研究課題/領域番号 |
23K12150
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02060:言語学関連
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
菅井 健太 北海道大学, 文学研究院, 准教授 (20824361)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2025年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 言語接触 / 言語変化 / 言語維持 / 借用語 / 文法化 / 言語活力 / 方言 / ブルガリア語 / 社会言語学 / マイノリティ言語 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、ルーマニア、及びモルドバに分布する少数派言語であるブルガリア語における言語接触に起因する言語変化の仕組みを社会との関わりの観点から体系的に明らかにすることを目的とする社会言語学的研究である。フィールドワークによって音声データによる言語資料を収集し、少数派言語が多数派言語との接触によって受ける言語構造の変化の実態や仕組みの記述・分析を行う。その上で、少数派言語であるブルガリア語の言語構造の変化には、ブルガリア系住民を取り巻く社会や接触状況といった要因がどのように、またどの程度関与するのかという問題に関して、両国のブルガリア語諸方言を対象に比較の観点から分析・考察を行う。
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研究実績の概要 |
2023年度は、これまでの調査で収集した資料や音声データをもとに、ルーマニア側のブルガリア系集落における言語維持に関わる問題の考察や、ルーマニア語との言語接触に関する分析を中心に行った。 ルーマニア南部のブルガリア系集落の多くでは言語取替えが進んでいる中で、トゥルゴヴィシテ市のブルガリア系集落はブルガリア語が若い世代まで維持されているという点に着目し、言語維持の現状とそれを支える仕組みについての分析を行った。言語活力は決して力強いものではない(EGIDSでLevel6b)ことが判明した一方で、地元のブルガリア系文化団体によるブルガリア文化・伝統に関する行事の定期的な開催やそれを通じたルーマニア国内の他のブルガリア系集落との活発な交流は、ブルガリア本国とは異なる「ルーマニアのブルガリア系」としてのアイデンティティの保持・発展につながっているほか、ブルガリア本国との様々なレベルにおける人的交流の実践は地元住民のブルガリア語使用機会の創出にも結びついており、これらが総体的に同集落の言語維持に貢献していることを指摘した。 このほか、ルーマニア語の動詞がブルガリア語方言に借用される際にうける形態論的な適用について動詞借用に関わる類型論的な視点から分析及び考察を行った。借用語の受容にあたっては、借用されたルーマニア語の動詞語幹に直接ブルガリア語の語尾を付けるストラテジーが頻繁に適用される一方で、ルーマニア語で-ezや-escといった活用に際して語幹拡大接尾辞を伴う動詞の借用にあたっては、後者の-escと語尾-aを起源とする形態素(-'aska)が用いられる。他の借用語取り込みのための接尾辞に代わって一貫して用いられることから、それが動詞を借用するための接尾辞として一般化していると同時に、ルーマニア語からの借用動詞の形態論的な適用のために重要な役割を果たしていることを解明した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2023年度は、収集済みのデータを中心にルーマニア側のブルガリア系集落の方言や言語状況についての分析および考察に取り組み、その成果は部分的にではあるが国際学会等での公表に至っているため、その点では順調に進展していると言える。その一方で、本研究を進めるにあたって必要なデータの増強・補完を目的としてルーマニア及びモルドバのブルガリア系集落において現地調査を実施する予定であったが、昨今の世界情勢や記録的な円安を背景とした航空運賃の高騰などから実現に至らなかった。それゆえ、総体的な分析のために必要な方言音声資料が十分に揃っておらず、分析のための整理やデータ化の作業が進展していない。この点でもとの予定と比較するとやや遅れてしまっている。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度は、現在進めている語彙や形態素の借用を通じた言語変化の仕組みに着目した分析をこれまでの研究では未着手であるモルドバ側のブルガリア語方言を対象として進めるほか、文法的意味の転移を伴う文法構造上の変容の記述及びその仕組みの分析にも取り組む予定である。また、これらの分析の成果を国際学術誌や会議において順に公表していくことを目指す。さらに初年度に予定していたルーマニア及びモルドバにおける現地調査を実施し、以上の分析を実施するにあたり必要な方言音声資料の獲得や分析用に整理・データ化を進めていくことも計画している。
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