研究課題/領域番号 |
23K11698
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分80040:量子ビーム科学関連
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研究機関 | 弘前大学 |
研究代表者 |
増田 亮 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (50455292)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
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キーワード | 超高水素圧 / 希土類 / ユーロピウム / メスバウアー分光 / 放射光 / 価数 / 水素化物 / メスバウアー分光法 / 高圧 |
研究開始時の研究の概要 |
エネルギー領域の放射光メスバウアー吸収分光法(EDSRMS)は、様々な環境セルを利用可能な電子状態測定方法であり、超高圧実験や温度制御実験でも用いられる。これまでも16万気圧以下の高水素圧力下での希土類ユーロピウム(Eu)の価数調査や成分分析がこの方法で行われてきた。本計画では測定効率50%向上および10%の成分比を検出できる分解能向上を目指して測定系高度化を行い、EDSRMSによってさらなる高水素圧力下や水素圧力と温度制御を組み合わせた条件下でのEu電子状態の解明を図る。
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研究実績の概要 |
超高水素圧力下のEu水素化過程においては、これまで我々が明らかにしてきたおよそ16 GPaで生成される立方晶Fm-3mに近いEuHx (x~3)のみならず、92 GPa以上において結晶構造の異なる水素化物が存在することが中国を主とするグループによってX線回折によって明らかにされてきた。また、理論計算によってそのような構造においてはx≧5を超える高水素状態になっていることが予想されている。このような超高水素圧下での測定に対応した放射光メスバウアー吸収分光系を構築することで、新奇水素化状態における電子状態の実験的解明を図ることが本研究の目的である。具体的には、超高水素圧条件を生成するための圧力セルの利用により試料空間が極めて小さくなることに起因する測定効率の低下を補うべく、分光系における核アナライザーに注目し、それに最適な材質とメスバウアー効果を高める条件を整えることとしている。2023年度は高水素化Euは2価であるとの理論予測に基づいて、核アナライザーとして2価Eu物質を探査した。これは、メスバウアー測定におけるエネルギー走査範囲を最適化することで、実質的な測定効率を向上を図るためである。そのため、EuB6についてEuメスバウアー測定を行い、それが新しいアナライザーとして適切な特性を備えていることを見出した。また、超高水素圧対応の高圧セルでの放射光メスバウアー測定の可能性の検証のため、実際に放射光実験で強度を評価した。その結果、従前の16.2 GPaを大きく上回る41 GPaでのスペクトル計測に成功し、このセルを適用可能な圧力範囲では測定可能である、すなわち50 GPa以上のさらなる高水素圧下でも測定が期待できる結果を得た。また、そのスペクトルから3価Euを示す水素化物においては吸収位置の変化が見られたが、加圧による格子の収縮の効果として理解できるものであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度は、標的とする超高水素圧力下において予想される2価のEuに対して測定効率を向上させるためのエネルギーアナライザーの探索と、高水素圧力下における放射光メスバウアー分光測定の実現可能性の検証を行った。 エネルギーアナライザーの探索においては、想定される2価での放射光メスアウアー測定においてエネルギー走査の範囲を効率的にするために、エネルギーアナライザーとして最適な2価Eu物質を検討した。これは、従前のEuF3が3価Euの物質であり、またアナライザーとして選別するエネルギーが完全には単一でなく、超高圧測定で課題になる測定効率について向上の余地があると考えられたためである。探索した条件としては、メスバウアー効果が強く起きること、超微細分裂を示さず単一のエネルギーを選別すること、大気中でも化学的に安定で取り扱いがしやすいことが挙げられる。ここにおいて、硫化物EuSとホウ化物EuB6を選定し、両者についてEuメスバウアー測定により特性評価を行った。その結果、EuSはメスバウアー効果の強さと超微細分裂の無さについては適していたが、放射光の利用間隔のような長期的な化学的安定性に不安を残す結果となった。一方、EuB6については3条件をいずれも高い水準で満たし、2価物質に対するエネルギー基準物質として適しているとの結果が得られた。 高水素圧力下における放射光メスバウアー分光測定の実現可能性の検証については、従来実現していた16.2 GPa以上の超高水素圧力下における放射光メスバウアー吸収分光測定を試みた。その結果、41 GPaにおいてもメスバウアースペクトルを測定することに成功した。また、メスバウアースペクトルにおける3価Eu成分は、加圧に伴う格子の圧縮によるものと理解できる吸収位置の変化を示し、放射光X線回折の結果と整合するものであった。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度の研究によって得られたEuB6のエネルギーアナライザーとしての好適性を生かし、想定される超高水素圧力状態でのEu2価の測定に向けてEuB6による放射光メスバウアー吸収測定の確立を図る。これは、従前に測定されてきた常温のEuF3をエネルギーの基準としたデータとの互換性を確保し、過去文献との比較を可能にする点も含むものとする。実際に2023年度の超高水素圧力下実験においては、過去のデータとの直接的な互換性のためにEuF3をエネルギーアナライザーとしたとしたデータであったため、EuB6をはじめとする2価Eu物質のエネルギーアナライザーを用いた測定系を実際に構築する。加えて、2024年度はエネルギーアナライザーの冷却系についても検討し、実装を目指す。すなわち、メスバウアー分光法において測定効率および精度の双方に低下をもたらす不要振動問題を十分に改善すべく、冷凍機の振動に対してアナライザー側で制振構造を導入した測定系の構築を図る。 また、超高水素圧力下Euにおけるメスバウアースペクトルの実現可能性も引き続き探り、できる限り高水素圧での測定を試みる。すなわち、上述の改善を順次施した測定系を利用して、電子状態の実験的測定としては未踏の50 GPa以上の高水素圧力下でのEuメスバウアー測定を行う。加えて、超高水素圧力下の実験的な測定は前例が極めて少ないため、研究協力者の松岡プロフェッショナルフェロー(フィリピン大ディリマン校)と連携して、要所においてX線回折法やラマン分光法などによって構造についても調査し、微視的観点からの構造と電子状態の両面からのアプローチ体制の構築を目指す。
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