研究課題/領域番号 |
23K12055
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01060:美術史関連
|
研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
内山 尚子 広島大学, 人間社会科学研究科(総), 助教 (80943555)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
|
キーワード | 西洋近現代美術史 / アイデンティティの複数性・流動性 / ジェンダー / 受容 / 芸術家の移動 / トランスナショナリズム / 人種・エスニシティ / アメリカ合衆国 / マイノリティ / 「他者」への眼差し / 旅・移動 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、西洋近現代美術史(主に20世紀のアメリカ合衆国)におけるエスニック・マイノリティの芸術家たちが、 文化的「他者」をどのようにイメージしたのかを明らかにするものである。白人を中心とした美術界で「他者」と位置付けられてきた彼ら(男性に限定しない。以下同様)自身が、異なる文化的背景を持つ芸術家たちとの交流や協働、国内外への旅や移動を通して「他者」にどのような眼差しを向けたのかに注目しつつ、それが彼らの美術実践やマイノリティをめぐる社会運動への取り組みにおいて果たした役割を検討する。これにより、美術史におけるマイノリティ研究の議論を進展させ、西洋近現代美術史の孕む多様性を一層明らかにする。
|
研究実績の概要 |
まず、日系アメリカ人の彫刻家・デザイナー、イサム・ノグチ(1904-1988)の第二次世界大戦後の日本への旅と広島での活動に関し、ジェンダーの視点を新たに導入することで、これまで取り組んできた研究をさらに発展させ分析に取り組んだ。特に注目したのは、戦後の広島においてノグチの作品が、家父長制の眼差しに支えられ形作られてきた「女性」のイメージとどのように結びつけられたのかという点である。この分析を通して、アメリカ合衆国国内においては通常「アジア系」ないし「日系」と位置付けられるノグチが、アメリカ合衆国国外において「アメリカ人」として再規定されてゆく過程を、社会的文化的文脈に照らして具体的に明らかにすることができた。この研究成果は論文'Isamu Noguchi's Bridge Railings in Post-war Imaginations of Hiroshima'としてまとめ、The Journal of the Asian Conference of Design History and Theoryにて発表した。 加えて、アフリカ系アメリカ人の画家、ノーマン・ルイス(1909-1979)およびエマ・エイモス(1937-2020)についての基礎的な研究調査にも取り組んだ。先行研究の読解に加え、8月から9月にかけてアメリカ合衆国行った現地調査では、関連作品を実見調査するとともに、ニューヨークのションバーグ・センター、およびワシントンD.C.のアーカイヴズ・オブ・アメリカン・アートにて、両者に関する一次資料を収集・調査した。公民権運動の時代のグループ「スパイラル」での活動が注目される両者ではあるが、アメリカ国外への訪問や滞在を含むその前後の活動についても広く目を向けることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、アメリカ合衆国を含む美術館や資料館での作品及びアーカイヴ資料の調査と、文献読解、資料の分析、そして論文執筆を通した研究成果の発表に取り組んだ。特に、作品の制作時点のみならず、その後の受容にも視野を広げることで、本人の認識を超えた芸術家のアイデンティティの複雑な様相を浮かび上がらせることができた。また、これまで研究に取り組んできたイサム・ノグチに関する追加の資料収集や文献読解、分析に加え、新たにアフリカ系アメリカ人の芸術家たちにも研究の射程を広げるべく、ノーマン・ルイスおよびエマ・エイモスに関する基礎資料の収集を、現地調査や文献購入等を通じて開始することができたことも、大きな成果であった。ノグチ、ルイス、エイモスはともにアメリカ合衆国において「エスニック・マイノリティ」とみなされる存在だが、そのトランスナショナルな活動及びその受容に着目することで、彼ら彼女たちのアイデンティティの相対化について実証的に考察を進めることができていると考える。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、日系の芸術家の活動と作品について引き続き検討を進めるとともに、より多くの時間をアフリカ系アメリカ人の芸術家たちの活動(トランスナショナルな移動を含む)と作品の調査分析に充てる予定である。これは、エスニシティの枠組みを超えたマイノリティの芸術家たちの協働について今後分析するための基礎研究の必要性によるものである。さらに、エマ・エイモスをはじめとする女性芸術家の作品と活動に特に注目し、アメリカ国外への移動がアフリカ系アメリカ人としての彼女たちの自己認識にどのように影響したのかについて、その作品や言葉の分析を通し実証的に検討してゆきたいと考えている。エスニシティだけでなくジェンダーの観点からもマイノリティ性を持つ彼女たちの取り組みに目を向けることで、西洋美術史におけるマイノリティ研究をインターセクショナリティの観点からより一層複雑化してゆくことを試みる。
|