研究課題/領域番号 |
23K12299
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03040:ヨーロッパ史およびアメリカ史関連
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
川本 悠紀子 名古屋大学, デジタル人文社会科学研究推進センター, 准教授 (70780881)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2028-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2027年度: 260千円 (直接経費: 200千円、間接経費: 60千円)
2026年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2025年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2024年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2023年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
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キーワード | 別荘 / 古代ローマ / 古代ギリシア哲学 / エピクロス派 / ヘルクラネウム / ポンペイ / 古代マケドニア王国 / 古代ローマ住宅 / 古代ローマの別荘 / 古代ローマの庭園 |
研究開始時の研究の概要 |
古代ローマ時代の文学作品や史料には、ギリシアの哲学者たちに倣って別荘で哲学談義に興じるさまが描かれることがある。なぜ古代ローマの住宅空間の中にこのような哲学を行うための建築空間が登場し、受け継がれていったのであろうか。 本研究は、いかなる経緯で古代ギリシア哲学が古代ローマ住宅に持ち込まれ、根付いていったのかを歴史的出来事や、人の移動と関連づけて考察するとともに、古代ギリシア哲学が古代ローマの住宅空間に与えた文化的影響について文献史料・考古学的資料を用いて解き明かす。
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研究実績の概要 |
本研究は、古代ギリシア哲学が古代ローマ時代の別荘に与えた影響について明らかにするものである。古代ローマ時代に書かれた文献には、ギリシア語由来の建築空間名称が登場し、その中には古代ギリシアの哲学学校にも存在した空間名称(パラエストラ、ギュムナシウムなど)も確認できる。これらのギリシア語由来の建築空間名称が、古代ローマ時代の別荘建築を説明する際に使われることもあり、その理由として哲学談義が別荘で行われたことが挙げられてきた。本研究は、ギリシア哲学の影響がいつ・どのようにローマの別荘に波及したのかを文献・遺構から明らかにし、その影響の及んだ範囲についても考察する。 研究を遂行する上で欠かせないのは、文献の読解と現地調査である。ギリシアの哲学学校の建築空間がどのようなものであったかを文献から検討し、学校の所在が明らかになっているものについては現地踏査をおこなう。また、古代ローマの特に共和政末期から帝政初期にかけて建てられた別荘の調査もおこなう。実際の哲学学校と別荘の空間比較をするのはもちろんのこと、建築空間と古代ギリシア哲学の思想との間に連関関係があったのかを考えることで、古代ローマにおけるギリシア文化の受容について検討を進める。 2023年度と2024年度はイタリア・ギリシアでの現地調査・資料調査を行うとともに、英国やドイツの研究機関での資料調査を行う。収集した資料の分析等は2025年度以降に進め、その後も必要に応じて海外での調査も遂行する。 2023年度には、イタリア・ギリシアでの現地調査・史料調査を行った(詳細については進捗状況に記載)。当該年度の成果として、ギリシアの影響だけではなく、古代マケドニア王国の文化的影響についても検討する必要があるとの知見を得た点が挙げられる。次年度以降この点についてより精査していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、古代ギリシア哲学が古代ローマ時代の別荘に与えた影響について考えるものである。なかでも、文献に登場する古代ギリシア哲学に関連した建築空間や、実際のギリシアの哲学学校遺構と、古代ローマ時代の別荘遺構とがいかなる点で結びついているのかを見るのは重要であり、研究初期段階で把握する必要がある。それゆえ2023年度には、イタリア半島に残るローマ時代の別荘の遺構の中でも古いものや、哲学との関連性が明らかになっているものを中心に調査した。Sirmioneの別荘遺構、パピルス荘(ヘルクラネウム)、ハドリアヌスの別荘が主な調査地であった。 Sirmioneには、カトゥッルスの別荘と呼ばれる遺構が一部あるが、その別荘の上に帝政期の別荘が建てられたため、共和政期の遺構の箇所を確認することができなかった。パピルス荘では、立ち入りが制限されている箇所にも入ることができ、実際に炭化パピルスが発見された場所を調査することができた。ハドリアヌスの別荘では、ヒストリア・アウグスタで言及される遺構の説明を手掛かりにしつつ、個人が所有しているアカデミアを除く全遺構を調査した。また、British School at Rome、Institute of Classical Studiesで発掘報告書を収集した。このほかにも、エピクロス派の哲学者の文献ならびに、昨今刊行が相次いでいるエピクルス派の哲学の研究書の読解を進めた。さらに、科研以外の研究費を用いてアテネにある哲学学校遺構(アカデメイア、リュケイオン)にも訪問し、古代マケドニア王国の文化的影響についても考慮する必要があるとの知見を得た。 これらの調査をもとに、2023年度には発表・講演を国内外で行った。また、これまで収集してきたデータをもとに当該テーマと関連した論考を執筆中である。
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今後の研究の推進方策 |
2024年度には、引き続きイタリア(ホラティウスの別荘、スタビアエ)・ギリシア(特に古代マケドニア王国の都市があった地域)での現地調査を行い、資料調査を継続していく。特に、ギリシアの遺構の調査報告書の中にはギリシアの研究機関に赴かないと収集することができないものもあるため、再度ギリシア(なかでもアテネにある各国の研究所)に行く必要があると考えている。 さらに、今年度は光と開口部との関連性についても検討をしていく。それというのも、置かれた事物と視覚について言及している史料が少数ながら存在しており、たとえば彫刻が置かれた場所は偶然決められたのではなく、思想的な背景がある可能性も排除できないからである。ラテン語史料を収集し、辞書を編纂しているThesaurus Linguae Latinaeのアーカイブに赴いて単語を悉皆調査し、史料を読解することで、「光と開口部」ならびに思想的つながりについて解明することを目指したい。
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