研究課題/領域番号 |
23K12315
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分03060:文化財科学関連
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研究機関 | 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所 |
研究代表者 |
松浦 一之介 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 文化遺産国際協力センター, アソシエイトフェロー (80972926)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
4,550千円 (直接経費: 3,500千円、間接経費: 1,050千円)
2026年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2025年度: 1,560千円 (直接経費: 1,200千円、間接経費: 360千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 考古遺跡 / 景観 / 環境 / 史跡 / 保護 / 土地利用 |
研究開始時の研究の概要 |
近年わが国でも国土保全法制に結びついた考古遺跡を含む各種文化財の面的な保護が課題となる中、現行の美観形成や観光振興を主眼とする景観行政の根拠法では文化遺産的価値に基づく本質的な景観保護が未確立といえる。また遺跡環境の認識や規制手段の運用は、イタリア等にみられる確立した手法と大きく異なる。そこで本研究は、わが国の史跡を取り巻く土地利用計画に基づく規定をその環境保護に有効な手段として再編成する考察をつうじて、景観との関係で遺跡を保護する道筋を示すことを目指す。加えて、史跡を景観という集団の記憶にアクセスできる場(考古公園)へと発展させる可能性を検討し、さらなる実用的研究への応用を展望する。
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研究実績の概要 |
令和5年度の調査研究は、文化庁の「国指定文化財等データベース」に基づき日本全国の国指定史跡(特別史跡を含む)の中から考古学的価値を有するもの1,626件(シリアル指定を個別に数えると2,245地区)を抽出してデータベース化し、その環境を主として「Google Earth」及び「地理院地図」に基づき3つの類型(市街/農林水産業/自然)に分類し、一定の基準を設けて4つの等級(顕著/良好/一般/悪化)で評価した。次に、これらの史跡を延喜式に記載される旧郡及び自然地理的単位(平野、島嶼、盆地など)の二種類の地域に分けてグループ化し、史跡の環境評価の等級に関して設定した指数(顕著:100/良好:75/一般:50/悪化:25)に基づきこれらの地域を5等級(1~5級)に評価して地図化(ハザードマップを作成)した(今年度は郡単位でのみ)。 調査の結果、48.6%の史跡(地区)については顕著、又は良好な環境で保存される一方、31.8%については悪化していることがわかった。また、史跡の少ない県(9~22件)で顕著又は良好の傾向が強い一方、多い県(112~61件)では悪化が進んでいることが判明した(奈良県の東部を除く)。とりわけ史跡が集中し、また特別指定のものが多く所在する地域(大阪平野~京都・山城盆地:157地区、福岡平野~糸島平野:59地区など)のほとんどが5級(きわめて悪化)に評価され、こうした日本国内の歴史上重要な地域において景観との関係で考古遺跡を保護することの難しさがあらためて浮き彫りになった。 当該年度の調査研究は、わが国において史跡指定される主要な考古遺跡の保存環境を一定の基準にしたがい悉皆的に調査した最初の試みと位置づけることができ、その状況を明らかにした点で重要といえる。また、わが国で景観の概念の下に考古遺跡をネットワーク化して保護するための基本的な資料を提供するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和5年度の調査研究では、上記の成果にくわえて顕著又は良好と評価することができた史跡の周辺について、従来の計画手段(都市計画、農業振興計画、自然公園に関する計画、森林計画など)及び近年策定された計画手段(文化財保存活用地域計画、歴史的風致維持向上計画、景観計画、世界遺産管理計画など)の2種に基づく土地利用規定に関する情報を収集し、いずれが史跡環境の保護を決定づけているのか明確にすることを当初予定していた。 しかしながら、想定外の業務として当該年度の第二四半期から第三四半期にかけての約5か月間、所属機関が受託した事業に関する調査研究に多大な時間を割くことになり、この期間をつうじて科研関連の調査研究をほとんど進めることができず、結果として計画手段に関する当初の予定を完遂することができなかった。また、研究計画の申請時には考古学的価値を有する国指定史跡を約1,400件と推定していたものの、実際にはシリアルな史跡を構成する地区約2,250件ごとに評価を行ったため、単純計算して作業量が想定の1.6倍に達したことも調査研究の遅れの一つの要因である。 一方、2、3年目に予定している事例研究の候補地については、その保存状況に基づき北海道から沖縄県に至る14地域を選定することができた(当初の計画では約10か所を想定)。ただし、これらにおける近年の計画手段の策定状況については地域ごとに大きな差があることを付記しておく。
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今後の研究の推進方策 |
本研究計画の申請時には、初年度の後半において顕著又は良好と評価される史跡環境の土地利用に関する計画手段を悉皆的に調査するよう予定していた。しかしながら、想定外の追加的受託業務により調査研究に遅れが生じたことと、史跡をとりまく歴史的景観の本質や価値を理解するためには少なくともその構成要素を把握する必要があると考えるに至ったため、この悉皆的調査については今後も割愛し、選定した事例研究の中で土地利用の規定を理解するように計画を変更する。また、今後もこうした想定外の業務が発生する可能性があるため、事例研究の数を最小限に留めることとする。 本研究の2年目にあたる令和6年度は、前年度に特定した候補地の中から特に重要と考えられる3つの地域(1.奈良県奈良盆地東部、2.熊本県菊池平野、3.山梨県甲府盆地東部)から優先して調査研究を行う。これら地域には共通して条里遺構が広範に遺存しており、計画手段内でのその位置づけや取り扱いについて注意する。また、時間的及び予算的に余裕があれば、さらに3つの地域(4.岩手県岩井川流域、5.岡山県岡山平野西部、6.青森県津軽平野)を追加する。 なお申請時、新型コロナウイルス感染症拡大の収束が容易には見込めないと想定していたが、現在のところ状況が比較的安定しており、今後は文献調査やウェブサイト上での調査と並行して可能な限り現地調査を実施し、史跡環境の実状を正確に把握するよう努めることとする。
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