研究課題/領域番号 |
23K11622
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
西名 大作 広島大学, 先進理工系科学研究科(工), 教授 (60208197)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,770千円 (直接経費: 2,900千円、間接経費: 870千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 観光体験 / VR / キャプション評価法 / 観察特性 / 行動特性 / 全天球画像 / 心理評価 |
研究開始時の研究の概要 |
近年,観光産業においても,VR(Virtual Reality:仮想現実)技術を活用した観光体験の可能性が検討され,導入が進められているが,その一方で,VRによる観光体験の不用意な提供は,現地への訪問意欲を逆に阻害する可能性も存在する。 本研究は,実際の観光地を対象に,VRと現地の双方の観光体験実験を実施し,被験者の行動特性と体験後の心理評価を比較することで,VRによる観光体験の特徴を明確化する。
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研究実績の概要 |
近年,VR(Virtual Reality:仮想現実)技術の進歩により,遠隔の地であっても,あたかも現地と同様な臨場感ある体験が可能となってきている。観光産業においてもVR技術の積極的活用が進められているが,VRによる観光体験の不用意な提供は,現地への訪問意欲を毀損する可能性も示唆される。本研究は,広島県内の実際の観光地を対象に,VR観光体験を提供する実験と,現地での観光体験を行う実験とを併せて実施し,両結果の比較からVR観光体験の特徴を明確化しようとするものである。 これまで研究代表者らが研究対象としてきた広島県内の複数の観光地のうち,耕三寺博物館を選定し,2021年度に現地で設定した観光範囲内を網羅する379地点に及ぶ全天球画像の撮影と,HMDによるVR観光体験を可能とするアプリケーションを開発した。さらに広島大学学生23名を被験者として実際にVR観光体験を行わせ,気になる事物を撮影させるキャプション評価を体験中に,観光体験全般に関する評価を体験後にそれぞれ求める心理的評価実験を実施した。また,2022年度には広島大学学生24名を耕三寺博物館に誘導し,実際に観光体験をさせた上で同様な評価を求める心理的評価実験を実施した。その際には高精度のGPS装置の携帯や, CCDカメラとジャイロセンサの頭部への装着により,観光体験時の被験者の位置情報や視線方向のデータを収集した。 これらは助成研究に先行して実施した予備的検討であったため,同様の実験を計画する本申請研究において,これら結果の活用可能性について改めて検討した。その結果,対象観光地が1ヶ所ではあるものの,信頼性の高い十分なデータであることが判断できたため,とりあえず初年度はこれらデータの分析に注力すると共に,他の観光地を選定する前段階として,耕三寺博物館なる観光地の特性を十分に検討,把握することに努めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前述した耕三寺博物館を対象としたVRと現地での観光体験の心理学的評価実験について,まず行動特性を比較した結果,VRでは現地より総体験時間は短縮されるものの,観光範囲内の移動距離や体験地点数は現地より増加し,地点間を瞬時に移動可能なVRの特徴が確認され,特に移動速度は概ね2倍に達した。また,同一の経路を複数回通過する頻度も現地よりVRが多く,歩行を伴わないVRでは疲労がないことから経路の容易な変更や反復が行われる可能性が示唆された。ただし,各地点の平均滞在時間においては現地で長くなる傾向が認められ,移動速度が遅い事に加え,移動中も移り変わる事物の様相が眺められているものと想定された。 観光体験中のキャプション評価実験の結果では,VRでは好ましくないと判断された事物(例えば設備機器や自販機など)がそれなりに着目されており,来訪まで過程があることによる到達感や,実際の観光地で期待される高揚感に乏しいことから,より客観的に事物を眺める傾向がうかがえた。また,現地では,VRで再現困難な建物細部など小スケールの事物が着目される一方,VRでは事物から受ける印象として,より直観的な感想の表出する傾向が認められた。 さらに観光体験後の評価では,「固有性」や「伝統性」などの客観的評価ではVRと現地でほぼ同等の評価が得られ,これら観点での視覚的情報の獲得に両者で差はないものの,「開放性」では現地が,直観的印象の影響が想定される「調和性」ではVRが,それぞれ高い傾向を示した。また,VRでも現地と同程度の満足感の得られることも示されたが,その一方で,VR体験後でも現地訪問の意欲はさほど衰えないことを把握した。 観光体験そのものに対する評価では,VRでも高い臨場感は得られたものの,移動の自由に関する満足度や,特に細部の識別についての評価では,現地に比べ劣ることを示した。
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今後の研究の推進方策 |
まず,耕三寺博物館で獲得したデータのうち,視線方向や観察時間,観察対象の相違などの観察特性の分析を進め,観光体験中や体験後の評価などとの関連について検討し,上述した傾向を観察特性の観点から確認すると共に,従前とは異なる観点からのVR観光体験の特徴の明確化を目指す。 次に,耕三寺博物館なる観光地1ヶ所についての結果であることから,魅力を感じる視覚的特徴が耕三寺博物館とは異なる観光地を選定し,同様の実験を行うことにより,把握したVR観光体験の特徴の汎用性について検討する必要がある。例えば,研究代表者らがこれまで研究対象とした広島県内の観光地のうち,池泉回遊式庭園である縮景園では,作庭時に周遊経路が予め計画されている可能性が高く,耕三寺博物館と比較して経路選択の自由度に乏しい。また,歩行に伴い移り変わる景色に興趣があり,僅かな段差や立ち位置の違いによる眺望の変化も意図されていることから,堂塔の幾何学的な配置ゆえ空間把握が容易な耕三寺博物館とは結果の相違が予想される。 また,耕三寺博物館は比較的小規模な観光地でありながら,全天球画像の撮影枚数は379枚と多く,アプリケーション作成に要する労力が極めて甚大であることから,移動経路を単純化したVRや,配置図から体験地点を選択するVRなどを開発し,地点数が減少しても既存のVR観光体験と同程度の心理評価が得られるのか確認することで,より効果的,効率的なアプリケーションの可能性についても検討する。 さらには,日中両国の被験者を用いて観光景観に対する評価を求め,異文化間の差異を検討した申請者らの既往研究に倣い,現地訪問の経験がないのはもちろん,日本文化に対する理解にも乏しい中国人学生を被験者としてVR観光体験を行わせ,日本人学生との異同を把握することにより,今後のインバウンド需要拡大に資するVR観光体験の活用可能性についての検討も計画している。
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