。これらの結果から、複製老化細胞とストレス老化細胞には類似性は認められるものの、全く同質の細胞とは言い難いと考えられた。すなわち、ストレス条件を制御することにより複製老化に近い細胞を誘導できる可能性はあるものの、基本的には両者は区別して評価や解析に利用されるべきという結論に至った。今後は2つの老化細胞モデルを使い分けながら検討を進めていく予定である。次に、SASP制御に有効なSenostatics化合物としてこれまで見出していたプテロスチルベン多糖体のSenostatic drugとしての応用に向けた検討を進めたところ、プテロスチルベン多糖体がsenolysis効果やsenostatics効果を介して抗老化効果を発揮する化合物であること、複数回の長期的な添加によってより高い抗老化効果につながることが示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
老化細胞由来のSASPがもたらす悪影響を緩和する手法の確立は加齢性疾患の発症・進展リスクを低減するために有効と期待されているが、SASPの産生・調節に関する基本的性質や特性の理解についてはまだ不明な点が多く、臨床応用における有効性や安全性の確立への障害となっている。そこで、本研究では特にストレスとSASPの関連性に焦点を絞り、①ストレス刺激がSASP産生に与える影響の解明、②ストレス刺激によるSASPパターン変化にも対応するより応用性の高いSenostatic化合物の探索を目標に3年計画で取り組んでいる。老化細胞はその契機により、細胞分裂の繰り返しによる複製老化とストレス曝露によるストレス誘導性老化の2つに大別することができる。そこで研究に取り組むにあたり老化誘導プロセスの違いによる差異を比較したところ、複製老化とストレス誘導性老化の間に類似性は認められるものの、全く同質の細胞とは言い難いことが明らかとなった。この結果から、今後は2つの老化モデルを使い分けて検討を進める戦略をとる予定である。そこで2年目以降はまず、複製老化細胞をターゲットに定め、申請者が得意とする酸化ストレス、光ストレス等を中心に老化細胞にストレス刺激を行い、ストレスがSASPの種類や量に与える影響を調べると共に、ストレスの種類による違いやストレス種により特異的に誘導されるSASPがあるかどうか検討を進めていく。なお、計画通り進まないときは、細胞やストレスの種類、評価方法を変更する。2024年度にストレス強度等の条件検討を行い、2025年度にかけてストレスの種類によるSASP変化の違いについて検証を行うと共に、SASP制御に有効なSenostatics化合物の探索研究も進め、最終的には、②ストレス刺激によるSASPパターン変化にも対応するより応用性の高いSenostatic化合物の発見へとつなげていきたい。
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