研究課題/領域番号 |
23K11803
|
研究種目 |
基盤研究(C)
|
配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
高野 温 大阪大学, 大学院工学研究科, 招へい研究員 (30883657)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
|
キーワード | 再生医療 / 間葉系幹細胞 / 細胞シート / 初期細胞分布 / 低酸素培養 |
研究開始時の研究の概要 |
ヒト間葉系幹細胞(MSC)は創傷治癒効果がある液性因子を分泌するため,床ずれ等の自然治癒が難しい創傷の治療にむけた再生医療等製品の原料細胞として期待できる.しかし,ヒトMSCの未分化性と増殖性を制御した培養が難しいため,治療に利用可能な品質のヒトMSCを安定して生産することは困難とされている.本研究課題では,低酸素培養によってヒトMSCの未分化性と増殖性が制御できる可能性に着目して,均質なヒトMSCを安定して培養する方法を確立する.ヒトMSCにとって最適な低酸素培養条件を検討することで,品質にばらつきが少ないヒトMSCを使った細胞シートをつくり,治療に利用可能な創傷被覆材の開発を目指す.
|
研究実績の概要 |
本研究課題は,培養容器内に細胞を均一に分布させる接種方法と低酸素下での培養を併用することで、培養再現性が高いヒト間葉系幹細胞(hMSC)シートの開発とする。当該年度は、hMSCの意図しない分化や増殖阻害を防いで、増殖性や未分化性を均一にそろえる培養方法を確立するために、主にhMSCの培養安定化に関する条件検討を行った。 本研究で取り組む投入接種(細胞接種濃度を調整した培養液と培養容器をあらかじ37℃に加温すること培養液の温度勾配により生じる熱対流を抑えながら、接種直前に培養液全量を転倒混合して培養容器内に投入することで細胞分布を均一にする接種方法)と接着性細胞の一般的な接種方法である懸濁接種(細胞濃縮懸濁液と培養容器の新鮮培地をあらかじ37℃に加温して、細胞濃縮懸濁液を新鮮培地にピペッティングする接種方法)について、培養再現性を調べた。培養再現性は、①接種したhMSCの初期接種密度、②比増殖速度、③hMSCから分化誘導した脂肪細胞の吸光度について、接種方法によるばらつきを変動係数や標準偏差で比較した。実験の結果、すべての項目で、投入接種の変動係数あるいは標準偏差は、懸濁接種よりも有意差ありで小さくなり、投入接種によりhMSCの培養再現性向上を達成した。 細胞接種時に初期細胞分布を制御することで、ばらつきが少ないhMSCを培養できるようになり、来年度以降に細胞シートを安定的に作製する培養方法の検討が可能となった。細胞シート化培養では、当該年度に実施した細胞がコンフルエントに至るまでの培養に加えて、オーバーコンフルエントでの培養も含まれるため、細胞シートの穴あきや破れの原因となる細胞集団同士の融合不良への対処が想定される。これまでの検討実験をふまえた対策案として、低酸素培養の併用が有力だと考えており、細胞シートを安定的に再現性良く作製する培養方法の検討を行う予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題で設定した当初の計画に従い,当該年度では培養再現性があるヒトMSCの培養条件を明らかにした。品質にばらつきがない細胞シートを安定的に製造するには、培養容器内に接種された細胞を可能な限り均一に分布させることで、細胞同士の相互作用に勾配が生じないように培養して生育にムラ培養再現性の向上につながると考え、本研究で提案する投入接種が一般的な懸濁接種と比較して、接着後のhMSCの細胞分布にどの程度違いができるかと、その違いによって培養再現性にどの程度影響するかを調べた。実験の結果、投入接種した場合の接種密度の変動係数は、懸濁接種した場合と比べて約10%小さくなった。同様に、比増殖速度についても、投入接種で培養したhMSCの比増殖速度の標準偏差を懸濁接種の場合と比較すると約25%減少した。その他、それぞれの接種方法で培養したhMSCを脂肪細胞に分化させ、Oil Red O染色した抽出液の吸光度の変動係数を比べると、投入接種は懸濁接種の50%程度に減少した。これら結果より、投入接種で培養したhMSCは、懸濁接種した細胞と比べてばらつきが少ないことが示された。投入接種を用いたhMSCの安定的な培養方法が確立されたことで、次のステップである細胞シート培養に移る準備ができたと考えられる。
|
今後の研究の推進方策 |
前年度で得られた成果をふまえ,本年度では、細胞シートを安定的に作製する培養方法の確立を目指す。細胞シートの作製では、細胞をオーバーコンフルエント状態まで培養してシート化させるため、当該年度で得られたコンフルエントするまでの培養方法が適用できるかを確認する。特に、オーバーコンフルエント培養では、細胞同士が接触して細胞集団を形成するが、さらにコンフルエントが進むと、異なる細胞集団が接触した際に集団同士の境界が融合せず、すきまが形成されることがある。細胞シートでは、このすきまがシートの破れや穴になるために不良品の原因となることから対処が必要となる。対処する方策には、低酸素培養の利用を予定している。これまでの実験より、低酸素培養したhMSCは、培養再現性の向上に寄与しなかったが、その一方で、細胞遊走性が向上して細胞同士が接触しても細胞集団を形成しにくい傾向が認められた。そのため、オーバーコンフルエント状態の細胞集団についても、低酸素下では細胞遊走性が高くなることで、細胞集団同士の融合が促進することが期待できる。その他、細胞シートは薄く破れやすいため必要に応じて剥離ツールを設計・製作するなどの培養方法の最適化を行うなどして、hMSC細胞シートを再現性良く安定して作製する方法を確立に取り組む。
|