研究課題/領域番号 |
23K11434
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63020:放射線影響関連
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研究機関 | 一般財団法人電力中央研究所 |
研究代表者 |
冨田 雅典 一般財団法人電力中央研究所, サステナブルシステム研究本部, 上席研究員 (00360595)
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研究分担者 |
前田 宗利 公益財団法人若狭湾エネルギー研究センター, 研究開発部, 主任研究員 (20537055)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 放射線感受性 / マイクロビーム / DNA2本鎖切断 / DNA損傷応答 / 細胞死 |
研究開始時の研究の概要 |
細胞内の局所を狙い撃ちできるX線マイクロビームを用い、毛細血管拡張性運動失調症の原因遺伝子産物であるATMを介したDNA損傷応答が、細胞核に加えて細胞質への照射の有無によって変化することを明らかにした。この結果から、細胞質に存在するATMが細胞の運命を決定するという革新的仮説を提唱した。本研究は、マイクロビームテクノロジーを用い、ATMを「ハブ」とする細胞質-細胞核のクロストークによる新たな細胞運命決定機構を解明する。
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研究実績の概要 |
X線マイクロビームを用い、毛細血管拡張性運動失調症(AT)の原因遺伝子産物ATMを介したDNA損傷応答が、細胞核に加えて細胞質への照射の有無によって変化することを明らかにした[1]。本研究は、マイクロビーム技術を用い、ATMを「ハブ」とする細胞質-細胞核のクロストークによる新たな細胞運命決定機構の解明を目的とする。 1) 細胞質-細胞核クロストークの可視化解析:本研究で主に使用する細胞として、不死化ヒト真皮線維芽細胞CI-huFIB(InSCREENeX社)を取得し、一連の基礎データを取得した。電力中央研究所(以下、電中研)のマイクロビームX線照射システムを用い、細胞核1か所と細胞核1か所+細胞質2か所の局所照射を行い、DNA2本鎖切断部位に集積するリン酸化ヒストンH2AX(γ-H2AX)と53BP1の蓄積を観察した。その結果、2 Gy以下の線量において、細胞核のみを照射した場合に比べて細胞核と細胞質を照射した細胞では、γ-H2AXの蓄積がより明瞭になる既報論文[1]の結果の再現性を確認した。また、53BP1の局在変化と細胞周期分布を観察可能なFocicleプローブ [2]をCI-huFIBに導入し、安定発現するクローンを単離した。 2) 細胞内照射部位に応じたATMシグナリングの解明:高エネルギー加速器研究機構・放射光実験施設(以下、KEK・PF)の放射光X線マイクロビーム細胞照射装置を用い、ヒト正常線維芽細胞WI-38への細胞核のみ照射と細胞全体照射を行った。蛍光抗体染色により、細胞周期制御に関わる特定のタンパク質の発現が、照射後に一度消失した後に再度発現する変化を示すことを明らかにした。マイクロビームを用いなければ捉えられない新規の発見である。 [1] Maeda et al. Sci Rep, 2021 [2] Otsuka & Tomita Sci Rep, 2018
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1) 細胞質-細胞核クロストークの可視化解析(2023-2024年度) 本実験で中心的に用いる不死化ヒト線維芽細胞としてCI-huFIBを選定し、細胞生存率や細胞周期分布等に関する基礎データを取得した上で、53BP1のフォーカス形成等による局在変化と細胞周期分布を同時にライブセル観察可能なFocicleプローブ[2]を発現するサブクローンを複数単離した。本細胞は、P1レベルの遺伝子組換え生物となるため、現時点ではKEK・PFでは使用できないことから、電中研のマイクロビームX線照射システムを用いて実験を行い、既報論文[1]の結果を確認した。また、目的とするATMタンパク質の役割を解明するために、AT患者由来細胞とその家族由来細胞(ATMヘテロ変異細胞、正常細胞)を用いた基礎実験を進めた。概ね計画通り進展している。 2) 細胞内照射部位に応じたATMシグナリングの解明(2023-2025年度) KEK・PFにおいて、主にWI-38細胞を用いたマイクロビーム照射実験を行った。既報論文[1]において、細胞核のみ照射と細胞全体照射において、PCR Arrayにより発現パターンの違いが観察された、ABL1、CDC25C、TP73、CDKN1Aについて、蛍光抗体染色による観察を行ったが、1つのタンパク質を除き、使用可能な特異性の高い抗体がなかった。ただし、そのタンパク質について研究実績の概要に記載の通り、新規性の高い新たな発見があったため、今後はそのタンパク質を中心に検討を進める。また、ゲノム編集による遺伝子ノックアウト細胞の作成については、費用と納期の都合上2024年度に実施することにした。
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今後の研究の推進方策 |
1) 細胞質-細胞核クロストークの可視化解析(2023-2024年度) 2024年度は、Focicleプローブを発現する不死化ヒト正常細胞CI-huFIBと、AT患者由来細胞および患者家族由来細胞を用いた検討を進める。電中研のマイクロビームX線照射システムを用いて、細胞内局所照射を行い、DNA修復および細胞死が生じる過程を、細胞を追跡して解析する。さらに、蛍光抗体染色によるATMやDNA損傷応答(DDR)関連タンパク質の変化なども観察する。 2) 細胞内照射部位に応じたATMシグナリングの解明(2023-2025年度) 2023年度の研究において発現変化に新規の発見があった細胞周期制御に関するタンパク質に絞って解析を進める。KEK・PFでは遺伝子組換え生物を用いることができないため、ヒト正常細胞であるWI-38細胞を用い、ATM阻害剤やsiRNAによるノックダウンにより、そのタンパク質の照射後の発現変化等に関するメカニズムをより詳細に明らかにする。 3) 細胞質におけるATMの酸化を修飾する抗酸化物の探索(2024-2025年度) ATMがクローニングされた当時から阻害剤の開発が進められているが、キナーゼ活性を標的とした阻害剤の多くは正常細胞への毒性も強く、臨床での使用が困難であった。一方、既報論文[1]の結果から、ATMのキナーゼ活性を直接阻害しなくても、腫瘍細胞の細胞質におけるATMの「酸化」を修飾できれば、放射線治療に応用できる可能性が示唆された。2024年度は、市販されている化合物ライブラリーを用い、HeLa細胞において細胞質内ATMの酸化によるnucleo-shutllingを抑制する抗酸化物等の化合物の探索に着手する。
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