研究課題/領域番号 |
23K12033
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01040:思想史関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
小俣 智史 早稲田大学, 文学学術院, その他(招聘研究員) (00608432)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2027年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2026年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2025年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | ロシア / 思想 / 西欧 / 共同性 / ロシア思想 / 西欧思想 / 空想的社会主義 / キリスト教社会主義 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、19世紀ロシア思想(フョードロフ、ドストエフスキーなど)における共同性、友愛や兄弟愛にもとづく人々の統一や連帯、協同の思想を研究対象とし、その形成過程に影響を与えた要素、とりわけ西欧思想からの影響について、宗教思想研究や社会思想研究、文学研究といった既存の枠組みにとらわれることなく総合的に分析する。そのことにより、従来西欧の哲学史・思想史から切り離されて論じられることの多かったロシア思想を、当時のヨーロッパ全体の思想的営為の流れの中に位置づけることを目指す。
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研究実績の概要 |
本年度は、19世紀ロシア思想における〈共同性〉と西欧思想の影響関係を明らかにする試みの一環として、19世紀ロシアにおける西欧思想の受容、とりわけラムネーやサン=シモン、フーリエといったキリスト教社会主義や空想的社会主義の受容についての文献を入手し、その検討を行った。 2024年2月17日から22日にかけて、北海道大学図書館および同大スラブ・ユーラシア研究センターにて資料調査を行い、ロシアにおけるキリスト教社会主義や空想的社会主義の受容についての資料を手に入れることができた。その過程で、19世紀後半に刊行されていた正教系の雑誌”Православное обозрение”において西欧の宗教思想や神学の動向が細かく観察されていた様子を知ることができたことは、今後の研究にとって有益な手がかりとなるだろう。 本年度の研究および調査の過程では、本研究課題のあらたな展開として、19世紀の司祭А.В.グミレフスキーに着目した。グミレフスキーの名は日本ではあまり知られていないが、赤十字運動の先駆けとなった看護婦の協会の設立に携わるなど、19世紀中頃の正教会の社会的活動にかかわっていた人物であり、当時の正教会における女性論を考える上でも重要な人物である。本年度の調査では、”Странник”誌に掲載されたグミレフスキーの著作を数多く入手することができた。加えて、今後の研究の中で正教会における女性論へと研究を展開する可能性を見据えて、正教系の雑誌の誌上で女性について論じた記事を重点的に収集した。 本年度は論集『ロシア宇宙主義』(共訳、2024年4月刊行)に収められたフョードロフの博物館論の翻訳に取り組み、これを完成させ、解説を執筆した。その過程でフョードロフの思想と西欧思想の関係性についてあらたな視点を得ることができた。この点については来年度以降に研究発表や論文投稿を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けて外務省によりロシアへの渡航中止勧告が出されている状況をふまえ、今年度はロシアでの資料調査を行わず、その代替手段として北海道大学図書館および同大スラブ・ユーラシア研究センターで資料収集を行った。しかし、ロシアでの調査を行わなかったため、いくつかの研究上重要な資料を手に入れることができていない。こうした入手が遅れている資料については、現在、ロシアへの渡航以外の手段で入手することができないか可能性を模索している。 上記の理由により、当初計画していた西欧の社会主義とロシア思想との関連性についての研究には遅れが生じているが、そのかわりに本年度の調査・研究を通じてА.В.グミレフスキーの活動と思想というあらたな研究の切り口を見いだすことができた。この人物についてはまだ資料が十分に揃っていないが、次年度以降も継続的に資料の収集に努め、その活動や思想を明らかにしてゆくことで、例えば、19世紀ロシアにおける赤十字運動と西欧の博愛思想との関係や、当時のロシア正教会における女性論と西欧における女性論との関係といった論点へと研究を展開させることができるだろう。 また、今年度はフョードロフの博物館論の翻訳に取り組んだが、その翻訳作業の過程で、フョードロフの思想と西欧思想の関係性についてあらたな知見を得た。この点については、現在、研究発表および論文投稿の準備を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も19世紀ロシア思想と西欧思想の影響関係を明らかにする試みを続けてゆく方針に変わりはない。来年度以降も引き続き関連する資料の収集を行う予定である。今年度はロシアによるウクライナ侵攻の影響を受けてロシアでの文献調査が難しいため、これまでのところロシア以外の地域で文献調査を優先しているが、今後も引き続き状況を注視し続け、可能であればロシアでの調査を行いたい。しかし、来年度も状況が変わらない可能性もあるため、ロシアへ渡航せずに必要な文献を手に入れる方法についても併せて考えてゆくこととする。 来年度以降はこれまで収集した資料を用いて、国内外の学会・研究会での研究発表・論文投稿に注力してゆく。来年度は以下の内容の発表および論文執筆を予定している。 2024年6月に開催予定のロシア思想史研究会において、フョードロフの博物館論について発表を行う。この発表では、博物館論を入口としてフョードロフの思想全体へと論を進め、その思想に対して西欧思想が与えた影響について多角的に論じる。具体的には、フョードロフの博物館論と西欧の博物館論との比較に加えて、フョードロフの学問論にみられるドイツ思想の影響や、サン=シモンの説く「自然の搾取」とフョードロフの説く「自然の統御」の関係性について考察し、フョードロフの思想を西欧思想の受容と超克の結果として位置づけるつもりである。この発表に対して寄せられる意見をふまえて発表内容に加筆修正を施し、日本ロシア思想史学会の学会誌『ロシア思想史研究』に論文として投稿する予定である。
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