研究課題/領域番号 |
23K12113
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02020:中国文学関連
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
早川 太基 神戸大学, 人文学研究科, 講師 (60872801)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
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キーワード | 七絃琴 / 古琴 / 琴学 / 宋代音楽 / 范仲淹 / 諸葛孔明 / 村井琴山 / 宋代琴曲 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は宋代(960~1279)における「琴楽(七弦琴音楽)」の実態について、音楽的な要素はもとより、文化的背景を含めた詳細なる分析をおこない、その芸術的全貌を明らかにすることを期するものである。「ミクロ研究」として一曲一曲について詳細な文献調査・現地調査を行い、作曲背景・思想的背景・文化史的意義、そして文人社会における受容と伝播を考察する。そのうえで単純な宋代音楽の問題のみに留まらず、日本をふくめた東アジアに住まう人々の、古典時代における文学と音楽との文化的関係や、当時のグローバル世界のなかでの音楽的美意識がどのように形成されたかを探ってゆくための「マクロ研究」に繋げてゆく。
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研究実績の概要 |
令和五年度は本研究テーマについて、著書出版1冊、論文発表1篇、学会発表3回、講演会2回を行い、多くの新事実を明らかにし、同時に国外にむけて発信した。著書は、共著『宋代史研究会研究報告、第12集、宋元明士大夫と文化変容』(汲古書院)における「『琴』における亡国――毛敏仲と宋末元初の社会」であり、南宋末期の琴師の毛敏仲について、従来の定説を一気にくつがえす結論を得た。論文は「『范履霜』攷――范仲淹と琴曲『履霜操』」(『日本宋代文學學會報』10)であり、宋代士大夫たちに琴曲「履霜操」が好んで演奏された背景を考察した。 学会発表であるが、2023年8月に、琴の演奏時に香を焚く習慣がいつ頃から確立したかを考察した「焚香彈琴――論香文化與古琴之關係」(第四届京西古香道文化国際交流会)を発表して、それを宋代と結論づけた。11月には宋代理学に関連した琴曲に注目して「道學遺音――論朱子學與琴曲之關係」(2023年中日韓朱子学会学術検討会)を発表し、同時に古譜に基づいた復元を行った。2024年1月には諸葛孔明が琴を奏でたという伝承が南宋時代に喧伝される現象に注目し、2023年8~9月の四川省へのフィールドワークの成果に基づいて「諸葛孔明彈琴考――虚實相間之音樂」(第5回神戸・北京・復旦三大学人文学フォーラム)を発表した。 講演会であるが2023年4月、「医家の奏でた音楽――村井琴山と七弦琴」(武田科学振興財団・杏雨書屋、第48回研究講演会)を行い、江戸時代の学者・医師である村井琴山が、朱子『儀礼経伝通解』に収められた古譜に基づいて琴曲に編纂した音楽について解説し、また復元演奏を試みた。12月には「『琴学』を奏でる――文人たちの抵抗の系譜」(二松学舎大学人文学会第127回大会)を行い、社会が常軌を逸し、組織が腐敗した状態において、古来の文人たちが、いかに琴を通して精神的な抵抗を試みたかを講演した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までの進捗状況はおおむね順調であり、企図するところの研究遂行にむけて邁進している状態である。2023年8~9月には、中国北京市・四川省成都市・陝西省漢中市・浙江省杭州市などに赴いて、宋代琴曲に関連した遺跡である「成都武侯祠」「べん県武侯祠」「古陽平関」「西湖」「万松嶺」などに赴き、それぞれの土地の郷土史家の協力を得ながらフィールドワークを行い、口碑伝承を採取し、現状を画像として記録し、また多くの関連資料を入手することができた。 さらに偶然ではあったが令和五年度は、本科研テーマに関連した学会として「第四届京西古香道文化国際交流会」「2023年中日韓朱子学会学術検討会」「第5回神戸・北京・復旦三大学人文学フォーラム」に参加し、また講演会として「武田科学振興財団・杏雨書屋、第48回研究講演会」「二松学舎大学人文学会第127回大会」に出席し、発表・講演する機会に恵まれたために、得られた研究成果について比較的リアルタイムに社会にむけて発信することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の研究の推進方策についてであるが、引きつづいて文献調査やフィールドワークを進めてゆきたい。具体的には以下の通りである。①学界においても唐宋時代に遡れる琴曲がもっとも多く含まれる可能性が示唆されている、明代に編纂された琴譜『西麓堂琴統』について研究を進め、その文化的背景をさぐるために編者である汪芝の故郷である安徽省黄山市歙県、および序文の執筆者である状元の唐皋の郷里である黄山市徽州区に赴いて調査することを計画している。②琴譜『西麓堂琴統』には刊本はなく、何種類か写本があることがわかっているが未だに詳細な版本調査は行われていないため、各地の所蔵している研究機関・図書館を訪問してテクストの異同を調べる。③南宋末期の杭州において名声の高かった琴師の毛敏仲の作った「樵歌」および「禹会塗山」について、杭州や紹興一帯の文献資料を集めて考察を進める。④道教に関連した琴曲の調査も進めてゆき、とくに「こうとう引」「こうとう問道」について今日では比定地が四か所ある「こうとう山」をすべて訪い、その土地の道観とも連携しながらフィールドワークを行う。 また令和五年度に学界において発表した「焚香彈琴――論香文化與古琴之關係」「道學遺音――論朱子學與琴曲之關係」「諸葛孔明彈琴考――虚實相間之音樂」を、すべて論文化して刊行して世に問うてゆく。学者や一般人にむけて講演した「医家の奏でた音楽――村井琴山と七弦琴」「『琴学』を奏でる――文人たちの抵抗の系譜」の内容についても、すべて加筆修正したかたちでの公刊を進めてゆく。
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