研究課題
基盤研究(C)
本研究の最終的な目的は、「カップルの多様な結びつき」を承認する新しい法制度を構想することにある。そのために、同性婚の可能性だけでなく、事実婚を含め横断的に「婚姻平等」や「婚姻の中立化」を志向し、日本の婚姻制度自体の相対化について、実態の把握と理論構築、 両面からの研究を行う。実態把握として、これまでデータの少ない事実婚カップルの実態について調査を行う。これをもとに、カップルの承認の新しい制度設計について構想したい。理論的な面では、家族法学における内縁の保護に関する先行研究を手掛かりとするとともに、多様なカップルの保護に先進的なアメリカ法、オーストラリア法を参考にする。
1)2023年度は、本課題研究の初年度でもあり、内縁(事実婚)に関する家族法学における先行研究についての整理を行った。古くは家族法学における内縁保護法理、準婚理論などについての研究をあらためて精査し、現代からの視点でそれらをどのように評価できるか検討をした。2)事実婚、同性婚に関する近年の裁判例について、それらの動向を分析した。2023年度にも、同性カップルや同性愛者の法的保護に関連する判決が、下級審を含め複数下されている。それらにおける裁判所の判断について、共通する点、個別の判断、などについて分析してきた。3)アメリカ合衆国ハワイ州での調査を行うことができた。子育て実績のある同性カップルへのヒアリング、ハワイ州における婚姻実態についてのヒアリングなど、法制度に関する調査だけでなく、実態を踏まえた研究に繋げるための素材を得ることができたと考えている。上記に加え、個別の課題として以下のテーマに取組んだ。4)法律上の婚姻関係にないカップルの問題として、①一方的な離別(不当破棄)や、②カップル間に生じる暴力の問題について、法的救済がどのようにあるべきか、個別の検討課題を抽出した。2023年度は、特に②の問題について、比較法研究も含めDVに関する防止法の視点、外国人被害者の視点から研究を進めた。以上、1)2)については、2024年度も継続して研究を行い、一定の方向性が見えた段階で、研究会報告や学会報告に繋げていきたいと考える。
3: やや遅れている
応募者は4月に所属大学を異動し、資料の状況などにも変化が生じた。その把握や研究室の移動、調整などに時間を有したたため、採択直後に予定していた内容の研究が進められなかった。また、申請時に予定していたオーストラリア調査だけでなく、ハワイ州における調査の可能性を得たため、そちらに関する法制度調査、またヒアリングの準備に時間を要した。
今年度は、2023年度の研究内容(内縁保護法理の現代的意味についての検討や、関連する近年の判例を通じた裁判所の動向の分析)を継続するとともに、国内における事実婚の実態について調査を進めたいと考える。本課題の申請時と比較すると、民間調査、公的調査ともに、事実婚に関する調査がいくつか行われ公表されている。事実婚に関する社会的な注目ゆえの状況だと考えるが、それらの調査との結果の比較を行うことを念頭に、事実婚に至った経緯、期間、養育する子の状況、当事者の経済状況など、事実婚当事者の生活実態を把握できるようなアンケート調査(WEB調査)を行う予定であり、この準備を進めていきたいと考える。具体的な調査については、調査会社を通じたものを予定しているため、打ち合わせ等も綿密に進めたい。
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法の科学
巻: 54 ページ: 184-187