研究課題/領域番号 |
23K12194
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02070:日本語学関連
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研究機関 | 宮城学院女子大学 |
研究代表者 |
菊地 恵太 宮城学院女子大学, 学芸学部, 准教授 (00846389)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2025年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2024年度: 390千円 (直接経費: 300千円、間接経費: 90千円)
2023年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
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キーワード | 漢字字体 / 部首 / 異体字 / 文字構造 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、漢字を構成する部品(いわゆる「部首」やその他の構成要素)や字体の構造に着目し、文献上の実際の書例や、字書における部首分類の歴史的変遷を調査・記述することによって、中国と日本での漢字字体の差異、及び日本人の漢字字体の受容・理解の過程を明らかにするものである。 特に、(1)漢字の構成要素及び字体構造の変化の実態の把握 (2)字体選択の要因の分析 (3)部首分類の認識の変化の把握 といった3つの観点を軸に、漢字の字体構造に対する日本人の認識がどのように変化していったのか、その歴史の一端を明らかにしたい。
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研究実績の概要 |
1.漢字字体構成要素の構造(構成方法)の変化について 漢字字体の構造に体系的な変化が生じたと思われる字体として、上半部に「龍」「般」を持つ漢字(「襲・聾」「槃・盤」など)を取り上げ、使用字体の調査を試みた。敦煌写本(『敦煌俗字典』)や中国石刻資料(『拓本文字データベース』)、日本の平安・鎌倉時代の一部の仏典音義(『古辞書音義集成』所収)では、「聾・槃」の左上の構成要素(立+月、舟)を左半部に大きく配置する型の字体が確認できたものの、書例は多くない。一方『新撰字鏡』『類聚名義抄』『字鏡集』等といった平安・鎌倉時代字書の諸本の掲出字体では、一貫して現代と同じく「聾・槃」型の字体であった(説文解字の小篆の構成に倣ったか)。現在、必要十分な書例を集められていないが、文献の分野や書記者の位相による明確な差異が存した可能性はある。 2.部首(偏旁)の添加による字体の作製について 漢字の部首の認識に関わる問題として、漢語「ハツラツ」の表記を取り上げ、明治期以前の用法・表記について調査を行った。「ハツラツ」は予てからさんずいの「溌剌」や手へんの「撥剌」など、異なる部首の漢字で書かれ、さらに国字(和製漢字)または和製異体字とされる、さんずいを付加した「溂」の字も発生した。元来「ハツラツ」は専ら漢詩語であり、近世以前の文献ではそもそも用例が少なかった(ハツの使用漢字も「溌・撥」双方が見られる)が、明治期には漢詩以外の分野で使用が急増し、使用漢字もさんずいの「溌」に収斂傾向にあった。また国字「溂」は明治10年頃に出現し、明治40年代には「溌溂」の例が「溌剌」を上回るほどになった。「ハツラツ」の語源意識や、「さんずい」を用いるべきという字源・部首の意識が広く浸透し、さらに本来の表記でない「溂」字が発生・普及するに至ったと思われる。この件については、現在論文を執筆し投稿中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
漢字字体構成要素の構造(構成方法)の変化に関する研究は、想定よりも書例の収集に難航しており、体系的な字体の推移を観察しがたい。 一方、偏旁添加による国字「溂」の発生については、オンラインで検索可能なデータベース・資料画像を活用することによって、多くの使用例を確認し、調査を想定以上に進めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
「襲・槃」型の構造を持つ字体については、引き続き調査を進め、字書・音義のみならず仏書(注釈書・説話等の写本)を対象に書例を集めたい。 また、字体構造がどのように認識されていたか、その変化を客観的に把握するため、現代の漢和辞典でも部首分類に揺れのある漢字(「巨」など)や、元来の部首分類が混同されている漢字(「かくしがまえ」と「はこがまえ」など)を対象に、字書上の記述や実際の使用字体の調査を行う。 部首引きの漢字字書は、『新撰字鏡』『類聚名義抄』『字鏡集』『倭玉篇』他、かなりの古写本を影印資料等によって確認することが可能であるため、十分な書例を収集することが可能であると思われる。
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