研究課題/領域番号 |
23K12087
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 和洋女子大学 |
研究代表者 |
大塚 千紗子 和洋女子大学, 人文学部, 准教授 (00826646)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,380千円 (直接経費: 2,600千円、間接経費: 780千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 日本霊異記 / 続日本紀 / 続日本紀宣命 / 天皇 / 謀反 / 平安時代初期 / 仏教説話 / 東アジア仏教思想 / 宗教と天皇・政治 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は平安時代初期に成立した『日本霊異記』を中心として、当該期に形成された仏教と天皇の関係を明らかにし、後世への展開を検証する。 その方法として、①天皇を主題とした説話に見える特徴的な表現の源泉や形成過程の分析、②仏教説話集と史料との比較分析、③東アジア仏教思想および漢訳仏典の受容の実態調査、④説話の展開と受容の調査、という横断的な研究を行う。平安時代初期という文学史的に重要な時期における仏教と天皇の関係性を捉えることは、現在の宗教と政治をめぐる観念の形成過程の解明へと展開する創造性を有する。
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研究実績の概要 |
2023年度は研究計画のうち、①天皇を主題とした説話に見える特徴的な表現の源泉や形成過程の分析を目的とした。その方法として、『日本霊異記』説話における天皇・王権讃美にかかわる表現の研究を進めた。 本年度の具体的な研究実施状況とその成果は以下の通りである。 【1】『日本霊異記』内の謀反および反乱にかかわる説話を対象とし、『日本霊異記』が謀反人を描く際の表現方法と謀反の説話が掲載される理由について分析した。中巻第四十縁の橘奈良麻呂の乱を素材とする説話を中心に進めた。橘奈良麻呂を蔑称する表現に着目し、他の上代文献資料(『古事記』、『万葉集』、『日本書紀』、各国の「風土記」、『続日本紀』宣命)との比較分析を行った。調査の結果、『続日本紀』宣命内の謀反人に対する蔑称との共通性を明らかにした。これによって『日本霊異記』は『続日本紀』等の史書の文体の受容を想定するべきことが明らかになった。これまでは国内外の説話の影響が指摘されてきたが、本研究により『日本霊異記』説話は史書において使用される用語と共通性を持つことが確認された。この成果は論文「『日本霊異記』における橘諾楽麻呂伝承の表現─『続日本紀』宣命との比較を中心に─」(『和洋國文研究』第59号、2024年3月)として公表した。 【2】『日本霊異記』内の天皇に関わる記述を抽出する作業を進めた。『日本霊異記』上巻序文において聖武天皇に祥瑞の表現として用いられている「天」の語に着目した。次に上中下巻全体で「天」に関連する語を調査・整理し、説話ごとの使用状況を分析したうえで、表現の使用意識について調査を進めた。この成果は、令和6年度古事記学会・上代文学会合同大会(2024年5月)にて発表を行う予定である(発表決定済)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述した通り2023年度の研究目的は天皇を主題とした説話に見える特徴的な表現の源泉や形成過程の分析である。『日本霊異記』を中心に、天皇の説話や天皇を語る際の表現における文体的特徴について同時代文献との比較研究を進めた。研究成果を学内雑誌の論文として投稿するに至った。本研究により『日本霊異記』の用語・表現と『続日本紀』との共通性を明らかにすることができた。 従来、『日本霊異記』と『続日本紀』については共通記事から指摘されることが多かったが、今後は用語・表現の面からも両書の関係性が明らかになることが見込まれる。本研究は『日本霊異記』研究のみならず『続日本紀』宣命および、その宣命を用いた孝謙・称徳朝の政治社会の研究にも資するものだと考える。今年度の研究内容は、次年度以降にも継続して取り組むことを考えている。 また、これら研究成果を国内学会の口頭発表にて公表する見通しが立った。このことから、おおむね当初の計画を順調に進展させていると考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度は『日本霊異記』の謀反説話(中巻第四十縁)と『続日本紀』記事との比較分析を中心に行った。その結果、『続日本紀』宣命とのかかわりが明らかになった。とくに孝謙天皇(重祚称徳天皇)の宣命との共通性は、次年度以降にも継続して取り組む必要がある。孝謙・称徳天皇の宣命には護国経典を引用するなどの特徴的な方法が見られる。こうした仏典の影響と表記の問題を視野に入れる必要が生じた。2024年度は、同時代の僧侶が披見・利用した仏典の具体的な調査を進めたい。 今後は上記の調査内容を踏まえて『日本霊異記』説話と史書との比較分析を行う。六国史(『日本書紀』『続日本紀』『日本後紀 』『続日本後紀』『日本文徳天皇実録』『日本三代実録』)を対象に各記事と関係所伝を整理することで、『日本霊異記』と史書における天皇像の相違について検討を進めたい。
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