万葉仮名研究史では,主要文献の分析を繋いで特定の観点の史的展開をできるだけ単線的に追うのが一般的であり,用字法研究と字母・字源研究の関係など,同時代に併存した複数の観点の関わりあいは十分に明らかにされていない。本研究は,近世後期の国学で大きな影響力を持ちながら,現代の研究には直接的に繋がらず,万葉仮名研究史においても顧みられていない平田篤胤の学説を立脚点に据える。篤胤の学説における万葉仮名の定義や扱い方,文字・表記観を明らかにし,それが同時代・後世の研究の方法や視座に与えた影響を考察することを通して,俯瞰的な万葉仮名研究史の記述を試みる。
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