研究課題/領域番号 |
23K12289
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03030:アジア史およびアフリカ史関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
伊藤 早苗 名古屋大学, 高等研究院(文), 特任助教 (20839758)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2026年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2025年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2024年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2023年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | アッシリア帝国 / 楔形文字 / アッカド語 / 使者 / 宿駅 / 幹線道路 / 駅伝制 / 王の道 / 書簡 / 通信 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究はアッシリア書簡を中心としつつ、アッシリア王碑文などの他のジャンルの史料も用い、人物研究なども利用し、アッシリア帝国の使者と書簡通信システムについての総合的な研究である。 上記諸史料を用いて、使者の実際的な職務、権限、出自、母語、運用言語、学歴、職歴、人脈について精査する。そして使者が利用した「王の道」と呼ばれた幹線道路とそれに付随した宿駅や、これら通信ネットワークを介した郵政業務の在り方についても研究する。
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研究実績の概要 |
古代西アジアでは紀元前3千年紀から都市文明が形成され、都市国家、領域国家、そして紀元前1千年紀前半には史上初となるアッシリア帝国が誕生した。多くの諸国家が盛衰する中で、都市国家アッシュルから興ったアッシリア王国だけが1400年間も国家の一体性を維持し、後に興る新バビロニア帝国やアケメネス朝ペルシア、そしてオスマン帝国などの西アジアにおける諸帝国の雛型となったのかは学術的な大きな問いである。そこで本研究では、アッシリア帝国が構築した重要な支配体制のひとつである通信ネットワークシステムに着目する。なぜならこれは同帝国の広大な領域支配や諸外国との外交・戦争の基盤となったからである。研究史料として、アッシリアの首都ニネヴェで発掘された楔形文字アッカド語によるアッシリア王室文書のうち、主に王室書簡を用いる。 2023年度は、アッシリアの幹線道路である「王の道」沿いもしくは大都市内に設置され、動物の給餌や乗換えおよび使者の休息や交代のために利用され宿駅に関する研究を行い、宿駅間の距離や宿駅の装備、宿駅の設立と維持・運営、宿駅業務に関わった人々、責任者である総督とアッシリアから派遣された役人の関係について明らかにした。またアッシリア王からの書簡の使者として王室書簡に度々言及される「王の護衛」達についても研究を行った。彼らの職歴や多岐に渡る実務、人数と種類、私的契約や経済活動を調査することで、「王の護衛」は職名というよりむしろ名誉的称号であることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2023年度はアッシリア帝国の幹線道路沿いに設置された宿駅に関する研究を、アッシリア王室書簡を用いて行った。宿駅は平地では20-30キロ毎に設置されており、地形の難所ではこの距離より短くとも、宿駅を擁する州の総督からアッシリア王への要請で宿駅の新設も可能であった。宿駅にはリレー用の使者、ラバ2頭、戦車が装備されており、これらは総督の所有で、予備がなく使用後は元の宿駅に返却する必要があった。宿駅の維持・運営は総督の管轄であったが、宿駅で実務を担う在地の役人や宿駅を支える農民や耕地も存在した。アッシリア本国から派遣された「王の代理人」(qepu)がいる大都市では、宿駅に関わる郵政業務に「王の代理人」が総督に対して介入することもあった。 またアッシリア王からの書簡の使者として王室書簡に度々言及されるsha qurbuti(定訳はなく、伝統的な仮訳では「王の護衛」)についても、アッシリア王宮文書や王室書簡を用いて研究を行った。アッシリア王だけでなく、皇太子のsha qurbutiも同時代に複数人おり、特定の時期には皇太后のsha qurbutiも存在した。彼らは使者、外交官、貴金属の運搬、軍隊や脱走兵の付き添い、馬の運搬、監督者、収税官、裁判官、私的契約の証人、軍人、王の軍事遠征への参加等、様々な任務を負い、この称号は軍事的背景を持つ有力者の名誉的なものであったことを確認した。
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今後の研究の推進方策 |
今後はsha qurbuti以外の様々な称号の使者の実際的な職務、権限、出自、出身地や居住地、母語、運用言語、学歴、職歴、私的財産、出発地と目的地、文書の引受や引渡し時の出来事、文書の運搬形式、運搬する文書の内容等について精査する。同時に、使者と送信者や受信者といった関連人物の人的紐帯も明らかにする。また「王の道」と呼ばれた幹線道路についても、その規格や運営維持に関して研究を行う。研究対象となる史料は、ヘルシンキ大学のState Archives of Assyriaおよびミュンヘン大学のRoyal Inscription of the Neo-Assyrian Periodプロジェクトの出版済史料集やオンラインデータベースを利用する。この後使者研究と幹線道路研究を複合させ、アッシリア帝国における書簡通信ネットワークシステムを再構成する。
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