研究課題/領域番号 |
23K12307
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03050:考古学関連
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
三木 健裕 東京大学, 総合研究博物館, 特任助教 (30898309)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,680千円 (直接経費: 3,600千円、間接経費: 1,080千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 2,600千円 (直接経費: 2,000千円、間接経費: 600千円)
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キーワード | 絡まり合い / イラン南部 / 銅石器時代 / 考古学理論 / 土器 / 新石器時代 / イラク・クルディスタン / イラン / ペルシャ湾沿岸地域 / 都市化 |
研究開始時の研究の概要 |
最古の都市ウルクが誕生した南メソポタミア低地の隣接地域、イラン南部ペルシャ湾岸沿いのブーシェフル州では、紀元前4500年から紀元前3500年までの、村落社会から都市社会へ向かう社会変化のようすがわかっていない。 本研究ではブーシェフル州に所在するトレ・スゾ遺跡の発掘調査と出土資料の調査をおこない、農耕村落社会から都市社会へと変化していく長期的なプロセスをあきらかにする。この社会変化を論じるにあたっては、人間とモノが絡まり合うことで社会組織が固定化されていく、というエンタングルメント理論の概念を応用・発展させて、都市化にともない不平等な社会組織へ固定化されていく社会変化のメカニズムを説明する。
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研究実績の概要 |
本研究の主題であるイラン南部、ブーシェフル州の銅石器時代遺跡トレ・スゾの発掘調査にむけては、周辺の同時代遺跡の文献収集を行った。本研究の副題である都市化プロセス解釈のための理論深化に関しては、2023年9月、英国の考古学者イアン・ホッダー氏がエンタングルメント理論を提唱した著作の翻訳書『絡まり合うモノと人間:関係性の考古学にむけて』を、同成社より刊行した。訳書中では訳者改題を付加し、現在の考古学理論における本書の位置付けを行った。2023年度内に初版の出版社在庫がなくなったため、2024年3月にオンデマンド版を刊行した。2024年2月には講演会を行い、出版した書籍に関して研究者と議論した。こうした作業を通じて、今回採用するエンタングルメント理論の強みと課題を確認することができた。 当初予定していた2023年度中のトレ・スゾ遺跡発掘調査は、政治的理由により延期となった。しかしイランでの発掘調査が引き続き政情不安のため行えない事態に備えて、2023年8月から9月にかけて、イラク・クルディスタン地域にてシャカル・テペ遺跡の発掘調査に参加した。幸いなことにシャカル・テペ遺跡では、イランでの対象時期と同一の銅石器時代の文化層を調査する機会に恵まれた。2024年2月に再度イラク・クルディスタンに渡航し、シャカル・テペ出土土器資料の整理と分析を実施した。政情不安により調査地をイラクへ変更した場合の予備的な成果を得ることができた。 また勤務先である東京大学総合研究博物館にて、イラン南部の新石器時代遺跡タル・イ・ジャリB遺跡出土土器資料の整理作業を進めた。残存状態の良好な土器資料の3Dモデル作成を行い、都市化以前における文様割付の変化と当該期の土器づくり共同体の変化の相関を論じた。政情不安により中東へ現地調査できない場合の予備的な成果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度が3年計画の初年度である。本年度最大の成果は、エンタングルメント理論を検討・アップデートする上で核となる書物の翻訳書『絡まり合うモノと人間:関係性の考古学にむけて』(同成社)を出版した点である。当初の計画通りに出版できただけでなく、日本の考古学界の注目を集め、オンデマンド版の増刷という予想以上の成果にいたった。しかし本年度予定していたイラン南部、トレ・スゾ遺跡の発掘調査は政治的理由により実施できなかった。また昨今のイスラエルとイランの間の緊張関係により、今後のイラン南部での発掘調査の実現可能性も不透明となってしまった。中東発掘調査において常に発生する上記の問題に関しては、イラク・クルディスタンでの銅石器時代遺跡シャカル・テペの発掘調査参加と資料調査の実施により、調査地変更のための予備的な成果を得た。また東京大学総合研究博物館にてイラン南部新石器時代遺跡タル・イ・ジャリBから出土した土器資料の整理を実施し、本研究主題の隣接時期へ対象時期の範囲を拡大するというかたちで、現地調査に代替する成果を得るとともに、国内学会や講演会で成果を発信した。
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今後の研究の推進方策 |
次年度は3年計画の2年目にあたる。イラン南部、トレ・スゾ遺跡の発掘調査に関しては、変転する中東情勢を注視しつつ、2025年3月に発掘調査を実施できるよう尽力する。本研究実施期間中にイランにて発掘調査ができない事態に備えて、2024年8月に引き続きイラク・クルディスタンでの遺跡発掘調査に参加し、調査地変更のための予備的成果を得る。出土資料の調査に関しても、イラン南部で発掘調査を実施できない間は、イラク・クルディスタンでの遺跡発掘調査から出土した土器資料を中心に各種の分析をすすめていく。東京大学総合研究博物館にてイラン南部新石器時代遺跡から出土した土器コレクションの整理・学際的研究も引き続き進め、新石器時代から銅石器時代まで長期間にまたがる都市化に向けてのプロセスを考察する。エンタングルメント理論の深化とアップデートに関しては、2023年8月に翻訳した書籍の第2版が出版され、内容が大きく改訂された。その変更点を吟味し、本研究のためのアップデートのために何が必要か検討する。あわせて国内学会、国際学会での成果発信に努める。
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