研究課題/領域番号 |
23K11250
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61040:ソフトコンピューティング関連
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研究機関 | 九州工業大学 |
研究代表者 |
立野 勝巳 九州工業大学, 大学院生命体工学研究科, 准教授 (00346868)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 2,990千円 (直接経費: 2,300千円、間接経費: 690千円)
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キーワード | 観察迷路学習 / スパイキングニューラルネットワーク / GPU / 観察学習 / 海馬 / 前頭前野 |
研究開始時の研究の概要 |
ラットは、同種他個体が課題を遂行する様子を観察し、自身の課題遂行時に生かすことができる。これを観察学習といい、迷路課題における観察学習においては、海馬や前頭前野という脳領域が関与している。本研究では、ラットの海馬と嗅内皮質の場所表現、およびナビゲーション機能に注目し、電気生理学的知見を元に、海馬・嗅内皮質・前頭前野のスパイキングニューラルネットワークモデルを提案する。提案ネットワークモデルを用いて、迷路課題の観察学習を遂行する計算機シミュレーションを行う。加えて、移動ロボットと提案ニューラルネットワークモデルを接続し、移動ロボットのセンサー情報を元に実環境で観察学習を行うようにする。
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研究実績の概要 |
本研究の目的は、海馬および嗅内皮質のスパイキングニューラルネットワークを用いて、他者の位置を海馬内に表現するメカニズムを提案し、メンタルシミュレーションを通して、他者ラットの行動を自己の行動に反映させるニューラルネットワークを提案することである。メンタルシミュレーションの要素として海馬リプレイを想定し、まず行動後に場所細胞がリプレイするためのスパイクタイミング依存性可塑性(Spike-timing-dependent plasticity, STDP)関数の形状を検討した。典型的な対称型STDP関数と非対称型STDP関数のいずれの形状でもリプレイを起こすことができることを確認していたが、STDP関数の形状はシナプス調節物質により変化することから、動物の状態に応じて自律的に使い分けられるようにするほうが課題に適した結果を得られると考えた。そこで、細胞内Ca濃度依存シナプス可塑性を導入し、神経調節物質の影響を考慮することで対称型STDP関数と非対称型STDP関数を使い分けられることを確認した。加えて、リプレイにはアダプテーション特性を有するニューロンを用いる必要があった。 大規模なスパイキングニューラルネットワークでは、連立微分方程式を数値計算により求めるため、計算負荷が高く、時間がかかる。これらを高速に計算するために、2枚のGPUを用いた計算に取り組んだ。ネットワーク規模を小さい場合は、2枚のGPUを用いて得られる効果は小さかったが、100万ニューロンの計算になると、1.8倍程度高速に計算できることを確認した。いくつかの条件下での性能の比較を行ったが、様々あるGPUのオプションを用いれば、さらなる高速化が期待できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
嗅内皮質と海馬の領域ごとにニューラルネットワークモデルを作成している状況である。嗅内皮質ネットワークでは、自分と他者の位置関係に依存して発火する神経細胞であるランドマークベクトル細胞を導入している。自分の位置に対して他者の相対的な方位と距離に特定の神経細胞が発火する。当研究室の先行研究では、方位と距離の範囲を制約して用いたが、制限せずに用いるように修正した。 海馬ネットワークでは、ドーパミンで変調される対称型STDP関数と非対称型STDP関数のそれぞれにおいて、迷路課題において順方向リプレイと逆方向リプレイが生じるシミュレーション手順をまとめた段階である。いずれのSTDP関数においてもリプレイが生じることと、報酬量に応じて各リプレイの頻度が変わることを確認した。また、ニューロンの特性として、アダプテーションを導入している。さらに、STDP関数を手動で使い分けるのではなく、細胞内Ca濃度依存のシナプス可塑性を導入し、アセチルコリンによるシナプス結合への抑制効果を加えることで、STDP関数の形状が連続的に切り替わることを確認した。 大規模なニューラルネットワークの計算をするために、2枚のGPUボードを搭載したHPCを導入した。ニューロンモデルの連立微分方程式の数値計算は計算負荷が高く、計算に時間を要する。並列に処理することで、計算の高速化を図った。ニューロン数が1000個程度のときは、複数GPUを用いる効果は大きくないが、200,000個~1,000,000個の規模になると、複数のGPUを用いたほうが2倍弱高速になることを確認した。さらなるアルゴリズムのチューニング次第でより高速になることが期待できる。 現時点ではCA3ネットワークの作成は進んでいるが、他者の場所細胞を組込んだCA1ネットワークができていないことから「やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
細胞内Ca濃度依存性シナプス可塑性を海馬CA3ニューラルネットワークモデルに導入し、自己の位置に対応する場所細胞間のシナプス結合荷重を変調する仕組みを導入する。この仕組みの導入により、まず海馬リプレイが起こることを確認する予定である。探索時と休息時のアセチルコリン濃度の違いによるシナプス可塑性の違いを利用して、記銘過程と想起過程を実現する。 CA1ニューラルネットワークモデルを次のように作成する。嗅内皮質ネットワークのランドマークベクトル細胞と、海馬CA3ネットワークの自己位置を示す場所細胞からの入力を統合することで、他者の位置を表す場所細胞を形成する。他者の移動に合わせて、場所細胞が活動し、場所細胞間のシナプス結合荷重が変調され、他者場所細胞間でも海馬リプレイを起こすことが期待される。 CA2ニューラルネットワークモデルを次のように作成する。CA3とCA2の結合パターンの違いを考慮し、CA2特有のネットワークパターンを作成し、他者を区別するネットワークとする。 複数のGPUを用いた計算の効率化をさらに進める予定である。細胞内Ca濃度依存シナプス可塑性を加えたニューロンモデルやより複雑なニューロンモデルでの並列計算が構築できるようにする。海馬の各領域を統合したニューラルネットワークを構築する場合、CA3、CA2、CA1のように海馬の中でも異なるレイヤーを組み合わせる必要があり、効率的に計算できるようにアルゴリズムを修正する。
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