研究課題/領域番号 |
23K12200
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分02080:英語学関連
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研究機関 | 名桜大学 |
研究代表者 |
林 智昭 名桜大学, 国際学部, 准教授 (70906693)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,730千円 (直接経費: 2,100千円、間接経費: 630千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
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キーワード | 英語動詞派生前置詞 / 言語変化 / 主観化 / 間主観化 / 周辺部 / 前置詞性 / デジタル・ヒューマニティーズ / 文法化 / 語彙化 / 構文化 / 記述言語学 / コーパス言語学 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は諸言語のデータに基づき、理論的考察および分析モデルの修正と精緻化を行い、言語変化にみられる普遍性の一端を解明していく。また、記述言語学の定性的分析に、英語学研究における大規模コーパスを用いた定量的分析を組み合わせ、あわせて理論言語学(意味論、語用論)や言語変化の理論(文法化、語彙化、構文化)の知見を統合することによって、連続的な言語変化のプロセスを説明する分析モデルの構築を目指す。
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研究実績の概要 |
今年度は質的研究として、先行研究の議論を踏まえ、これまで行ってきた英語動詞派生前置詞の研究で得られたデータについて理論的再検討を行った。その一端として、周辺部(小野寺編 2017; Traugott 2017) の観点から考察を試みた。周辺部 (periphery) とは発話の冒頭と終端に関する概念である。先行研究では、文法化した動詞派生前置詞consideringに関し、発話の冒頭である左の周辺部 (left periphery, LP) の位置に生起する割合が高いことがわかっている(cf. 林 2015)。一方、右の周辺部 (right periphery, RP)、つまり節の最後に生起する副詞的なconsideringは、Kawabata (2003) によると、話し言葉で好まれ、文法化したconsideringが主観化 (Traugott 1995) したものと議論されている。この現象は、早瀬 (2016) において(間)主観化の関係から議論がなされている。本研究ではこれらの先行研究の議論を応用し、右の周辺部に生起するincludingの副詞的用法が聞き手・話し手の(間)主観的なコミュニケーション上の機能を担っていることを論じた (cf. Traugott 2003)。 次に、量的研究に関わる先行研究の渉猟を進めた。近年、大規模言語モデル (Large Language Model, LLM)やデジタル・ヒューマニティーズ (Digital Humanities, DH) が注目されている。これらの進展は、情報処理、インターネットに関わる技術向上と普及が背景となっている。一方、人文系の分野においては、文献・データの整理について、従来より実践知が蓄積されてきた。これらに関して、古典的なものから時系列順に整理し、近年の潮流との関わりを議論した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、質的研究として理論的考察を進めることができた。特に、周辺部との関係は、他の動詞派生前置詞の分析においても検討を行う余地がある。Kawabata (2003) では、話し言葉で好まれる副詞的なconsideringと、よりフォーマルな文脈で使用されるall things consideredというイディオムとの関係が議論されているが、両者の関係は周辺部の概念から捉え直しが可能と考えられる。この種の観点は、これまでの動詞派生前置詞の研究をさらに深化させる上での貢献が期待される。 次に、量的研究については、デジタル・ヒューマニティーズとの関係において、人文学の文献学的アプローチの位置づけおよびその意義を議論することができた。言語学においても、大規模言語データの量的分析が注目されているが、学問分野としての目標や、古典的に言われ続けている文献・情報整理における知見が色褪せることはない。技術革新に対応しつつも、研究の遂行にあたっては方法論に終始することなく、時代を越えて通用する本質を見失うべきではない。 以上の検討を行うことができたことから、本研究課題の目標に向けて着実に進みつつあると考える。
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今後の研究の推進方策 |
今年度の質的研究の知見に基づき、量的分析への応用を試みる。一例として、書き言葉だけでなく話し言葉においても観察されるduring, according to等の分析に取り組む。これらは頻度が高く、大規模コーパスを用いた量的分析が可能であることから、先行研究の方法論的知見を参照して研究を進める。また、動詞・前置詞のいずれであるのか、現象の振る舞いを質的に検証していくことによって、文法化という言語変化の漸進性を規定していく。理論的には、周辺部の観点から検討を深めるとともに、構文化 (Traugott and Trousdale 2013) が関わる先行研究を渉猟し、文法化という概念を捉え直していく。
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