研究課題/領域番号 |
23K11329
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分62020:ウェブ情報学およびサービス情報学関連
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
撫佐 昭裕 東北大学, サイバーサイエンスセンター, 客員教授 (40639655)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,250千円 (直接経費: 2,500千円、間接経費: 750千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 津波災害 / デジタルツイン / 津波 / 防災 / 高速処理 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は,津波災害を対象とした災害デジタルツインシステムについて調査・研究を行い,プロトタイプシステムの試作を行うものである.2011年の東日本大震災で発生した巨大津波では,津波災害に関する情報の空白化や断片化が発生し,被災全体の把握が困難になり,災害初期対応と復旧に大きな遅れが生じた.本研究は,津波災害における被災情報の空白化や断片化された情報を補完し,さらに被災を受けた地域の社会動態を先読みすることを可能とする災害デジタルツインシステムを実現するための技術要件を調査・研究するものである.
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研究実績の概要 |
本研究は、南海トラフ地震などの大規模災害が懸念されている中、津波を対象とした災害デジタルツインシステムについて調査・検討を行い、プロトタイプシステムの試作を行うものである。ここで、本デジタルツインは政府や自治体をターゲットとしたものである。本年度は、災害発生時の最優先事項である人命にかかわる事象についてのデジタルツイン化の検討を行った。 人命に関わる事象には避難や救援などがあるが、デジタルツインとして人の位置を把握する必要がある。これには、携帯電話会社等が配信しているモバイル空間統計の人流データが活用できる。しかし、配信されている人流データは1時間から2時間のタイムラグあり、かつ500m格子内の人数で粗い情報になっている。このタイムラグの補間や個人(匿名)の位置を追跡する手法がGPSを用いて研究・開発されており、これらの成果を活用することにより人の位置の把握が可能である。そして、当研究グループが開発しているリアルタイム津波浸水被害推計システムと組み合わせることによって、被災者の人数と位置の推計が可能になることが判明した。 また、避難や救援では、道路交通網の被災状況の把握が必要である。この情報は国土交通省のDiMAPSにおいて情報提供されている。また、東日本大震災では道路の渋滞により、逃げ遅れや救援の遅れが多数発生した。デジタルツインとして、避難や救援の経路算出をおこなうためには渋滞を考慮する必要がある。この経路算出は、組み合わせ最適化問題として解くことができ、イジングモデルを用いた手法の研究・開発が行われている。この研究成果と前述の被災者の位置情報を組み合わせることによって、避難経路や救援経路の算出が可能となることも判明した。 そして、デジタルツインとして、津波浸水等の表示、避難者の位置情報、避難経路表示、救援経路表についての可視化についても検討を開始した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
津波災害では、地震・津波の発生、避難、津波襲来、人的被害、インフラ破壊、救援・救護、復旧・復興など数時間から数年にわたる事象を扱うことになる。2023年度は、本デジタルツインが対象とする事象を決めることになっていた。そこで、自治体や民間の防災関係者へデジタルツンとして必要な機能についてヒアリングを行った。その結果、最も必要な機能は被災状況の正確な把握と人命救助に必要な情報の提供であった。復旧・復興については時間スケールが長く、その時の経済や社会情勢に影響されるため、ニーズが低いことも判明した。よって、本デジタルツインは、地震・津波の発生、避難、津波襲来、人的被害、インフラの破壊、救援・救護の事象の再現と情報提供をターゲットに研究・開発を行うことにした。 また、2023年度の取り組みとして、デジタルツインを実現するための入力データと処理方式を調査することになっていた。当研究グループで開発しているリアルタイム津波浸水被害推計システムは、地震・津波の発生、避難、津波襲来、人的被害まで対象としているが、まだ、津波波源の推定に不確定性があるので研究開発を継続している。そして、人的被害については国勢調査のデータを用いており、正確な避難人口を出すことができていない。そこで本研究では人命をターゲットにすることから、リアルタイムで人の位置を特定できる情報や研究をリサーチし、前述のようなモバイル空間統計を活用することにした。また、避難や救援経路についてもリアルタイム津波浸水被害推計システムでは扱っていないので、東北大学で量子アニーリングを用いた避難経路の研究が行われているので、その活用と救援経路への応用を行うことにした。 以上により、今年度予定していた本デジタルツインが対象とする事象の決定と、デジタルツイン実現に向けた入力データと処理方式の調査を予定通り実施した。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度の取り組みとして、2023年度に行ったデジタルツインを実現するための入力データと処理方式の調査および可視化の検討を継続する。特に、人流データについては、デジタルツインに実装することを前提として、データ項目とデータ形式の調査を行う。可視化については表示を行っていく情報と地理情報システムとして表示する手法の検討を行っていく。また、避難や救援では、避難所の状況把握が必要になってくるが、2023年度には避難所のデータについて調査と検討ができなかった。2024年度はその調査と活用に向けた検討を行う。そして、その他、デジタルツインに実装すべきデータや処理が無いかも検討を行っていく。 次に、デジタルツイン実現に向けたアーキテクチャーの検討と設計を行っていく。基本的には当研究グループが開発を進めているリアルタイム津波浸水被害推計システムを基盤システムとして、避難や救援の機能を付加していくことを考えていく。しかし、リアルタイム津波浸水被害推計システムはNECのスーパーコンピュータSXシリーズを前提として開発されているため、本研究ではより一般的なシステム構成でデジタルツインを実現するアーキテクチャーを検討していく。その中でも、津波現象を再現しているシミュレーションがもっとも処理量が多く、実行時間がかかる部分である。この処理の高速化を実現しない限り、デジタルツインとしてリアルタイムに情報配信できなくなってしまう。そこでGPU等の汎用的なシステムでも高速実行できるシミュレーションプログラムの開発も念頭に研究を行っていく。 これらの取り組みによって、人命にかかわる事象を扱うデジタルツインとして、必要な要件を明らかにし、2025年度にはプロトタイプの開発と評価が行える環境を整備していく。
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