研究課題/領域番号 |
23K12088
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 専修大学 |
研究代表者 |
丸井 貴史 専修大学, 文学部, 准教授 (20816061)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 岡島冠山 / 太平記演義 / 沢田一斎 / 水滸伝訳解 / 唐話学 / 白話小説 / 時勢花の枝折 / 近世中期 / 散文 / 文学史 / 読本 / 浮世草子 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、都賀庭鐘『英草紙』の成立から天明年間にかけての散文文芸を対象とし、その全体像を把握するとともに、文学史の中にあらためて位置づけ直すことを試みるものである。 近世中期の散文文芸については、浮世草子の衰退と初期読本の成立との関係性、勧化本や談義本の位置づけ、中国小説の受容のあり方、老荘思想や石門心学の影響など、文学史的な説明が十分になされていない問題が多く存している。こうした現状を踏まえ、〈初期読本の展開史およびジャンルの特性に関する再検討〉と〈近世中期における散文文芸の諸相の把握〉を具体的な研究課題とし、近世中期の散文が文学史的にいかなる意味を有していたか、新たな視座のもと検討する。
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研究実績の概要 |
今年度は本研究課題の初年度にあたるため、基礎的研究を進めることに重点を置いた。 「『太平記演義』序文の発憤説―公憤から私憤へ―」(『国文論叢別冊』第1号、2023年9月)は、岡島冠山『太平記演義』における序文の性格について分析したものである。本作の序文は冠山自身ではなく、守山祐弘なる門人の手になるもので、そこには不遇な生涯を送ってきた冠山が一念発起して本書を著したことが記されている。すなわち、この序文は本作がいわゆる「発憤著書」の系譜に位置づけられることを示すものではあるのだが、注目すべきはその「憤り」が私憤に他ならないということである。この序文では羅貫中が冠山に重ねられているのだが、『水滸伝』序文などに見られる羅貫中の「憤り」は紛れもない公憤であり、冠山の「憤り」とは性格が異なる。その意味において、本作序文は「発憤著書」の「発憤」の意味を大きく転換させるものであることを指摘した。 「沢田一斎の唐話学―大東急記念文庫所蔵『水滸伝訳解』をめぐって―」(『かがみ』第54号、2024年3月)は、岡白駒の『水滸伝』講義の内容を門人が筆録した『水滸伝訳解』について、大東急記念文庫所蔵の沢田一斎筆写本に焦点を当て、その特質を論じたものである。一斎は『小説粋言』の施訓者として知られるが、この作品は近世小説に多大な影響を与えたことがすでに知られており、一斎の唐話学習の出発点を再検討することは、小説研究においても大きな意味を持つものと思われる。 その他、北陸古典研究会下半期研究発表大会(2024年3月)において、「『時勢花の枝折』再考」の題で研究発表を行い、また、『国語と国文学』第100巻第5号(2023年5月)に、劉菲菲『都賀庭鐘における漢籍受容の研究 初期読本の成立』の書評を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究課題は、近世中期の散文文芸における各ジャンルの関係性を総体的に把握するための基礎的問題を整理することを主たる目的としており、広い視野を持ってそれぞれのジャンルや作品を検討する必要がある。そのためには、作品の内容に関する具体的な分析が不可欠であるが、今年度はその段階にまで到達することができなかった。したがって、遺憾ながら「やや遅れている」と判断せざるを得ない。 ただし、『太平記演義』において「私憤」がキーワードとなり得ることを指摘したことの意味は小さくない。上田秋成『雨月物語』に描かれる「私憤」がきわめて特徴的であることは以前から指摘されていたが、今回の指摘はその問題と密接に関わる可能性が考えられるからである。また、沢田一斎の唐話学に対する態度についての分析は、一斎が唐話学と文学をいかに結びつけたかを明らかにするものでもあり、都賀庭鐘をはじめとする初期読本作家の文学的営為を検討するための手掛かりとなり得る。そのような意味において、本研究課題の主たる目的を達するために必要な基礎的研究を、着実に進めることはできたと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
近世中期の散文文芸のうち、文学史的観点からして特に重要なのは浮世草子と読本であるが、中でも吉文字屋という書肆から刊行された浮世草子の中には、きわめて興味深いものがある。たとえば、白話小説の利用は読本に顕著な創作手法であるとこれまで考えられていたが、吉文字屋本浮世草子の中には、白話小説を利用したものが少なからず見られるのである。そのうち、今年度は『時勢花の枝折』という作品について研究発表をおこなったが、この作品の分析をさらに進め、当時のジャンル意識がいかなるものであったかを探りたい。無論、その他の浮世草子・読本の作品研究を進める必要があることはいうまでもない。 もうひとつ注目したいのは、近世軍書の存在である。歴史学の分野ではこれまでも注目されてきたが、軍書に記される内容には少なからぬフィクション性が含まれており、文学研究の側面からも分析を加えて然るべきものと思われる。また、軍書は読本にも多く利用されており、そうしたジャンル間の関係性についても検討を進めたい。 近世中期に成立した作品のうち、既存のジャンルからははみ出てしまうようなものは少なくない。そうした作品群をいかに文学史の中に位置づけるかということを強く意識しつつ、それぞれの作品の分析を進めていくつもりである。
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