研究課題/領域番号 |
23K11172
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61010:知覚情報処理関連
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研究機関 | 千葉工業大学 |
研究代表者 |
竹本 浩典 千葉工業大学, 先進工学部, 教授 (40374102)
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研究分担者 |
高橋 純 大阪芸術大学短期大学部, その他部局, 講師 (50883055)
榊原 健一 北海道医療大学, リハビリテーション科学部, 准教授 (80396168)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | オペラ歌唱 / 声道 / リアルタイムMRI / 頸椎 / 横隔膜 / 声帯 / 歌唱フォルマント / rtMRI / シミュレーション |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、オペラ歌唱技術、すなわち、特有の響き、豊かな声量、広い音域を実現するための発声器官の制御を明らかにする。発声器官は体内にあるため、その制御は直接観測できない。しかし近年、リアルタイムMRIにより、歌唱中の発声器官の運動を動画として記録することが可能となった。その動画の各フレームから発声器官の輪郭を抽出すれば、発声器官の制御を統計的に分析できる。例えば、複数の歌手で音高を変化させるときの発声器官の輪郭の変化を主成分分析すれば、音高の変化に必要な制御を検討できる。同様にして響きや声量に関する発声器官の制御も検討する。さらに、得られた知見を歌声の生成シミュレーションで検証する。
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研究実績の概要 |
この科研費では、①声量に関する歌唱技術、②音高に関する歌唱技術、③共鳴に関する歌唱技術を解明することを3つのサブゴールとしている。2023年度はいずれのサブゴールについても順調に成果が得られているが、特に③の共鳴に関する歌唱技術について大きな成果が得られた。 オペラ歌唱特有の響きは、歌唱フォルマントに由来すると言われているが、どのような声道の制御によって実現されているか明らかでなかった。そこで、プロのオペラ歌手にオペラの歌唱法を用いた発声(声楽的な発声)と用いない発声(非声楽的な発声)で母音を発声した際の声道形状をMRIで計測した。その結果、声楽的発声では非声楽的な発声に比べて喉頭が下降して咽頭腔が下方へ拡大し,口の開きが増大して口腔が拡大した。咽頭腔の拡大は、喉頭腔と咽頭腔で大きな断面積比を生じ、喉頭腔をその他の声道から音響的に独立させ、喉頭腔の微小変形のみで喉頭腔共鳴に由来する第4フォルマント(F4)を制御することを可能にする。そのため喉頭前庭部が狭まることでF4周波数が下降し、声道の他の部分に由来する第3フォルマントと近接してクラスターを形成することが明らかになった。このクラスターが歌唱フォルマントの主要因であるという仮説が得られた。 上記3つのサブゴール以外に、得られた知見を活かした歌唱指導の有用性の検討も行った。1名の男子学生に1年間の歌唱指導を行い,その前後で発声時の声道形状をリアルタイムMRIで計測した。その結果,歌唱指導によって母音によらず口が開き,口腔と咽頭腔が拡大して喉頭が下降した。そして,咽頭腔の拡大により,歌唱フォルマントが生成されるようになり、プロによる歌声の評価スコアが有意に上昇した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データの取得とその分析はおおむね予定通り進行している。2023年度はオペラの歌唱指導を受けている学生1名、プロの男性オペラ歌手2名を実験参加者としてMRIの撮像を行った。全ての実験参加者に対して、母音発声時の声道の立体形状を計測し、歌唱中の正中矢状断面における声道形状と右肺中央を通る矢状断面における横隔膜の運動をリアルタイムMRIで動画として記録した。 この科研費のサブゴールは3つで、①声量に関する歌唱技術、②音高に関する歌唱技術、③共鳴に関する歌唱技術を解明することである。①に関しては、得られた右肺の形状変化から肺圧を推定することにより、跳躍進行時において音高が下行する際に、吸気時に見られるように横隔膜を一時的に下降させて肺圧を下げることにより声量を制御している可能性があるという知見が得られた。②に関しては、動画フレームから抽出した声道形状と頸椎の輪郭を主成分分析し、口の開きおよび頸椎の後弯の度合いが音高と相関するという結果が得られた。③に関しては、歌唱フォルマントは喉頭が下降することにより咽頭腔が拡大し、喉頭腔の音響的独立性が向上して第3・4フォルマントが近接することにより生成される、という仮説が得られた。すなわち、3つのサブゴールについてそれぞれ順調に研究成果が得られている。
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今後の研究の推進方策 |
3つのサブゴールについて現在得られている仮説などを、それぞれ実験参加者を増やして検証する。①の声量については、音高の下行時だけでなく、クレッシェンド・ディクレッシェンドなどでも肺の容積変化から肺圧の変化を予測して検討する。②の音高については、実験参加者として不足している女性歌手に協力を依頼し、音高の上昇につれて頸椎の後弯が大きくなるかどうかを検討する。また、頸椎の後弯によって、喉頭軟骨相互の位置関係がどのように変化するか推定し、声帯張力が増加するメカニズムも検討する。③の共鳴については、実験参加者を増やすとともに母音間の違いについても検討する。また、単純化した声道モデルを用いて、喉頭腔の音響的な独立性が高くなると聴覚的な印象がどのように変化するか検討する。 さらに、サブゴールとはしていなかったが、得られた知見を活かした歌唱指導の有用性についても引き続き検討する。これは、実験参加者の男子学生が歌唱指導を受け始める前と1年後に声道と横隔膜の運動のリアルタイムMRI撮像を行っているので、2年後にも撮像を行って形状や音声の変化を検討する。
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