研究課題/領域番号 |
23K11404
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63010:環境動態解析関連
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
杉山 雅人 京都大学, 国際高等教育院, 特定教授 (10179179)
|
研究分担者 |
朴 紫暎 島根大学, 学術研究院環境システム科学系, 助教 (00888026)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | ケイ酸 / 重合体 / 淡水湖 / 汽水湖 / 循環モデル / 重合体ケイ酸 / ケイ酸循環モデル / 湖 / 無酸素深水層 |
研究開始時の研究の概要 |
最近、私達は湖の無酸素な底層水や堆積物間隙水中に重合体ケイ酸(PSi)が存在することを確証した。これは世界初の発見と言える。 PSiは珪藻が摂食不可能である。このためPSiの生成は珪藻成長阻害を招く。珪藻は他植物プランクトンと競争的に増殖し,ケイ酸が豊富な環境では珪藻が優占となる。したがって珪藻増殖はアオコなどの発生抑制に繋がる。 本研究では、 ① PSiの生成・分解機構、② 単量体ケイ酸(MSi)・PSiの存在形態と湖での濃度変動、③ PSiからMSiへの回帰速度・回帰率、④ 堆積物からの栄養塩溶出に伴うN:P:Si濃度比変動、⑤ MSi・PSiの再生によるアオコ・赤潮の発生緩和、 を解明する。
|
研究実績の概要 |
ケイ酸は栄養塩の一つで、珪藻類の成長には必須である。環境水中のケイ酸の濃度変動は、植物プランクトンの群集組成に影響を与え、ケイ酸が不足していると、その優占種は珪藻から鞭毛藻類やシアノバクテリアなどに移行する。鞭毛藻類やシアノバクテリアは種によって毒性物質を生産し、水環境および生態に悪影響を及ぼすため、水中ケイ酸の濃度変動やその化学種を調べることは環境学的に意義がある。 湖底堆積物中には季節によってケイ酸の溶存態重合体が出現する。その重合体は、生物による利用が不可能なため、水中からケイ酸が除去される経路の一つであることが、先行研究から示唆されている。 2023年度の研究では、湖底環境が季節により無酸素還元的環境に変化する湖を対象とした。淡水湖として琵琶湖の南湖、汽水湖として宍道湖と中海で、湖底付近の溶存酸素が涸渇した時期に重点的に調査した。これらの湖で、ケイ素(Si)と金属(Fe, Al, Mn, Ca, Mg, Ti, Sr)、硫化水素、他の栄養塩(有機炭素、窒素、リン)の濃度の相関関係について研究した。淡水湖と汽水湖、両水域とも湖底環境の無酸素化の進行に伴って硫化水素の生成、堆積物からのケイ酸の溶出が観察された。各元素濃度間の相関を見ると、Siの溶出は金属酸化物からの溶出に基づくことが確認された。しかしながら、淡水湖ではAlが全く検出されなかったが、汽水湖では一部の堆積物層でAlの存在が観察された。そのため、還元的な湖底堆積物でのケイ酸の溶出源は、淡水湖の場合は鉄酸化物(水酸化物を含む)に限ると推測されるが、汽水湖においては鉄酸化物以外、アルミノケイ酸もその溶出源に含まれる可能性がある。 湖底堆積物中には生物起源シリカ(珪藻殻)が存在しているため、還元環境下における生物起源シリカの溶解等の影響も調べる必要がある。このため、珪藻殻のみを分解・分析可能な手法開発も進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
淡水湖と汽水湖における湖底環境での酸素涸渇がケイ素の循環に影響を与えていることを明らかとした。また、湖底堆積物の間隙水中におけるケイ素と他の元素間の濃度変動において相関性を調べ、各水域での溶出源として認められる鉱物構成を推定した。 今後は、他の淡水湖(池田湖など)と汽水湖(水月湖、菅湖など)における溶存態ケイ酸の溶出源を確認する予定である。 しかしながら、生物起源シリカの分析法に関しては、今も検討中であり、現在よく使われている炭酸ナトリウム(Na2CO3)による分解法(DeMaster 1979)では、珪藻殻の分解だけではなく、アルミノケイ酸塩の溶解(実験値: 回収率 25-43%)も伴うことが確認された。また、反応時間や温度条件により生物起源シリカの分解率が左右されやすい問題が確認された。現在は、ペルオクソ二硫酸カリウム(K2S2O8)を用いる方法を検討している。この方法では、生物起源シリカの分解に対して、反応温度や時間の影響が少ないことが明らかになった。ただし、Na2CO3を用いる方法ほどではないが、K2S2O8を用いた場合にも地殻起源粒子に由来するアルミノケイ酸塩の溶解(実験値: 回収率 8-14%)が起きていた。今後は、アルミノケイ酸塩の溶解を低減させることに注力する。 以上のことから、研究は「おおむね順調に進展している」と判断した。
|
今後の研究の推進方策 |
湖水および湖底堆積物の間隙水中の溶存ケイ酸の濃度変動の観測を継続する。今年度に調査する湖は、従来からの琵琶湖・宍道湖・中海に加えて池田湖・河口湖・水月湖・菅湖の予定である。 生物起源シリカの分解法について、定量的でかつ、地殻起源粒子に由来するアルミノケイ酸塩の溶解を伴わない手法を検討・開発する。この方法を用いて、湖水と湖底堆積物中の生物起源シリカを定量する。また、無酸素状態の湖底直上水を用いて水中での重合体ケイ酸の形成とその回帰に関する室内実験を行う予定である。
|