研究課題/領域番号 |
23K11654
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80020:観光学関連
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研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
米田 誠司 國學院大學, 観光まちづくり学部, 教授 (30636147)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 再埋め込み / 伝統食 / 郷土料理 / ご当地グルメ / 時空間 / 観光食 / 日常食 / 地域性 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究の目的は、日常の食と対比しつつ、観光の食の各要素がいかに時空間から脱埋め込みし、再埋め込みするかという変化のプロセスを明らかにすることである。そこで、時間と空間のそれぞれからの検証を試みる。具体的には、ギデンズらの議論から分析枠組みを設定し、①「地域伝統食」「郷土料理」「ご当地グルメ」の時空間再埋め込み、②「地域食材、「地域調理法」の時空間再埋め込み、③大正時代以降の「観光食」変遷プロセスの3つの観点について検証し分析を行う。この検証と分析により、食分野の観光研究に新たな視角を提示し、COVID-19で苦境に立つ観光業に対し新しい食のパラダイムや方向性の示唆を与える。
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研究実績の概要 |
(1)現地調査について:令和5年度は、「地域伝統食」と「郷土料理」、「ご当地グルメ」の時空間再埋め込みを検証するため、まず地域伝統食の調査を先行させた。当初調査を予定していた石川県輪島市が能登半島地震で被災したため、代替地として伝統食文化が豊富に残る鹿児島県奄美市を調査した。奄美大島は旧薩摩藩と琉球の両方からの影響を受け、それぞれの食文化が混ざり現地化する形で現在に伝わっていた。具体的には鶏飯等にみられるもてなしの料理が日常の料理として根付いており、いわゆるハレの食がケの食として定着しさらには観光の食になるプロセスを確認できた。また北海道東川町に地球温暖化の影響回避として岐阜県の酒造メーカーが移転し、北海道の米と水を用いつつ岐阜県で培った醸造技術が北海道で展開されていた。また北海道美瑛町は農業に力を入れ、農業生産に加えて商品加工や販売も実施する6次産業化の状況を確認した。一方で伝統食や地域の野菜や加工品の流通状況を確認するため、岐阜県高山市の道の駅全8駅を調査し、一例として無塩発酵漬物「すな」等が地域で大切に継承され、同時に観光土産として販売される状況も見ることができた。 (2)ヒアリング調査について:地域の資源や文化を大切に保全し展開している2事例についてヒアリング調査を実施した。まず岩手県遠野市の事例では、地域の農業と観光業の連携を図るためグリーンツーリズム事業を積極的に展開し、農家民泊等を通じて地域に経済的な貢献をしていた。また岐阜県岐阜市の事例では、長良川流域としての鮎や発酵調味料等の伝統食文化に着目し、それを地域で体系化し総合化して現代の食文化に応用していた。 (3)調査からの検討:上記の調査から、「地域伝統食」と「郷土料理」、「ご当地グルメ」の時空間再埋め込みに加えて、「地域食材」、「地域調理法」の時空間再埋め込みについて検討を進める手がかりを得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1) 「地域伝統食」と「郷土料理」、「ご当地グルメ」の時空間再埋め込み検証:当初調査を予定していた石川県輪島市が能登半島地震で被災したため、代替地として鹿児島県奄美市を調査したが、近隣地域からの影響を受けつつ、時代を重ね奄美地域としての地域伝統食が醸成されていることが確認できた。一方郷土料理は、地域に根付いた食材を用いて独自の調理法でつくられ、地域で広く実践・伝承される地域固有の料理であるが、この地域をどの範囲で設定するかで様相が異なり、今般高山市の調査で広域合併した自治体内においても一様でなく多様であることが確認された。またご当地グルメは、ある地域で振興策の一環として開発され普及した料理であるが、伝統に根ざす部分もあるものの観光客誘致の目的が明確であり、時空間再埋め込みプロセスにおいては注意を要する。 (2) 「地域食材」、「地域調理法」の時空間再埋め込み検証:令和5年度は、「地域伝統食」と「郷土料理」、「ご当地グルメ」の時空間再埋め込みを検証するため、地域伝統食の調査を先行させてきたが、ヒアリング事例から新たな枠組みを見出すことができた。岩手県遠野市では以前羊毛生産のため羊を飼っていた歴史があり、羊肉のジンギスカンが地域食として根付いていることがわかった。観光の食としても徐々に定着しつつあり時空間再埋め込みのプロセスを確認できた。また岐阜市の事例では、伝統的な溜り醤油が木桶醸造される事例も多く、溜りしょう油を用いた地域ならではの調理法も確認できた。 (3) 大正時代以降の「観光食」変遷プロセス:関西の温泉旅館で250年前の献立表が見つかり、江戸時代から明治へ、その後の文明開化から大正時代の大衆観光時代へ、そして戦後の団体型観光と変遷プロセスの枠組みは設定できた。ただ途中の時代に史料が存在しないケースも多く、どのように連坦していけるかの調査が重要となる。
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今後の研究の推進方策 |
(1) 「地域伝統食」と「郷土料理」、「ご当地グルメ」の時空間再埋め込み検証:「郷土料理」と「ご当地グルメ」の関係性を探るため、岡山県津山市の「津山ホルモンうどん」の変遷について詳細に調査したい。予備調査によると、津山地域は8世紀から牛馬の市が開催されており、肉食が禁止されていた明治時代以前にも「養生喰い」が行われていた。こうした背景から地域伝統食として根付き、郷土料理としてホルモン料理が伝わっている様子をまず確認したい。その上でB級グルメ、ご当地グルメとして台頭してきた経緯や、地元の実行団体についても調査し、時空間再埋め込みプロセスを明らかにしたい。津山市との比較のため遠野市等でも再調査していきたい。 (2) 「地域食材」、「地域調理法」の時空間再埋め込み検証:熊本県阿蘇地域で長年飼育されてきた「赤牛(褐毛和種)」が、近年健康志向を背景に赤牛ブームを迎えている。この赤牛の繁殖、肥育、移動、流通、商品化の空間再埋め込みプロセスを明らかにしていきたい。また江戸時代の北前船によって、山形県酒田市には京料理の調理法が伝わっており、各種史料から調理法再埋め込みプロセスについても調査していきたい。 (3)大正時代以降の「観光食」変遷プロセス:鉄道や航路が発達し、大衆観光が隆盛した大正時代から現代までの「観光食」の変遷を、兵庫県神戸市や栃木県日光市等の旅館やホテルの各時代の史料から変遷プロセスを調査していきたい。また1964年当時の全国の食に関する詳細なガイドブックを入手できたので、60年間にわたる各地域の「観光食」の時代ごとの発展、隆盛や衰退の動きを追っていきたい。これらのことから、「観光食」の百年にわたる時空間再埋め込みのプロセスを明らかし、また地域の土産品が地域性を反映する一方、大手メーカーによって同様の再埋め込みが他地域でも同時に起こるプロセスについても調査していきたい。
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