研究課題/領域番号 |
23K11086
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分60060:情報ネットワーク関連
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
藤原 明広 千葉工業大学, 工学部, 教授 (70448687)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 2,860千円 (直接経費: 2,200千円、間接経費: 660千円)
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キーワード | ブロックチェーン / クロスチェーン相互運用生 / 性能評価 / ブロック時間 / 確率モデル / ガンベル分布 / 相互運用性 / 分散合意アルゴリズム / 非中央集権性 / Web3 |
研究開始時の研究の概要 |
ブロックチェーンを積極的に活用したインターネットのビジョンとして,近年Web3という言葉が話題になっている.ビットコインの登場以来,様々なブロックチェーンの実験的な利用が試みられて久しいが,実はブロックチェーン技術を実用化する為には様々な課題が山積している.その一例として,ブロックチェーンをみんなが使い出すと取引処理が混雑して,思うように使えなくなってしまうというスケーラビリティ問題がある.この問題を解決する為には,ブロックチェーン間で安全かつ高効率に通信を行う相互運用性が必要になってくる.本研究では,この相互運用性に焦点を当て,この性能を究極まで高めるシステムを理論と実験の両面から研究する.
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研究実績の概要 |
Bitcoinの登場以来,さまざまなブロックチェーンプロジェクトが登場した.これに伴い,ブロックチェーン間で暗号資産を安全に交換する需要の増加から,複数のブロックチェーン間で相互に情報を読み書きできる特性としてのクロスチェーン相互運用性が注目を集めるようになってきた.研究代表者らはこれまでにオフチェーンにクロスチェーン相互運用性を実現するための共通ルールとして,チェーンレス多層合意を提案してきた.一方,PolkadotやCosmosのようにオンチェーンで共通ルールを整備する方式も検討されている.本研究では,これらの方式を比較することで,この特性を理論と実験により様々な角度から評価した.チェーンレス多層合意については実験的に評価できるブロックチェーンが見当たらないため,研究代表者らが独自に実装したノードプログラムを用いて実験を行った.ブロックチェーンの数を数十から数百程度に変化させてブロックチェーン間で相互運用のための共通ルールを実行したときの取引処理性能について評価した.その結果,ブロックチェーン数の増加と共にブロック時間が超線形に増加する傾向を確認した.また実験によって得られたブロック時間のデータを用いて,安全にクロスチェーン相互運用が可能な設定について考察した. Cosmosなどのビザンチン障害耐性合意ブロックチェーンにおけるブロック伝搬と検証にかかる時間を理論的に説明する確率モデルを提案した.この確率モデルを理論解析するこ とで,ブロック検証ノード数が十分大きいときに,ブロックのブロードキャスト時間がガンベル分布に従うことを示した.またブロック時間分布が三つの独立なガンベル分布の合成積となることを示し,鞍点法を用いることでこの確率分布の近似表現も導いた.Cosmos のブロック時間のデータに近似表現を適用することで,ブロック時間のゆらぎを定量的に説明することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初予定していたPolkadotやCosmosなどのクロスチェーン相互運用性を持つブロックチェーンの調査や提案手法であるチェーンレス多層合意の性能評価を順調に進めることができた.またこの研究成果をブロックチェーン関連の国際会議でも研究発表することができた.この研究に関する一連の研究成果により,共同研究者の柳原貴明氏(諏訪東京理科大学助教)がネットワークシステム研究会の若手研究奨励賞を受賞した. これに加えてCosmosなどのビザンチン障害耐性合意ブロックチェーンにおける検証ノード間のブロードキャスト時間やブロック時間の統計的な性質を説明する理論を構築することもできた.この理論はクロスチェーン相互運用性の理論にも応用可能であることから,この点において当初の計画以上に研究が進展していると言える. 更に様々なブロックチェーン関連の研究集会に参加し,最新の研究動向について議論することができた.IMI共同利用研究「暗号資産の取引データおよびTwitterデータのTopological Data Analysis」では,暗号資産取引のデータ分析に関する議論ができた.2023年電子情報通信学会ソサイエティ大会において「Web3.0時代における非中央集権型ネットワーク技術とその応用」というタイトルで企画セッションの座長を務めた.今後のブロックチェーン関連の研究動向だけでなく,量子マネーなど,より広い視野から研究を議論できた.また国際会議Blockchain Kaigi 2023の組織委員の一員として国内外の企業や大学に所属するブロックチェーン研究者等を誘致することができ,理論から応用まで多様な研究内容について議論し,研究者間の交流を深めることができた.これらの研究交流のおかげで本研究を遂行するアイデアも沢山生まれている.これが当初の計画以上に研究が進展している理由だと思われる.
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今後の研究の推進方策 |
これまで遂行してきたチェーンレス多層合意などのクロスチェーン相互運用性技術の研究はブロックチェーンのスケーラビリティ問題の改善に主な問題意識を置いており,取引処理性能を評価する研究に注力してきた.しかし,近年のクロスチェーンブリッジの攻撃による暗号資産の流出事件の頻出を踏まえた時に,安全なクロスチェーン相互運用性技術を前提とした性能改善が必要であることが認識されるようになった.この観点から,これまでの研究提案にセキュリティの視点を組み込むことを今後の研究方針として,更に研究を進めていきたいと考えている.また当初の予定通り,免疫やガン抑制などの生物界のセキュリティ機構に着想を得た仕組みをブロックチェーンのシステムに応用する方式の検討も進めていきたい.またクロスチェーン相互運用性を安全に実現するためには,ブロックを迅速に確定(ファイナライズ)することが鍵となる.この確定が完了する時間について,ブロック時間分布の理論解析の結果を応用することで,理論的に考察できる可能性があるため,この方針でも研究を進めていく.他にも異なるブロックチェーン間で暗号資産を交換するまでにかかる時間やブロックチェーンのシャーディングを行った時のブロック時間など,ブロックチェーンを並列処理する様々な仕組みに関する理論解析を進めていきたい.これらの成果をまとめることで,クロスチェーン相互運用性に関する基礎理論の構築を目指す.
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