研究課題/領域番号 |
23K11603
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
太田 至 京都大学, アフリカ地域研究資料センター, 名誉教授 (60191938)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
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キーワード | メガ・プロジェクト / 原油開発 / 風力発電開発 / トゥルカナ / 交渉 |
研究開始時の研究の概要 |
急速に拡大するグローバルな資本主義は、アフリカの辺境地に侵入して資源やインフラの大規模開発を実施しており、そこで形成される「資源のフロンティア」で暮らしてきた住民の生活は激動に晒されている。 本研究では、ケニアで実施されている二つの「メガ・プロジェクト」を対象として、外部から侵入する多国籍企業や国家が惹起する様々な問題に対して、現地住民はいかなる方法で向き合い、どのように自分たちの未来を開拓しているのかを解明する。 その際、本研究では現地住民と外部アクターとの交渉プロセスに焦点を当てて、住民の主体性や能動性、多様性に注目しつつ、「資源のフロンティア」で暮らす人々の未来開拓の動態を描き出す。
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研究実績の概要 |
急速に拡大するグローバルな資本主義は、アフリカの辺境地に侵入して資源やインフラの大規模開発を実施しており、そこで形成される「資源のフロンティア」では、多国籍企業や国内企業、政府や国会議員など、外部から侵入する多くのアクターが、ときには暴力的・高圧的に活動し、現地住民の生活が激動に晒されている。そして従来の多くの研究は、こうした状況におかれている現地住民を「強大な外部者に翻弄される犠牲者」と表象してきた。 それに対して本研究は、ケニア北部で実施されてきた二つの「メガ・プロジェクト」を対象として、現地住民が外部アクターといかなる交渉をおこない、自分たちの望ましい未来をどのように開拓しているのかを解明することを目的とする。具体的な研究対象は、(1)2010年頃から多国籍企業が原油開発を進めてきたトゥルカナ・ロキチャ地域の原油開発プロジェクトと、(2)トゥルカナ湖の南東部に建設されたアフリカ最大の風力発電所プロジェクトである。 本年度には約60日間の現地調査を実施した。(1)の調査地では本研究を開始する以前に、多国籍企業ターロウ(Tullow)の活動の全体像を文献調査とフィールドワークによって把握し、原油の探査活動が地元社会にどのような負の影響を与えてきたのかを解明している。今年度には視点を変えて、地元住民がこの事業の下請け仕事や雇用を獲得すべく、外部アクターといかなる交渉をおこなってきたのか、そしてこの事業にどのように参入してきたのかを調査した。 (2)の調査地について本年度には、このプロジェクトがいかなる外部アクターによってどのように計画・実施されてきたのか、そして現地住民はそれに対してどのように対処してきたのかに関する文献調査を実施するとともに、予備的な現地調査をおこなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
調査地(1)では現在、ターロウの資金繰りが苦しくなったために原油探査・生産活動が中断している。そのために本年度の調査では、トゥルカナ地域で原油が発見された2012年前半からターロウの活動が大幅に縮小された2019年末までを対象として、現地住民はいかなる要求をかかげて、どのような手段によって外部アクターとの交渉をおこなってきたのかを、現地住民やターロウ職員、政府の役人などに対するインタビューと文献調査によって明らかにした。その結果、この8年間に少なくとも16回、現地住民は道路封鎖などの実力行使によって企業活動を停止させていた。停止期間は短いもので数時間、もっとも長いものでは57日間におよぶ。その機会に地元住民は、ターロウやその下請け企業に対しては雇用や下請け仕事を提供すること、そして政府に対しては治安を安定させることなど、さまざまな要求を突きつけてきた。 また、現地では若者を中心としてみずから会社を起業して下請け仕事を獲得した人が出現しているが、本年度の現地調査では、これに関与した人々に対するインタビューを実施した。その結果、「トゥルカナのエリートだけがターロウから利益を得てきた」と感じ、「仕事を獲得するためには自分の会社を持たなければならない」ことを理解した現地住民は、2015年頃から会社を立ち上げ、ターロウがCSR活動の一環として実施した学校建設などの仕事や、原油をモンバサまで陸送する大型トラックを調達するブローカーの仕事などを獲得していた。 調査地(2)では、多国籍企業が2006年頃から土地の取得を進め、2014年に発電所の建設を始めて、2019年には発電所と送電網の建設を完了した。本年度の現地調査では現地住民に対する聞き取りをおこない、多国籍企業はどのように土地を取得したのか、人々は不法に収奪されたという訴訟を、どのように準備し実施したのかに関して予備的な知見を得た。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は3年間の予定で実施するが、2024年度と2025年度には、ケニア共和国で約45日間ずつの現地調査をおこなう。2024年度には、(1)の調査地において企業活動を停止させた実力行使が、誰によって、どのように準備・実施されたのかを調査するとともに、自分の会社を立ち上げた人々はいかなる学校教育歴、現金稼得の仕事歴、そしてターロウとその下請け会社での雇用歴をもつのか、彼らは自分の会社によって得た利益をどのように使ってきたのかを調査して、この人々の地域社会のなかでの位置づけを明らかにする。 2024年度に調査地(2)では、2014年に開始された法廷闘争が、誰によって、どのように準備され、いかに闘われたか、これを支持した人々はどのような出自・経歴をもち、いかなる動機をもって参加し、どのような要求をおこなってきたのかを、現地でのインタビューと裁判記録の閲覧・検討によって明らかにする。 2025年度には現地調査によって補足的な資料を収集すると同時に、二つの調査地を比較することによって、現地住民は、強引に侵入してくる多国籍企業や国家などの未知で強大な外部アクターに対して、いかにして能動的・主体的に働きかけ、自らの未来を開拓してきたのかを「あらゆる交渉の方途を動員する」という視点から総合的に明らかにする。
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