研究課題/領域番号 |
23K12094
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02010:日本文学関連
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
岩川 ありさ 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (10761405)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
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キーワード | 大江健三郎 / 美しいアナベル・リイ / 晩年様式集 / ジェンダー / フェミニズム / クィア批評 / トラウマ / クィア |
研究開始時の研究の概要 |
本研究では、大江健三郎の文学研究の中で十分には行われてこなかった、多様な女性たちの物語の系譜を整理してゆく文献研究を行い、フェミニズム、クィア批評の理論を導入することによって、大江の小説の読み方を刷新する。性別越境を経験したり、様々なバックグラウンドを持つ多様な女性たちの語りが大江文学の中で果たす役割について明らかにし、ジェンダーという視座から大江研究に新たな展開をもたらすことを目指す。
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研究実績の概要 |
本研究では、大江健三郎の小説(『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』、『人生の親戚』、「燃えあがる緑の木」三部作、『美しいアナベル・リイ』、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』)を対象とし、多様な女性たちが語り、多様な女性たちが自分たちの表現や物語を見出してゆく過程を描いたテクストを系譜的・体系的に整理することを目指している。 2023年度は、『美しいアナベル・リイ』、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』に焦点を絞って研究を行った。論文として、「大江健三郎の「年」と「手紙」―「美しいアナベル・リイ」を手がかりにして」を『ユリイカ』(2023年7月臨時増刊号、pp.54-61)「総特集 大江健三郎」に寄稿した。また、査読論文「書き言葉と声の往還、音楽が響くとき―大江健三郎『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』論」(「日本文学」日本文学協会、72(8)、pp.23-35)を発表した。双方の論文において、大江の「晩年の仕事(レイト・ワーク)」において「女性たちのネットワーク」が重視されているが、その具体的なメカニズムについて分析した。口承で伝えられてきた物語や、過去に書かれた言葉をどのように女性たちが受けとってゆくのか、その過程について詳しく論じた。 また、2023年12月16日には、現代作家アーカイヴ特別篇「それぞれの言葉で語り合う―大江健三郎の文学をめぐって」(飯田橋文学会、東京大学ヒューマニティーズセンター、UTCP共催)において、市川沙央さん、菊間晴子さんと鼎談し、その模様は、「鼎談 大江健三郎は何度でも新しい」(『文學界』2024年3月号)に掲載された。2023年9月から全4回で「大江健三郎をひらく:トラウマとジェンダーの視点から」をKUNILABO人文学講座で行い、トラウマとジェンダーの観点から連続講義を行なった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究が採択されたのと同時期の2023年3月3日に大江健三郎さんが亡くなった。言葉にはできない悲しみがあった。さまざまな学術誌において大江文学を新たに読み直す特集が組まれた。本研究においても、多様な女性たちの語りに焦点をあて、フェミニズムの観点からの大江文学の研究を進めている。大江さんを追悼する『ユリイカ』(2023年7月臨時増刊号、pp.54-61)「総特集 大江健三郎」に寄稿した論文では、これまで「女性たちのネットワーク」というところまでしか指摘しきれていなかった女性たちの繋がりについて、口承、聞き書き、手紙など複数のメディアによって言葉をやりとりしてきたことを明らかにした。また、査読論文「書き言葉と声の往還、音楽が響くとき―大江健三郎『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』論」(「日本文学」日本文学協会、72(8)、pp.23-35)では、書かれた言葉を音読することによって新たな語り方(ナラティヴ)を切り開く可能性について論じた。同論文では大江文学における音楽表現についても論じることができた。「今後の研究の推進方策」でも述べるが、当初の計画では、「燃えあがる緑の木」三部作、『「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』、『人生の親戚』の順番で研究を進め、その後、『美しいアナベル・リイ』、『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』へと進む予定だったが、研究対象とする作品の順番を変更した。理由としては、大江文学における、多様な女性たちの語りや女性たちのネットワークのあり方がより鮮明に描かれているのが、最後の小説となった『晩年様式集(イン・レイト・スタイル)』や2007年に刊行された『美しいアナベル・リイ』であるので、先に扱った。今後、大江の1980年代、1990年代の小説へと遡るように進める。研究の順序を変更したが、最終的に本研究の3年間で、研究の予定通り進めることができる。
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今後の研究の推進方策 |
「現在までの進捗状況」でも説明した通り、当初の年次の計画とは研究対象を取り扱う順序を変更した。しかし、現在(2024年5月)において、「雨の木(レイン・ツリー)」を聴く女たち』(1982)についての論文を書き終えており、『人生の親戚』(1989)とともに、1980年代の大江文学における女性たちの表象や語りに関する研究を、2024年度に遂行する準備はできている。本年度は、今後、上記の大江の1980年代の小説2作を中心に研究を進める。 大江健三郎関連資料の収集は大部分完了したが、大江の同時代の論者や新たな視座からの現代の小説への大江の影響についても含めて研究する必要があることがわかった。それらを本年度は進めたい。また、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部 大江健三郎文庫に自筆原稿が寄託され、自筆原稿研究のデータベース作成が行われており、2025年度まで含めて、自筆原稿も対象とした研究を行ってゆきたい。 2025年度は、「燃えあがる緑の木」三部作の研究を行い、研究の順序を変更したが、最終的に本研究の3年間で予定通りに研究を行えるよう推進する。また、最終年度には上記研究をまとめて書籍の形にする予定である。
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