研究課題/領域番号 |
23K11613
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80010:地域研究関連
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
中挾 知延子 東洋大学, 国際観光学部, 教授 (70255024)
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研究分担者 |
柏崎 梢 関東学院大学, 国際文化学部, 准教授 (40735594)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
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キーワード | 連帯ツーリズム / 多文化共生社会 / 南イタリア / 社会ネットワーク / カラブリア州 / インクルーシブツーリズム |
研究開始時の研究の概要 |
イタリア南部カラブリア州にある人口750人の小さな共同体カミーニは、20世紀末から高齢化が進み、弱体化しつつあった。しかし2011年以来、イタリア全土からの有志で構成された社会貢献活動団体が、アフリカやアジアからの移民の受入を促進し、共生社会の実現を目指して、地元住民・移民・ボランティアとの協働による連帯ツーリズムを始めた。その結果、2018年には世界中から100人を超える青年ボランティアを受け入れ、2022年1月時点で人口の約20%を占める150人余の移民を迎え入れる多文化共生社会を成功させている。本研究では、多文化共生社会で連帯ツーリ ズムが成功するに至ったメカニズムを明らかにする。
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研究実績の概要 |
前半では、昨年度までに集められていたカミーニ村でのデータを再度整理した。18名の住民に対して、「過去5年間に誰とどのような活動を行ったか」を基に行った半構造化インタビューの内容である。以前とは別の手法で社会ネットワーク分析を試み、得られたネットワーク構造について、分散型ネットワークにあてはまることが分かった。カミーニ村で住民は連帯ツーリズムにおいてそれぞれ役割を持っており、役割分担はサブリーダーによって運営されている。ユンジ・ムンドゥ(Jungi Mundu)という団体がサブリーダーたちを束ねており、仕事の分担がとても円滑に行われていることが明らかになった。得られた状況を理論付けするために、フランスの社会学者デュルケーム(Durkheim, E)が提唱した「仕事の分割」(Division of labor)から、有機的連帯(organic solidarity)の概念に行きついた。デュルケームによると、有機的連帯がうまく機能している社会は、その社会のメンバーそれぞれが責任と達成感を感じられるという。これまで既存の研究もふまえて、連帯ツーリズムがうまく機能するには、非分離性(inseparability)と責任の共有(shared responsibility)が住民間に醸成されることであると、過去の論文においても結論付けている。カミーニの連帯ツーリズムは、有機的連帯である非分離性と責任の共有を具現化した形であり、今までの研究結果を裏付けるものであった。この内容をまとめた論文を観光学分野の国際会議に投稿し、今年5月に発表予定である。 後半では、イタリア在住の知り合いに協力してもらい、社会ネットワーク分析のためのデータをさらに集めた。従来のイタリア人住民と移民との70件のデータを収集した。年度末には実際に現地へ赴き、集めたデータの補完のためカミーニ村でヒアリングを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
社会ネットワーク分析のためのデータが順調に集めることができている。 23年度の後半では、イタリア在住の知り合いに協力してもらい、社会ネットワーク分析のためのデータをさらに集めた。従来のイタリア人住民47件と移民23件を合わせた70件のデータを収集できた。年度末には実際に現地へ赴き、集めたデータの確認や不足していた情報をカミーニ村でヒアリングを行った。 ただし、イタリアでは移民政策において今後変化も起きる可能性もあり、移民へのインタビューは制限されることも心配される
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今後の研究の推進方策 |
今年度でカミーニ村での連帯ツーリズムにおける役割分担や支援体制が大方明らかになったため、今後は持続可能性についてさらに探求していく予定である。インクルーシブ・ツーリズムというコンセプトも取り入れていきたい。これは、今まで観光地でなかった場所や、観光から置き去りにされていた立場の人々が、文化的な観光資源を作り出し提供すると同時に享受する立場になることで、社会文化的に豊かになるツーリズムの形態である。多文化共生社会での連帯ツーリズムとも共通点が多く、これから参考にしていく予定である。 また、人口減少に歯止めがかからない日本の各地での地域振興にも、連帯ツーリズムの知見が適用できる内容があると考えており、日本での連帯ツーリズムを活かせる場所も検討していく。 さらに、カミーニでの連帯ツーリズムは、フランス中部から南部で、アフリカからの移民を受け入れている小規模の共同体でも展開されており、比較も行っていこうと考えている。カミーニでは従来の住民からの目立った反発はないが、フランスでは村が賛否で二分されている場所もある。日本での適用にもこのような状況は参考になると考えられるため、調査していきたい。そのためにも、カミーニでの従来の住民へのヒアリング調査は重要であり、継続して行っていく。
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