研究課題/領域番号 |
23K12348
|
研究種目 |
若手研究
|
配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分04030:文化人類学および民俗学関連
|
研究機関 | 南山大学 |
研究代表者 |
加藤 英明 南山大学, 人類学研究所, 研究員 (90966235)
|
研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
|
研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
|
配分額 *注記 |
2,470千円 (直接経費: 1,900千円、間接経費: 570千円)
2025年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2024年度: 520千円 (直接経費: 400千円、間接経費: 120千円)
2023年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
|
キーワード | 文化人類学 / 技術人類学 / インフラストラクチャー / トヨタ / 中小企業 / 身体技法 / 保全 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は、技術人類学の観点から、愛知県西三河地域の自動車産業を対象に、生産ラインの修理・維持を担う「保全」の人びとを参与観察し、どのような技法をもちあわせ共同性を創出しているのかについて、「トヨタ生産システム」との関連から明らかにすることを目的とする。その点を明らかにすることで、機械を合理的・普遍的なものとして、あるいは、単なる生産性向上ツールとして捉える視点を退け、機械化とともに生み出されるモノづくりのあり方を明らかにする視点を提供する。
|
研究実績の概要 |
本研究は、工場生産ラインの保全を対象に、どのように機械稼働を維持しているのか、保全会社や生産技術者の技法と、保全を支える小規模工場の共同性を考察する内容となっている。2023年度は、当初研究対象として考えていたトヨタの生産ラインを点検修理する保全会社S社(豊田市)を対象に調査を実施したほか、生産ラインの交換部品を製作する小規模工場への調査を実施した。S社からは、ドカ亭処置や暫定処置、慢性不具合解消など、生産ラインを維持するための9つの実践を確認できた。ただし、当初予定していた顧客(トヨタの工場)への同行調査については実施できなかった。そのため、生産ラインの修正・維持に関わる技法に関するデータの収集は部分的なものにとどまった。また、共同性については、訪問した小規模工場のひとつから、今まで「阿吽の呼吸」でおこなっていた部品製作の協業について、職人の高齢化に伴う退職や工場閉鎖により立ち行かなくなる可能性があるほか、デジタル化やEV化に対応する動きもみられ、今後、小規模工場同士の共同性がどのように展開するのか新たな課題の発見につながった。また調査以外としては、これまでの調査を踏まえた研究成果発信も実施した。査読付き論文『日本オーラル・ヒストリー研究』より、今まで蓄積した小規模工場の仕事場の形成過程を報告し、『ひとつとして同じモノがない:トヨタとともに生きる「単品モノ」町工場の民族誌 』を春風社から出版した。これらの研究成果発表により、トヨタ生産システムの裏側で展開する機械部品製作の実態を明らかにし、自動車産業の研究に人類学の立場から貢献した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は、保全会社S社やその関係会社を調査できたが、インタビューにとどまり、当初予定していた参与観察に基づく現場調査ができなかった。そのため、得られたデータは、基礎的なものにとどまっている。とくに、保全人員による日々の機械点検やトラブル対応の調査が不十分であるため、当初の予定よりやや遅れている状況にある。一方で、想定外の成果もあった。具体的には、少子高齢化、デジタル化やEV化に伴う、小規模工場の影響について新たに確認することができた。技術をもつ職人の退職、保全とは少し離れるが、親会社の開発シュミレートの導入に伴う試作部品の減少、EV化の動きに伴う材料変更への対応など、保全を含む小規模工場のネットワークが今後、大きな問題に直面する可能性も確認できた。今後の調査のなかで、本研究を今後進めるうえで看過できない問題を発見できたと考えている。
|
今後の研究の推進方策 |
2024年度も、引き続き、①トヨタ関連工場の保全と保全に関わる小規模工場、②民族誌的記述と技術人類学やインフラストラクチャーによる理論研究をおこなう予定である。ただし、①については、同行調査による参与観察が難しかったため、特定地域の保全会社だけでなく、ほかに同行調査が可能な保全会社や部署を探索しながら、保全人員の実践の収集を広く実施することも視野に入れて進める。②については、人類学的議論を整理しながら、データ収集の検討を進める。その一方で、近年のデジタル化やEV化の動きを把握することが当初想定したよりも、いっそう重要になってくることがわかった。そのため、次年度の研究において、デジタル化の動向や脱炭素社会や人新世と技術との影響関係を踏まえ考察をおこなう必要がある。
|