研究課題/領域番号 |
23K11283
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分61060:感性情報学関連
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
加藤 邦人 岐阜大学, 工学部, 教授 (70283281)
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研究分担者 |
寺田 和憲 岐阜大学, 工学部, 教授 (30345798)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
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キーワード | 深層学習 / 異常検知 / 潜在空間 / 画像生成 / GAN / 官能検査 / 感性量の定量化 / 感性評価 / 敵対的生成ネットワーク / 潜在空間探索 |
研究開始時の研究の概要 |
官能検査では人の感性によって検査を行うため、熟練には相当の経験が必要となる。また、検査指標の言語化が難しいため、評価の統一や技能伝承が難しい。一方、熟練検査員はわずかな言語情報や限度見本だけで安定した官能検査を実現する。これを実現する認知メカニズムとして、熟練検査員が対象製品のばらつきや、良/不良に対する感性量の特徴空間上の分布を経験的に獲得しており、その空間中に判定のための部分空間を少ない情報から決定できる、との仮説を立てた。本研究では深層学習モデルにより学習した潜在空間上で良/不良判定に必要な部分空間の獲得方法、ならびに部分空間を決定するための官能検査員への感性調査を行う方法を研究する。
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研究実績の概要 |
熟練官能検査員の感性量定量化のための敵対的生成ネットワークの潜在空間探索に関する研究を行った。本研究では、木材の品質評価における官能検査の自動化と精度向上を目指した。具体的には、深層学習を用いて木目画像の特徴空間を解析し、熟練検査員の感性量を定量化する手法を開発した。 まず、従来の官能検査の課題として、評価基準の言語化が難しく、検査員間での評価の統一や技能の伝承が困難であった点が挙げられる。この問題を解決するために、研究では敵対的生成ネットワーク(GAN)の一種であるStyleGAN2を用いて木目画像の潜在空間を学習し、InterfaceGANを用いて主要な評価軸を抽出した。この方法により、木目の特徴を高精度で解析し、官能検査の自動化を実現するための基盤を構築した。 次に、得られた潜在空間から生成した仮想の木目画像を用いて感性調査を行った。具体的には、一対比較法を用いて複数の画像ペアを官能検査員に提示し、どちらが優れているかを評価させた。これにより、検査員の判断基準を定量化し、潜在空間内での良品と不良品の識別境界を設定した。 研究の結果、InterfaceGANを用いた本手法は、従来の手法(AutoEncoderやAnoGAN)と比較して、良否判定の精度が大幅に向上し、AUROC値0.760を達成した。 今年度の研究では、木目感性評価の潜在空間の獲得、ならびに主要な評価軸抽出法の開発を達成した。また、実際に熟練検査員へのインタビューを通して、感性調査方法を研究し、潜在空間上の良品部分空間の獲得法を確立した。これにより、従来法では検査が難しかった熟練検査員の感性量を潜在空間内で決定し、ある程度の説明性を獲得した。 以上の成果により、官能検査における品質管理プロセスの効率化と精度向上を実現した。特に、官能検査の自動化と熟練検査員の判断基準の定量化を可能とした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度の研究では、木目画像の官能検査を対象として研究を行った。 この研究では、木製製品の木目の官能検査において、従来の異常検知手法では困難であった良品と不良品の境界を、GANの潜在空間を利用して明確にすることである。木材は自然物であり、その色やパターンが多様であるため、従来の方法では高精度な分類が困難であった。本研究では、GANの潜在空間を用いることで、人間の感性に基づく品質評価を定量化する手法を研究した。 まず、木目画像を用いてStyleGAN2を学習し、木目の潜在空間を獲得した。次に、GANSpaceを用いて潜在空間の主成分分析を行い、木目の画像的要素を操作する方向を開発した。次に、この方向に沿って潜在変数を動かし、特定の画像的要素のみが変化する木目画像を生成し、生成された画像を検査員に提示することで感性調査を行う方法を考案した。ここでは、2枚の画像を提示し、どちらが良いかを聞く相対評価に基づきデータを収集した。収集したデータから良品と不良品の識別境界を決定し、提案手法の有効性を検証した。 実験の結果、提案手法はAutoEncoderやAnoGANと比較して、木目の官能検査に対して高い分類精度を示した。特に、累積寄与率の50%以上の主成分数を使用することで、木目の良し悪しの分布を高精度に推定できることが確認された。また、検査員の個人差も反映される結果となり、各検査員の感性に基づく良し悪しの分布が得られた。 さらに、提案手法は検査員の判定理由である縞の濃さや地の色の濃さを考慮した評価が可能であることが確認された。これにより、検査員の経験や感性に依存せず、客観的な評価基準を確立することができる。 以上のように、本年度の研究は、GANの潜在空間を用いた木目画像の官能検査において重要な技術的問題を解決し、今後の実用化に向けた基盤を築くことができた。
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今後の研究の推進方策 |
まず、現象をより理解しやすくするために、対象を視覚刺激として単純なものとして実験を行う。具体的には、誰でも知っている目玉焼きを対象とする。目玉焼きは人により好みが異なるが、それほど大きくは変わらないため、評価の基準として適している。この目玉焼き画像を大量に取得し、学習データセットを作成する予定である。 次に、目玉焼き画像データセットを用いて、より効果的な学習アルゴリズムを開発する。目玉焼きの焼き加減や形状、色合いなど、評価に影響を与える要素を適切に学習できる手法を検討する。また、GANなどの生成モデルを用いて、目玉焼き画像の潜在空間を獲得する。この潜在空間を通じて、目玉焼きの特徴量を抽出し、個人の好みを反映できるようにする。さらに、目玉焼きに対する評価用語を収集し、評価軸を定める。このプロセスには、評価用語のアンケート調査法の開発が必要となる。収集した評価用語を基に、評価軸を設定し、個人の好みに応じた評価ができるようにする。この評価軸により、目玉焼きの好みを定量的に評価する基準を確立する。そして、潜在空間上で個人の好みを識別する手法を開発する。これにより、個々の好みを反映した評価モデルを構築し、目玉焼きの好みをより精確に反映する。 また、Large Vision Language Model(LVLM)の研究にも着手する。具体的には、収集した個人の好みデータセットを用いてLVLMを学習させ、そのモデルがどの程度その人と同じように言語で好みを表現できるかを調査する。これにより、LVLMが人間の感性をどの程度理解し、表現できるかを評価することが可能となる。最終的に、言語で回答できるLVLMを利用することで、感性量を定量的に図る手法を確立することを目指す。これにより、従来の官能検査における主観的な評価を、より客観的で再現性の高い評価に進化させることが可能となる。
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