研究課題/領域番号 |
23K11543
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分64060:環境政策および環境配慮型社会関連
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研究機関 | 東京農工大学 |
研究代表者 |
澤 佳成 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (70610632)
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研究分担者 |
榎本 弘行 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 准教授 (30453369)
大倉 茂 東京農工大学, (連合)農学研究科(研究院), 講師 (20895825)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 地域的公共圏 / 地域循環共生圏 / コミュニティガバナンス / 持続可能な地域社会 / 対話の作法 / 公共の作法 / 合意形成 / 熟議民主主義 / 公共事業 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、原子力関連施設の設置、東京外郭環状道路やリニア新幹線の線路建設など、大型の公共事業をする際に発生する、地域での意見の対立や事業者と住民との意見の対立などを改善するための共生思想の探求を目的とする。そのために、地域の方がたがどのような考え方のもとで対話しているのか調査し明らかになったことと、公共哲学等の文献研究との往還的な研究を進め、民主的議論における「公共の作法」の抽出を試みる。
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研究実績の概要 |
大規模な公共事業が行われ、事業者と住民あるいは住民相互のコンフリクトが生じている地域において、合意形成を可能にする民主的な熟議はどうすれば可能か探求する本研究は、地域の方がたの対話の作法と、持続可能な地域のあり方の考察を、目的達成のための前提としている。 こうした目的を達成するため、2023年度は、研究実施計画における「①地域的公共圏での議論の構造的な阻害要因についての調査・研究」および「③公共事業に向き合う住民の対話の作法に関する調査」を開始した。具体的には、リニア新幹線の工事という大型の公共事業が進行しつつある地域(長野県阿智村・大鹿村)で、開発に疑問を持ちつつも、事業者、賛成する住民、行政と対話を続けようとする方、行政の側の前村長など、多角的な視点からヒアリング調査を行い、住民における「対話の作法」を探るうえでの重要な示唆を得ることができた。 また、2023年度は「②地域的公共圏と公共の作法に関する文献研究」も開始した。調査先で集めた資料や、購入した文献を用い、地域的公共圏を築いていくにはどのような思想や実践が必要になってくるのか、という点での研究を進めた。 さらに、地域的公共圏における議論では、大型の公共事業が行われているなかで、事業と「地域循環共生圏」(環境省)とをどのように共存させていくか、という視点が必須になってくることから、地域における様ざまな生業やとりくみについても調査を行った。具体的には、循環型の生活をしている猟師、有機農業にとりくむ農家から、どうすれば持続可能な地域が築いていけるかという視点でのヒアリング調査を行った。 以上の研究や、本研究の着想へとつながった、23年度からの研究開始以前におこなっていた研究の成果を、広く社会に発信するため、単著書『開発と〈農〉の哲学――〈いのち〉と自由を基盤としたガバナンスへ』(はるか書房)を2023年度に発刊した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、現在のところ「おおむね順調に進展している」と判断する。 そのように判断する理由として、第1に、調査の進展が挙げられる。本研究の研究実施計画では、「④先進事例との比較研究」は2024年度から実施する予定であった。しかしながら、長野県阿智村の前村長・岡庭一雄氏へのヒアリング調査において、阿智村が独自に実施している「社会環境アセスメント」が、リニア新幹線の工事においても実施されたこと、ところが、工事が進むに伴い、トンネル工事の結果出てくる残土をどうするかという問題が新たに浮上してきており、その対策が進められようとしている地域の現状について教えて頂くことができた。この阿智村の状況は、地域的公共圏の形成を考えるための先進的な参考事例であるといえる。このような状況を把握できたことから、調査は良好に進展しているといえる。 ふたつめの理由として、本研究の着想、提出、採択につながった開発と〈農〉の視点を、単著書『開発と〈農〉の哲学』として公表できたことが挙げられる。この単著書は、日本農業新聞や、こどもと自然学会、環境思想・教育研究会等で紹介されるなど、一定程度の反響を得ており、本研究に関連する成果をよりひろく発信できている。 以上から、評価を「おおむね順調に進展している」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の今後の推進方策として、2024年度中の成果の公表を行いたい。 第1に、共著書の発刊である。本研究の着想に至った、原子力関連施設を多数擁する青森県下北半島での調査チームにより、初秋に共著書を発刊する予定である。そのなかで、私は、大間原子力発電所の建設に反対の立場を取りつつも、賛成する住民や町議会議員とも対話をとり続けた故・奥本征雄氏の思想にみる対話の作法についての論考をまとめた。この共著書が発刊されれば、地域での生きた実践からくみあげた対話の作法の重要性が広く社会に公開され、その意義についての議論が、学会や研究会でなされることが期待される。そうした動きが、ゆくゆくは、本研究の推進に大きな役割を果たすと期待される。 第2に、学会、研究会等での成果の発表を行いたい。本研究を開始して以降、長野県大鹿村において、リニア新幹線の工事という課題に直面しつつも、地域の資源を活用し、地域活性化を成し遂げようと議論し始めた地域がある。そうした、本研究の調査によってえた新たな動きの意義について、学会、研究会等で発信し、ひろくアドバイスを頂くことによって、本研究の推進に役立てたい。 第3に、地域での調査に、よりいっそうの力を入れていきたい。 地域での取り組みには、難しい課題と対面しつつも、なんとか地域の未来をつくるための対話をしようと努力されている方がたが多数いる。そうした、先進的な事例、困難な課題をかかえているがゆえに対話の作法という点ではあまり着目されていない事例のある地域を訪問し、地域的公共圏をつくるための対話の作法について、示唆的な考え方をひろく収集するよう努力したい。
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