研究課題/領域番号 |
23K11830
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分90110:生体医工学関連
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
大谷 智仁 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 准教授 (40778990)
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研究分担者 |
和田 成生 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 教授 (70240546)
本木 慎吾 大阪大学, 大学院基礎工学研究科, 講師 (70824134)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
2023年度: 1,820千円 (直接経費: 1,400千円、間接経費: 420千円)
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キーワード | 計算バイオメカニクス / 磁気共鳴イメージング / 4D flow MRI / 非線形ダイナミクス / データ同化 / 血行力学 / 血液流動 / 数値流体計算 |
研究開始時の研究の概要 |
循環器の血液流動特性や輸送効率の変化について,時空間的な複雑性を持つ血流動態の情報の不足により,限定的な理解に留まっていた.この状況に対して,医用画像計測および計算力学における近年の技術革新により,循環器の形状や運動,血流速度場の非侵襲計測や,これらの計測情報に基づく数値計算を通じて,患者ごとに循環器血流場の大規模時空間データの取得が可能となりつつある. 本研究では,循環器血流場の大規模時空間データから,血液流動の力学的性質を紐解き,臨床支援へと接続するための数理的解析手法を確立する.複雑性を持つ流れの記述のための数理体系を導入し,循環器の血液流動の可視化および流動特性の定量指標を構築する.
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研究実績の概要 |
2023年度において,肺葉切除手術後における左心房内の血流解析を実施し,切除する肺葉の違いが血流動態に与える影響を評価した.また,MRIによる流体計測に基づき,正常圧水頭症患者の脳室内における脳脊髄液の流動特性の評価指標を構築した.さらに,複雑な流動場に対するMRI流体計測情報の理解にむけ,核磁気共鳴原理に基づくMRI流体計測の計算力学モデルを構築した. 4名の肺がん患者について,術前の胸部CT画像に基づき,仮想的に肺葉切除後の左心房形状を構築した.この処理を4つの肺葉に対してそれぞれ行い,血流場の数値流体計算を実施した.結果から,左上肺葉の切除時について,残存する肺葉から流入する血流のフローパターンの変化が相対的に大きく,流れの衝突に伴うエネルギ散逸の度合が大きくなった.左上肺葉切除による血栓形成リスクが相対的に高いことが過去の疫学調査から報告されており,今回の結果は,肺葉切除に伴うフローパターンの変化と血栓形成との関連を裏付けた (Yi et al., Front. Cardiovasc. Med., 2024). MRIによる流体計測と数値シミュレーションを組み合わせ,非線形ダイナミクス理論の導入により,正常圧水頭症患者の脳室内における脳脊髄液の混合度合の定量化を実施した.結果として,健常者の脳脊髄液は心拍に伴う安定的な周期軌道を形成するが,正常圧水頭症患者では流体混合が生じ,数回の心拍で第三脳室と第四脳室間での脳脊髄液の混合が生じた.正常時において,脳脊髄液の成分組成は各脳室で調整がなされ異なることが知られている.得られた知見は,正常圧水頭症患者における過度な流体混合が脳室内の脳脊髄液の組成を乱し,生理的恒常性の維持に影響を与える可能性を示唆する(Maeda et al., J. Biomech., 2023).
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通りに進行しており,非線形ダイナミクス理論の導入により,これまで評価が困難な生体内流動の衝突や混合などの定量化を実現できた.1例として,正常圧水頭症における脳脊髄液流動の流速の増加は臨床所見の1つとして理解され、その生理的な影響や意義が不明な状況にあった.今回の新しい評価指針の提案により,その流動特性の変化を定量的にとらえることに成功し,流体混合の観点から考慮すべき生理的影響を見出した.以上より,生体流れの理解に対する新しい数値解析手法の導入により,従来の解析手法では困難な新しい生理現象の評価や理解の実現可能性を示せた. 一方で,MRIによる流体計測の大規模データ解析を実施する中で,データに含まれる系統的誤差の影響が無視できないことに気づき,MRI計測情報の妥当性の理解や,将来的な流体データ同化技術の確立にむけて,流体力学的見地からMRI流体計測の包括的理解の必要性を見出した. そこで,MRIの基礎原理における核磁気共鳴に基づき,MRI流体計測を仮想的に表現する計算力学モデルの開発に着手した.定常流計測に対して,実際のMRIと同一のアルゴリズムによる速度再構成まで成功しており,複雑流動場に対する仮想MRIにより,本来の流動場の性質と,MRIの計測結果との乖離を包括的に理解できる可能性がある.
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今後の研究の推進方策 |
2024年度では,MRI流体計測に基づく生体内の複雑流動現象理解の枠組みをさらに広げ,脳室全域の脳脊髄液流動や左心室内の血流などを対象に,提案する数理解析手法の有効性を示していく.ここで,計測・計算データの大規模化により,データ処理の効率化が作業全体に大きく影響するため,High performance computing分野における大規模データ解析の方法論の導入を試み,現状の計測・計算で得られる大規模データ解析プラットフォームを確立する. 並行して,MRI流体計測データの包括的理解にむけて,仮想MRIシミュレータの開発をさらに推進する.循環器血流場の流速分布に対して仮想的にMRI計測を実施し,理想的な条件において取得されるMRI流速分布と,実際のMRIから得られる流速分布との差異を比較することで,MRIによる血流計測の妥当性や適用範囲について考察する.さらに,MRIは大域的な血流場の計測手法(位相コントラスト法)以外にも複数のモダリティの流体計測手法を持つため,これらの計測手法を流体力学的観点から統合することで,生体内流動のマルチスケール性を定量的に評価できる可能性がある.
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