研究課題/領域番号 |
23K12265
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03010:史学一般関連
|
研究機関 | 関東学院大学 |
研究代表者 |
小滝 陽 関東学院大学, 国際文化学部, 准教授 (00801185)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 1,430千円 (直接経費: 1,100千円、間接経費: 330千円)
2024年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
|
キーワード | 第一次世界大戦 / 帰還兵 / 戦傷病者 / 農業 / リハビリテーション / 小規模融資 / 傷痍軍人 / 国際労働機関 / 福祉国家 / 世界大戦 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、両大戦間期から第二次世界大戦直後にかけて退役軍人運動や医療・福祉・雇用政策の専門家、研究機関などが相互に参照・連携し合い、ネットワーク化する局面に焦点を当て、彼らの国際交流が、障がいのある元兵士の社会復帰や就労の支援(広義の「リハビリテーション」)の分野で各国の政策に与えた影響を分析する。特に、近年まで、欧州の動きとは一線を画して独自に展開したと考えられてきた米国の傷痍軍人政策について、英国・日本の傷痍軍人政策や国際組織との関係を軸に再検討し、軍人福祉国家の広域史を展望する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、両大戦間期から第二次世界大戦終結直後にかけて、アメリカ合衆国(以下、アメリカと表記)をはじめとする各国の退役軍人や医療・福祉の専門家が、戦傷病者(傷痍軍人とも呼ばれる)のリハビリテーションをめぐって繰り広げた国際交流に焦点をあて、個人の就労と経済的「自立」に重きを置く福祉思想と福祉政策のトランスナショナルな形成を考察することを、目的としている。研究計画の初年度となる令和5年度には、両大戦間期における各国の退役軍人支援の動向について広範な先行研究の渉猟と研究史の整理を行い、本研究の意義をより明確で精緻なものにすることを課題とした。なかでも、イギリスとアメリカにおける第一次世界大戦後の戦傷病者への国家および民間の対応について、年金、医療、リハビリテーションなど様々な視点から分析した先行研究を読み込み、文献の一覧とノートを作成した。現在、これらの作業を基に両大戦間期における軍人福祉国家についての研究動向レビューを作成しており、令和6年度中に学術誌等で発表することを目指す。 また、先行研究の分析と研究の現状の把握に基づいて令和6年度から実施する予定だった、文書館調査による史料の収集と分析を、一部、令和5年度に前倒して実施した。具体的には、アメリカをはじめとする第一次世界大戦の参戦各国で、戦傷病者を含む帰還兵に対して実施された就農支援について、ペンシルヴェニア州フィラデルフィアにあるアメリカ国立公文書館分館で史料調査を行った。この調査により、農業指導と農業経営支援のための小規模融資を組み合わせた帰還兵と戦傷病者に対するリハビリプログラムが各国で実施され、相互に参照されていたことが確認された。こうした知見は、今後実施する追加の史料調査の結果と合わせた研究成果として、学会発表や論文にまとめ、発信する。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の最大の目的は、個人と家族の社会・経済的自立を展望する福祉思想が生成・伝播するプロセスを、両大戦間期以降に広がった国際的な退役軍人団体の活動とこれを支援した、国家を含む諸団体の活動から明らかにすることである。先行研究により、両大戦間期の戦傷病者支援が就労を最終的な目標とする福祉思想の形成に寄与した経緯や、整形外科医療や理学療法など、戦傷病者のリハビリを構成する医療的側面の国際展開については、その大枠をつかめるようになってきた。しかし、医療だけでなく、職業訓練や職業紹介、さらには帰還兵の経済的自立を促すための小規模融資までを含む、総合的な施策としてのリハビリが複数の国や地域で同時に発展した経緯となると、未だ十分に解明されているとは言えない。 令和5年度の課題としては、まず、上記のような研究状況把握の妥当性について、研究動向レビューの形で確認するとともに、そうした現在の研究状況の背景にある、より広範な歴史学研究の動向を浮き彫りにすることであった。この点については、現在、研究動向論文の第1稿の7割程度が執筆済みである。第1稿を令和5年度中に完成させて学術誌に投稿することを計画していたことを考えると、これは、若干、遅れていると判断せざるを得ない。作業に遅れが生じた最も大きな要因は、研究代表者が所属機関の部局運営において中心的な役割を担ったことによる、多忙化である。他方、研究動向把握の後に実施する予定であった史料調査については、むしろ予定より早い実施にこぎつけている。これらの点を総合すると、研究計画全体の現在の進捗状況は「やや遅れている」と判断できる。
|
今後の研究の推進方策 |
前項でも述べたとおり、現在の研究の進捗状況はやや遅れており、令和6年度には、研究計画の遂行を加速させたい。まずは執筆中の研究動向レビューの原稿を完成させ、できるだけ早期に学術誌に投稿することを目指す。 これと並行し、主に文書館での史料調査も進めていく。当初の研究計画では、令和6年度に、両大戦間期における国際労働機関(ILO)と各国政府および退役軍人団体との連絡状況を調査・分析することになっている。一次大戦の末期から終戦直後には、各国で兵士のためのリハビリの体制が整えられた事実は知られている。しかし、医療の後に行われる就労支援が各国ごとに抱えた課題の違いや、そうした違いを踏まえた、具体的な帰還兵支援の様態などについて、これまでの研究から十分に明らかになっているとは言えない。なかでも、本研究が令和5年度に調査を開始した、戦傷病者を含む一次大戦帰還兵への就農支援については、これまでほとんどまとまった研究がなされていない。しかし、就農支援は、医療や理学療法、職業訓練など、いわゆるリハビリの範疇に含まれるものから、土地取得や農業資材獲得のための小規模融資(現在であれば「マイクロ・クレジット」などとも呼ばれる)など、きわめて幅広い中身を含む総合的なプログラムであり、この実態を各国ごとに精緻に分析しつつ、それらプログラム間の国境を越えた相互影響関係にも注目することで、現代的な自立支援思想の淵源に迫れると考えられる。そこで、まずは、ILOをはじめとする国際機関や各国政府、民間団体のそれぞれが、帰還兵向けの就農支援について共有していた情報の流れを追いつつ、そうした国際的な情報の共有と、帰還兵自身を巻き込んだ実際の就農プログラムの経験との相互関係を、特にアメリカを軸に解き明かしていく。その成果は、なるべく早期に学会発表や論文の形で公表する。
|