研究課題/領域番号 |
23K12065
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分01070:芸術実践論関連
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
槇原 彩 成蹊大学, 文学部, 客員講師 (70928572)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2027年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 共創的芸術実践 / 地域精神医療 / 共事者性 / 芸術文化の社会的価値 / 文化政策 / アートマネジメント |
研究開始時の研究の概要 |
近年、芸術文化による共生社会の実現へ向けた取り組みやその研究が喫緊の課題となっている。しかし、行政施策や地域社会の理解が不十分な地域精神医療分野は研究対象の埒外であり、“健常者”が“障害者”との共創的芸術実践によって何を得るのかを明らかにしようとする試みはほとんどなされてこなかった。本研究では、地域精神医療をおこなう医療機関等において共創的芸術実践を実施また参加する“健常者”の共事的意識の醸成要因とその形成プロセスを明らかにする。そして、“健常者”にとって地域精神医療が無関係なものでなく、共創的芸術実践を通じた共事者性の獲得等の変化も、共生社会へ向けた芸術文化の社会的価値であることを提示する。
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研究実績の概要 |
本年度の研究実績は次の3点である。 研究実績(1)は、地域精神医療と連携しながら共創的芸術実践を実施する2団体(NPO法人シアターネットワークえひめ、医療法人直志会袋田病院)がそれぞれ開催した展覧会・イベント・ワークショップの現地調査である。本年度は、地域精神医療領域において実施される共創的芸術実践の取り組みについて、その現場観察に重きをおいた。その結果、今回調査へ赴いた活動では障害福祉や医療従事者が活動の主体となり、実働を担っていることが明らかとなった。それぞれの日常のケアの延長として芸術活動が位置づけられており、精神保健福祉士や作業療法士などがアーティストや地域関係者と連携をとりながら、アートを仲立ちにした関係性を築いていた。両団体が実施した催しでは、「精神障害者が創作した芸術作品を健常者が鑑賞する」という従来の構図に留まらず、精神障害者が創作した芸術作品を介して、障害当事者と展示来場者の直接的な交流がなされていた。また行政施策や地域社会の理解が必要不可欠でありながらも、不十分な当該領域において、福祉現場や医療現場と地域社会の接点として、精神障害者が創作した芸術作品が媒介的機能をはたしていた。 研究実績(2)は、「NPO法人シアターネットワークえひめ」が実施した《「この病気にならないと理解できないと思います。どうせ、他人事でございましょう」展》の来場者アンケートのテキストマイニングである。主催者からアンケート結果を提供いただき、自由記述欄の記載内容についてその傾向を分析した。その分析結果は主催団体の報告書と日本文化政策学会で発表した。 研究実績(3)は、調査対象へのインタビュー調査である。上記展覧会へ携わった“共事者”8名を対象に非構造化インタビューを実施した。現在、M-GTAを用いて、インタビューで取得したデータを分析している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度に、調査対象の共創的芸術実践の現場へ赴き、その様相を観察することができたことは、本研究を少なからず進展させた。 当初の予定では、年度ごとに1団体への調査を予定していたが、本年度は調査対象の2団体がそれぞれ複数回にわたって催しを開催した。そのため急遽それぞれの催しへ赴き、共創的芸術実践の様相や、それを介した人々の関係性を把握しつつ、調査協力者との関係構築に努めた。またその関係者とも今後の調査研究について方向性を共有しただけでなく、インタビュー調査を実施することもできた。 一方で、本年度は調査の比重が大きかったため、研究論文等の投稿には至らなかった。今後は上記成果を活用しながら質的研究手法を用いた共事的意識の醸成要因の特定と、形成プロセスの解明に努める。そして研究論文等でその成果を広く発表する。 国内の他の調査対象へアプローチや、海外事例へのインタビュー調査も予定している。
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今後の研究の推進方策 |
本年度は現場観察に重きをおく結果となったため、国内でおこなわれている地域精神医療における共創的芸術実践についての先行研究の精査が不十分となった。次年度は改めて文献調査の比重も大きくする予定である。 現場観察をおこなった結果、医療機関と地域社会の連携が不可欠となる地域精神医療領域で実施される共創的芸術実践を対象とするにあたり、ホスピタルアートの取り組みとの整理の必要性が浮かびあがった。今後は、先行研究の精査においてホスピタルアートの側面からもアプローチしていく。 また「共創」の様態について整理する必要性も浮かびあがった。各調査対象やプロジェクトごとに、精神障害者と健常者(当事者と“共事者”)の「共創」のあり方や濃度にはグラデーションがある。そのグラデーションは関係性の濃淡にも影響を及ぼすため、次年度は調査対象ごとの「共創」の様態を整理しつつ類型化を試みる。 研究計画では取得したデータの分析手法として、質的データ分析手法であるSCATを予定していた。しかしながら、取得したデータの量が予定よりも多くなったため、M-GTAなど他の分析手法も検討したい。また調査対象者や取得データとの一定の距離を保つため、量的調査の手法も適宜扱う予定である。
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