研究課題/領域番号 |
23K11589
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 新潟食料農業大学 |
研究代表者 |
栗林 喬 新潟食料農業大学, 食料産業学科, ビジティングフェロー (00775728)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | 蔵付き清酒酵母 / 全ゲノム解析 / 酒類製造 / 銘醸地 / テロワール |
研究開始時の研究の概要 |
清酒酵母は、米と麹菌とともに清酒の品質を決定する重要な要因である。近年の酒類の多様化に伴い、酒造場に存在する「蔵付き酵母」を用いて製造者間における差別化を図る試みがなされている。本研究では、新潟県内の全酒造場を対象として分離された「蔵付き酵母」の醸造特性を明らかにし、清酒の多様化に貢献できる新規酵母の開発を行う。さらに、全ゲノム解析により「蔵付き酵母」に存在する有用遺伝資源の探索と、その起源(遺伝的集団構造)の解明を試みる。本研究成果は、新たな清酒製品の開発と、輸出拡大に寄与する清酒のテロワール化を促進し、国内外の清酒産業の活性化に繋がるものと期待される。
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研究実績の概要 |
清酒製造において、清酒酵母は、原料米と麹菌とともに清酒の品質を決定する大きな要因である。現在、(公財)日本醸造協会から配布されている「きょうかい酵母」の使用が一般的であるが、近年の酒類の多様化に伴い、酒造場に存在する「蔵付き酵母」を用いて製造者間における差別化を図る試みがなされている。本研究では、①新潟県内の全清酒製造場より「蔵付き酵母」のスクリーニングを実施するともに、②得られた「蔵付き酵母」の最適な仕込条件や醸造特性を明らかにし、清酒の多様化に貢献できる新規酵母の開発を行う。同時に、③分離酵母の全ゲノム解析により「蔵付き酵母」に存在する有用遺伝資源の探索と、その起源(遺伝的集団構造)の解明を試みる。 これまでに、新潟県内の酒造場より「蔵付き酵母」のスクリーニングを実施したところ、下越・中越地域の酒造場から「蔵付き酵母」の分離に成功しており、現在、これらの酵母の醸造特性解析のため、清酒小仕込試験を行っている。これまでの研究結果から、本研究で分離された大部分の「蔵付き酵母」はキラー性を示すことなく、また醸造試験においても良好な醸造特性を示したことから、一部の清酒製造場では市販酒製造へ実用化されるに至った。 さらに、ゲノム解析も一部先行して実施した。アルコール高発酵性に関わる遺伝子であるRIM15遺伝子のDNAシーケンスを行い、既存の清酒酵母(K7グルーブ系清酒酵母)と「蔵付き酵母」で比較したところ、申請者が分離した「蔵付き酵母」には既存清酒酵母が有する遺伝子変異が存在しなかった。これらの結果は、新潟県内にはK7グループ系清酒酵母とは異なる系統の清酒酵母が存在し、独自の進化を遂げている可能性を示唆することから、「蔵付き酵母」による酒質多様化への貢献や、更なる商品開発への応用が期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度に実施予定であった計画①清酒製造場からの「蔵付き酵母」の分離については、新潟県上越地域の酒製造場からの酵母分離がやや遅れているものの、新潟県下越および中越地域の酒造場のスクリーニングは実施することができた。今年度の酵母スクリーニングの結果、新たな「蔵付き酵母」も単離されたことから、順調に目的を達しつつある。 また、次年度の計画でもあった計画②「蔵付き酵母」の醸造特性の解明と実地醸造試験については、これまで分離した「蔵付き酵母」の中から、醸造特性の優れた酵母の選抜に成功し、3場の酒造場において実地醸造を行ったところ、うち2場では清酒の製品化に至った。 さらに、計画③全ゲノム解析による有用遺伝子資源の探索と遺伝的集団構造の解明についても、全ゲノム解析に先行して「蔵付き酵母」におけるRIM15遺伝子の解析を行ったところ、既存清酒酵母であるK7グループ系清酒酵母とは異なる遺伝子変異を有することが明らかとなった。上述の醸造特性解析の結果からも、分離された「蔵付き酵母」は、K7グループ系清酒酵母とは異なる醸造特性を示すデータが得られていることから、新潟県内の清酒製造場において既存清酒酵母とは異なる系統の清酒酵母の存在しており、微生物学な地域特異性はもとより、新潟県産清酒の産地特性の一因となりうることが示唆されたことから、本研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度においては、以下の①から③の研究の実施を予定している。 計画①清酒製造場からの「蔵付き酵母」の分離:昨年度に引き続き、新潟県内の全清酒酒造場からの酵母のスクリーニングを実施する。 計画②「蔵付き酵母」の醸造特性の解明と実地醸造試験:分離された「蔵付き酵母」を用いて、実験室規模の総米200 gにおける清酒小仕込試験により、アルコール生産能や香気生産性といった醸造特性を解析する。既存清酒酵母を用いて得られる製成酒と比較し、例えば、ある特定の有機酸の高生産など、特徴的な酒質が得られた場合には、総米100 kg程度の実地醸造試験により、実地レベルにおける醸造特性を明らかにして実用酵母を開発するとともに、その使用を全国に広げるために知的財産化も進める。 計画③全ゲノム解析による有用遺伝資源の探索と遺伝的集団構造の解明:次世代シーケンス解析によって、取得された「蔵付き酵母」の全ゲノム配列を収集し、「蔵付き酵母」の清酒小仕込試験によって得られた醸造特性から、特徴的な形質(高アルコール生産性や有機酸高産生性等)に関連する遺伝子の絞り込みと、同変異の酵母発現ベクター系による形質転換実験を行い、有用遺伝資源として遺伝子変異を同定する。遺伝的集団構造の解明についても、ジェノタイピングシーケシング解析によって、地理的集団性の調査を行い、新潟県産清酒に個性を与える「蔵付き酵母」の特徴的なゲノム情報や、酵母の地理的集団性を判別するDNAマーカーについても見出す。
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