研究課題/領域番号 |
23K12011
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01010:哲学および倫理学関連
|
研究機関 | 沼津工業高等専門学校 |
研究代表者 |
太田 匡洋 沼津工業高等専門学校, 教養科, 准教授 (20964901)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | J.F.フリース / フリース学派 / 新フリース学派 / オットー・マイヤーホフ / パウル・ベルナイス / ルドルフ・オットー / ショーペンハウアー / ニーチェ / 近代ドイツ哲学 / レオナルト・ネルゾン / 工学の哲学 |
研究開始時の研究の概要 |
従来、19世紀から20世紀初頭のドイツ哲学は、ヘーゲル学派によって形作られた「ドイツ観念論」という系譜の支配のもとで、哲学の思弁への傾倒および、それにともなう哲学の孤立化という図式のもとで理解されてきた。また従来の科学哲学においては17世紀の科学者たちが主たるモデルとされており、19世紀から20世紀における自然科学の内実については必ずしも脚光をあびない側面があった。本研究は、19世紀から20世紀にかけてのフリース学派および新フリース学派における哲学と自然科学の協働を、今世紀に初めて勃興した新規の学問分野である「工学の哲学」の枠組みを用いて分析することによって、その内実の解明を行うものである。
|
研究実績の概要 |
今年度は、(A-1) 哲学における自然科学の方法論の研究に相当する年度であるが、ヒルベルト、ベルナイス、マイヤーホフといった自然科学系の方法論に関する影響関係に加えて、人文社会科学との影響関係という観点からも、研究を推進した。具体的には、ルドルフ・オットーに対するフリースの影響関係について、基礎的研究の観点から指摘を行った。 さらに本年度は、研究の視野を広げて、(α)19世紀の哲学者ニーチェと概念工学の関係、(β)オーストリア哲学、(γ)19世紀ドイツ哲学とフランス現象学の関係、というトピックについても、検討および研究成果の公表を行った。(α)19世紀の哲学者ニーチェと概念工学の関係については、ブライアン・ライター『ニーチェの道徳哲学と自然主義――『道徳の系譜学』を読み解く』の合評会の中で指摘した。プロジェクトによっては、現代社会に対する生産的反省に資する論点をニーチェから取りだす試みもなされている。そのようなニーチェ解釈と概念工学を組み合わせることによって、新たなプロジェクトが誕生しうるのではないか。(β)オーストリア哲学については、ブレンターノ学派に属するアレクシウス・マイノングの哲学の内実を検討した。マイノングが属していた思想潮流は、今日でこそ忘れられがちな流れであるが、20世紀初頭においては「ブレンターノ派」と呼ばれる一つの学派を形成していた。20世紀初頭の段階においては、「独墺哲学」というかたちでブレンターノ派に代表されるオーストリア哲学にも場所が与えられていたことが、当時の知識社会学的な特徴として挙げられる。そして、このブレンターノ派の一潮流として位置づけられるのが、マイノングの対象論である。(γ)19世紀ドイツ哲学とフランス現象学の関係については、ミシェル・アンリによるショーペンハウアー批判と、それに対するショーペンハウアー側からの応答について、検討を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究課題は、(A)フリース学派・ 新フリース学派の研究、(B)哲学と自然科学との協働、(C)工学の哲学、の3つの観点から、(1)基礎的研究および、(2)応用的研究を行うものである。今年度は、(A-1) 哲学における自然科学の方法論の研究に相当する年度であるが、ヒルベルト、ベルナイス、マイヤーホフといった自然科学系の方法論に関する影響関係に加えて、人文社会科学との影響関係という観点からも、研究を推進した。具体的には、ルドルフ・オットーに対するフリースの影響関係について、基礎的研究の観点から指摘を行った。 さらに本年度は、(α)19世紀の哲学者ニーチェと概念工学の関係、(β)オーストリア哲学、(γ)19世紀ドイツ哲学とフランス現象学の関係、というトピックについても、研究成果の公表を行った。(α)に関しては、【ニーチェ×分析哲学】という近年のプロジェクトが、その更なるディテールとして、【ニーチェ×分析哲学的手法】および【ニーチェ×メタ倫理学】(本書およびレジンスター『生の肯定』)というにとどまらず、【ニーチェ×概念工学】という図式のもとで理解・展開することも可能なはずであることを指摘した。(β)については、ブレンターノ学派に属するアレクシウス・マイノングの哲学の内実を検討した。ブレンターノ派の潮流に身を置きながら、マイノングの対象論が目指したものを、一言でまとめるならば、非存在を対象とした新たな学問領域の構築である。そのための着眼点となったのが、存在者における「存立(Bestand)」という領域の確立であり、「客態(das Objektiv) 」というステータスの定立である。(γ)については、ミシェル・アンリによるショーペンハウアー批判と、それに対するショーペンハウアー側からの応答について、検討を行った。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、(B-1)自然科学における科学方法論の言説の分析を行う。具体的には、フリース学派の植物学者であるM.J.シュライデンおよび、新フリース学派の生化学者のオットー・マイヤーホフを中心に、フリース学派の自然科学者における科学方法論の言説の分析と整理を行うことを目標とする。マイヤーホフといえば、1922年に筋肉における乳酸生成の研究でノーベル医学生理学賞を受賞した人物である。実はマイヤーホフは終生、新フリース学派の一員としての顔も持っており、最初期のキャリアに至ってはフリース受容に軸足を置いた哲学研究からスタートしている。マイヤーホフの最初期の論文の一つは、1907年に発表された「心理学的理性批判に関する論争」と題されたもので、コーヘンとナトルプが1906年に編集した『哲学著作集』にカッシーラーが寄稿した「批判的観念論と「健全な人間悟性の哲学」」への再反論を企てたものである。詳細については別稿に譲るが、マイヤーホフの最初期の哲学的著作は、新フリース学派の立場からの新カント派への再反論という、両学派の対立の急先鋒を担うものだったわけである。 それに加えて、(A-1)哲学における自然科学の方法論の研究の継続、具体的には、アーペルトにおける自然科学の方法論に関する言説の検討を行う。より具体的には、アーペルト『帰納の理論』における確率をめぐるアーペルトの言説を検討することによって、19世紀の哲学における自然科学の言説の内実について、一定の見通しを得ようとするものである。
|