研究課題/領域番号 |
23K11450
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分63040:環境影響評価関連
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
中野 孝教 香川大学, 四国危機管理教育・研究・地域連携推進機構, 客員教授 (20155782)
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研究分担者 |
山田 佳裕 香川大学, 農学部, 教授 (30297460)
申 基チョル 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, 准教授 (50569283)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,810千円 (直接経費: 3,700千円、間接経費: 1,110千円)
2027年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2026年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 水資源 / 雪 / 火山地域 / 水質指標 / 安定同位体 / 簡易機器 / 影響評価 / 環境地球化学 / 岩石 |
研究開始時の研究の概要 |
1.代表者と分担者により予察研究を進めてきた2地域において、降水量や気温、水温のモニタリングから降水に占める雪の寄与を評価する。 2.降水由来の水質指標(水素・酸素同位体比や塩化物イオンなど)を用いて、地下水への雪の寄与を明らかにする。 3.流域の地質に由来する地球化学指標(ストロンチウム、鉛、ネオジムの安定同位体比など)から、雪の地下への浸透性や岩石風化の寄与を評価する。 4.雪が少ない他の地域で得られている既存データを再解析し、降水と地下水との関係を検討する。 5.降雪量の異なる地域での雪と地下水の量と質の関係を明らかにすることで、温暖化に伴う降雪量変化が水資源に与える影響評価法を開発する。
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研究実績の概要 |
気候変動に伴い降雪量が減少すると予測されており、水資源への影響評価は世界的課題になっているが、水の化学的特徴には地質の化学的性質や透水性が強く反映される。本研究は日本が多雪国であり、化学反応性が高いいっぽうで透水性が岩石種によって大きく異なる火山が多いことに着目し、申請者が開発してきた元素組成と安定同位体を組み合わせた地球化学的手法を利用しながら、課題解決に資する手法の開発を目的としている。 2023年度は、山形県遊佐町と福井県大野市の二つの地域で降水や地下水のモニタリングサイトを決めると共に、大野市で2回、遊佐町で1回の調査を実施した。調査に合わせて水資源に関する学習会や市民講演会を実施し、地域との研究への協力関係の構築を試みた。学習会への参加者には、水資源のモニタリングに好意的なアンケートが多く、協力関係を構築でき、両地域で月ごとの降水、大野市では地下水についても定期的採取を開始した。現地調査で採取した地下水と河川水も含め、約100試料について元素組成および水素・酸素の安定同位体比の分析とデータ解析を実施した。 本研究に関連して降水の鉛同位体比を利用した先行研究を実施してきたが、それに関連する大気エアロゾルに関する研究はAtmospheric Environment(Tsuchiya et al. 2023)に掲載された。その結果、アジア大陸からの越境汚染鉛の安定同位体比の特徴が降水に反映されていることが再確認され、雪の水資源への影響評価の一つとして元素濃度と安定同位体比が有効なことがわかった。これら実験室での計測分析とともに、雪の寄与を評価する簡便な手法を検討するため、現地で可能な計測キットや硝酸性窒素濃度計などの簡易計測装置を購入し検討を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、すでに分析が終了しているデータに新たな調査と降水や地下水を主としたモニタリング試料の分析を実施し、得られたデータを整理し、様々な解析を行うことで目的を達成する。本年度はこの目的を推進するため、データのまとめや解析にパソコンを購入してGIS解析を行っており、水質の地域性の把握については順調に研究を進めることができた。データ解析用ソフトウェアのネット購入が難しいため統計解析などが若干遅れているが、消耗品類などの購入についても順調に進めることができた。 水試料の水素と酸素の安定同位体比を用いた解析から、対象地域の一つである遊佐町では地下水や河川水に対して雪由来の水の寄与が見られるのに対して、大野市の市街地の地下水では雪の寄与評価は見られず、同地域の涵養域で盛んな稲作などの農業に伴う灌漑水や降水の蒸発が要因と考えられた。このため人間活動の影響を受けない火山山麓の湧水を新たな対象として検討することにした。 雪はアジア大陸由来の越境性重金属に富む一方で、地下水では雪の1%程度と少ないことから、地下物質による元素吸着が明らかになってきた。遊佐町の安山岩質溶岩地域では、岩盤の亀裂から湧出する深い地下水と岩盤を覆う土砂に由来する浅い地下水では水質に違いがあり、後者は降水の寄与が強く表れるなどの結果を得た。両水の水質の違いをさらに検討することで、目的を一段階高くして達成できる可能性がある。 大野市では、市内地下水の水温は季節変化と共に降水イベントに伴い地下水面に近いほど水温変化が大きいが、冬季は水温が4℃程度と一定であることから降雪が地下水温に与える影響が明らかになった。同市では降水だけでなく地下水の試料採取への協力が得られ、初年度としては予定以上の進捗状況である。
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今後の研究の推進方策 |
雪は高い重水素過剰値で特徴づけられるが、電気伝導度も春から秋の雨に比べて高い。河川水や地下水は降水と多くの水質項目で明瞭に異なるが、河川水は弱アルカリ性(pH :7.5前後)であるのに対して地下水は酸性(pH:6.5程度)で、電気伝導度も地下水は河川水に比べて高くカルシウム重炭酸型の水質である。地下水は河川水の伏流に加えて、降水の地下浸透に伴って生じた炭酸が岩石風化を促進していることが明らかになったが、水温に加えてpHや電気伝導度なども雪と雨と河川水や地下水の識別に有効である。いっぽう遊佐町では、火山の岩盤亀裂水と土砂地下水の水質の違いが明らかになってきたが、硝酸性窒素や塩化物イオン、ケイ素、ナトリウムなどは市民でも可能な簡易装置が市販されているので、今後はそれら機器を用いた簡便かつ高度な各種水の識別法を検討する。 このように初年度の研究によって、安定同位体比や元素組成などの高度な分析だけでなく、水温などの簡易計測でも課題解決につながる情報を得られることが明らかになった。今後は、研究分担者と連携して、これまで実施してきたイオンクロマト装置、ICP発光分析装置、ICPMS質量分析装置などによる雪と雨と地下水、河川水との識別確度の高度化を図るとともに、多くの水質項目について簡易機器との比較検討を行う。 大野市では融雪の地下水利用や地下水汚染が大きな問題になっていたが、行政が数10年にわたって実施してきた井戸水の水質データを入手できたので、それらも含めた水質データの解析を行う。これにより、本研究課題の解決を目的とする手法開発の社会実装の可能性を検討する。
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