研究課題/領域番号 |
23K11019
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60030:統計科学関連
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研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
松井 宗也 南山大学, 経営学部, 准教授 (70449031)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 無限分解可能分布 / 裾の厚い分布 / 統計的推測 / レヴィ測度 / γ劣指数性 / 劣指数的 |
研究開始時の研究の概要 |
無限分解可能分布の統計的方法を考える。この分布は正規分布を始め多くの重要な分布を含むクラスで、実データに対してより柔軟な対応を可能にする。近年、正規分布では対応が難しい大規模かつ複雑な統計モデルが増えてきている。無限分解可能分布はこういった状況にもより柔軟に対応できる。しかし、その分布の多くは特性関数でのみ定義されるため、統計的な取扱いは必ずしも容易ではない。ここでは、特性関数の情報のみから分布の諸性質が導けないか研究する。ここでいう諸性質とは、統計的方法に理論的な妥当性を与えるための諸性質であり、分布関数が所与であれば、通常はそこから導けるものである。
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研究実績の概要 |
研究実績を「研究の目的」と「研究実施計画」に関連付けて述べるため、まずはこれらの内容を復習する。研究の目的は「無限分解可能分布の裾確率の理論研究とその統計的推測ー複雑データへの応用に向けてー」である。そしてこの目的に向けて、研究は以下に述べる3つ段階を踏んで実施される。①無限分解可能分布において、レヴィ測度に条件を与え対応する密度関数の裾の挙動を導く、②レヴィ測度の性質のみから無限分解可能分布の最尤推定量の漸近的な性質を導く、③近似的な最尤推定法を数値実験して理論との整合性をみる。 本年度は初年度にあたり、主に①の課題に取り組んだ。具体的にはレヴィ測度の密度関数(以下レヴィ密度と略)にγ劣指数性(γ-Subexponential)を仮定した上で分布の密度関数もγ劣指数性を持つことを示した。γ劣指数性とは、2つの同一の密度関数を畳み込んでできる密度関数の裾の挙動が、畳み込む前の密度関数の裾に比例することをいう。つまり、独立同一な確率変数の和の密度関数の裾は、個々の密度関数の裾の定数倍となることである。密度関数の裾が冪乗関数で近似できる正則変動の場合や、指数関数的に落ちる場合を含み、かなり広いクラスの裾をカバーしている。γがゼロの場合には既に研究成果をあげており、投稿済みの論文が国際専門誌へ掲載された。さらにγが正の場合にも取り組み一定の成果を得た。ただし、γが正の場合は、論文としてまとめるまでの結果を得るには、もう少し工夫が必要であると感じている。 課題②に関しては、同じ論文においてγ劣指数性のγがゼロのときに最尤推定量の一致性が成り立つための十分条件を導出した。 課題③に関しては、既に最尤推定量の特性関数のみを用いる近似方法を確立していた。結果をまとめた論文は、国際専門誌に投稿したものの、再投稿可という条件付きで却下された。以上がこれまでの研究実績の概要である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究実績の概要」欄で述べたように、本採択課題では、研究目的に向けた研究実施は3つ段階を踏んでなされる。これらの3つの段階の研究を上述したように、①、②、③の記号で表すものとする。 ①の課題は、レヴィ測度の密度関数(以下レヴィ密度と略)がγ劣指数性(γ-Subexponential)を持つ場合の研究であった。ここでγは非負で、γがゼロのときは結果をまとめた論文が既に国際専門誌に掲載されている。更にγが正の時の結果もほぼ出ていて、論文としてまとめられるまでにあと少しの段階まで来ている。 課題②に関しては、上述した公刊論文においてγがゼロのときに最尤推定量の一致性の十分条件は出した。γが正の時もγがゼロの時の方法を用いれば、最尤推定量の一致性の条件が同じように出せると予想できる。従って実質的に残る研究課題は、最尤推定量の漸近正規性の条件導出のみである。 課題③に関しては、安定分布に限定したもので、最尤推定量の近似方法を既に確立していた。特性関数のみを用いる方法である。論文は、国際専門誌に投稿したものの、再投稿可という条件付きで却下されていた。残る作業はこの論文を改訂し再投稿することである。更に、課題③を完了するには、一般の無限分解可能分布において最尤推定量の近似方法を確立することである。安定分布の場合と同じ方法を用いれば良いが、その近似の妥当性を証明する必要がある。 上記の状況に鑑み、研究段階①、②、③のいずれにおいても初年度の研究は順調に進展していると見なせる。
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今後の研究の推進方策 |
研究実績の概要で述べたように、本採択課題は3つ段階を踏んで研究が実施される。これらの3つの段階の研究を表すのに①、②、③の記号を用いる。この記号は上述した3つの課題に対応している。 課題研究①については、γ劣指数性のγが正の場合に取り組んで一定の成果を得ている。ただし、この場合は先行研究の結果を応用すれば比較的容易なので、論文としてまとめるためにはもうひと工夫が必要である。そこで、無限分解分布用いた統計モデルにフォーカスを当てた。現在までに以下の事が示せた。レヴィ測度の密度関数に正のγ劣指数性を仮定すれば、統計モデルに現れる確率変数の密度関数もγ劣指数性を持つ。例えば、レヴィ過程により駆動される確率微分方程式モデルなどが考えられる。これらの結果を数学的にきちんと定式化する。その結果を加えれば、内容的にも論文としてまとめらる研究成果となる。 課題②に関しては、まずγが正の場合に最尤推定量の一致性の十分条件を導出する。それは課題①の研究と同時に行う。その後、最尤推定量の漸近正規を示すのに必要な分布の性質を特性関数のみから導けないか研究する。これには分布がγ劣指数性を持つ以上の条件が必要である。少なくとも安定分布というサブクラスに関して条件は導出されている。必要ならば、まずは無限分解可能分布のサブクラスに制限して条件を導こうと考えている。 課題③に関しては、まず安定分布に関する近似的最尤法の結果を改訂し再投稿する。改訂は非常に軽微なもので済む予定だが、自分の在外研究の準備に時間を取られてそのままにしていた。研究を完了するには、一般の無限分解可能分布において最尤推定量の近似方法を確立することが必要である。この研究は時間がかかるので、次年度も視野に入れ長期的に取り組みたい。
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