研究課題/領域番号 |
23K11162
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61010:知覚情報処理関連
|
研究機関 | 電気通信大学 |
研究代表者 |
岡田 佳子 電気通信大学, 大学院情報理工学研究科, 特命教授 (50231212)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
|
キーワード | バクテリオロドプシン / 画像フィルター / 空間フィルタリング / 視覚受容野 / 錯視 / 光受容タンパク質 / 視覚神経細胞 / 方位錯視 |
研究開始時の研究の概要 |
視物類似の光合成タンパク質自身がもつ微分演算機能とたたみ込み演算機能を,加工せずにそのまま利用した画像フィルターを作製し,方位錯視の検出に適用する.このデバイスは,視覚ニューロンである網膜神経細胞および第一視覚野単純細胞の視野である「受容野」の応答出力を模倣したもので,「作ることにより理解する」という構成論的手法に基づいて研究するためのハードウェアである.方位錯視のひとつカフェウォール錯視が網膜と脳のどちらで生じるのか,たたみ込み演算のみで説明できるのかなど,錯視が生じるメカニズムの解明に貢献できると考える.
|
研究実績の概要 |
本研究の目的は,光受容タンパク質バクテリオロドプシンをデバイスレベルで取り入れた視覚情報処理素子を作製し,錯視検出に適用することである.計算機シミュレーション(フィルタリング)結果や心理物理学的実験との連携を図り,錯視が生じる場所やメカニズムの解明に臨んだ.視覚ニューロンである網膜神経細胞および第一視覚野単純細胞の視野である受容野の応答出力を模倣した人工受容野デバイスを実現することによって,網膜と脳の単一のニューロン受容野の応答を個別に議論することができる.デバイスは,タンパク質ナノインクとマテリアルプリンターを用いて,透明電極上に受容野形状をインクジェット印刷するプリンタブルエレクトロニクス技術を用いて作製した.生体材料自身が光合成機能と畳み込みという視覚機能をもっているため,外部電源が不要,外部演算回路やソフトウェア使わずに画像を走査するだけで畳み込み画像が得られるサステイナブル素子である.網膜神経細胞受容野形状を模倣した多値化DOGフィルターは,境界線を強調して感じ取る側抑制を再現し,入力画像を走査するだけで画像の輪郭検出および明暗錯視を再現できることを実証した.さらに,第一視覚野単純細胞受容野形状を模倣したcos型多値化Gaborフィルターを,方位錯視であるCafe Wall錯視検出に適用し,DOGフィルター実験結果との比較,計算機シミュレーションや心理物理学的実験と比較した.その結果「方位錯視は網膜と脳のどちらでどのように起こるのか?」いう議論に新しい知見が得られた.
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これまでに確立したマテリアルインクジェットプリンターによるタンパク質ナノインクの積層印刷条件を用い,網膜神経節細胞および単純型細胞を模倣した二種類の画像フィルターを作製し,アナログ画像処理への適用に成功しただけでなく,これまでにデバイスでは例のない「錯視の検出」に成功した.網膜神経細胞受容野を模倣した多値化DOGフィルターでは,畳み込み演算せずにデジタル画像演算処理と同様のエッジ検出結果が得られた.また明暗錯視の一つであるシュブルール錯視に適用したところ,隣接した面の境界に明暗の線が出力し,その出力比は1:3と非対称となり,明暗の出力が対称となる計算機シミュレーション結果と一致しなかった.文献調査によると,ネコのX型神経節細胞に光エッジを走査すると正負の応答が非対称(およそ1:3)であり,その理由はX型神経節細胞の応答時間が中心より周辺領域の方が遅いためで,遅れを考慮した計算機モデルでも非対称が確認されている.本研究で作製した多値化DOGフィルターは,神経節細胞の中心周辺間の応答遅延までも再現した視覚ニューロン素子であることを実証した.方位錯視の代表であるCafe Wall錯視は,心理学実験や,DOG/Gaborカーネルを用いた計算機シミュレーションによる構成論的手法によるアプローチしか行われてこなかったが,本研究で実現した視覚デバイスによって「作ることにより理解する」という本来の構成論的手法に基づく実験結果より知覚の仕組みが異なることがわかった.3件の原著論文発表および国際会議2件(招待講演1件,一般講演1件),国内会議1件の成果発表を行ったことから,当初の計画通りの進捗状況と考える.
|
今後の研究の推進方策 |
視覚研究ツールとして方位錯視の一つであるCafe Wall 画像に注目し,標準画像の大きさ(タイルサイズ),タイルシフト量,モルタル線幅,タイル/モルタル線輝度を変えることによって,デバイスによる錯視強度の定量化をめざす.多値化素子はフィルターなので,計算機シミュレーション(DOGフィルタリングおよびGaborフィルタリング)結果と比較する.これまでに行った心理物理実験は,眼と脳を通った最終結果であるため,単純にシミュレーションやデバイス実験結果と比較することはできないが,ヒトの眼や脳に電極を接続して電位測定を行うような生理学的実験を行わずに,ヒトと同様に錯視を検出する能力をもつ「錯視するデバイス」の検出したフィルタリング結果との類似点・相違点を詳細に検討することによって,視覚機能の理解,錯視メカニズムの解明に貢献できると考える.
|