研究課題/領域番号 |
23K12594
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 岩手大学 |
研究代表者 |
坂口 奈央 岩手大学, 地域防災研究センター, 准教授 (10838212)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2027-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
3,900千円 (直接経費: 3,000千円、間接経費: 900千円)
2026年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
2023年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
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キーワード | 災害遺構 / 生活史調査 / 相互作用 / 災害社会学 / 災害文化 / 防災教育 / 漁村 |
研究開始時の研究の概要 |
本研究は「創り育てる災害遺構」という視点から、そのプロセスについて生活史調査をもとに明らかにしていく。「創り育てる」とは、被災当事者と外部者による語りを媒介とした相互作用のなかで、ともに復興の記憶をつくり、地域社会再生への方途として、災害遺構の価値を見出していくことを示す。「創り育てる」視点を軸にすることで浮き彫りとなるのが、被災当事者がかつての生活経験から災害遺構を意味づけている事である。具体的には、①災害の種類・性質、②被災地域の主な生業および就業構造、③世代に特徴的な社会的経験で、この3つの観点から、人びとがともに復興の記憶を創り育てていく社会的構築物としての災害遺構を探究する。
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研究実績の概要 |
災害遺構は、被災当事者と外部者とを含めた社会共有の財として、いかなる価値をもちうるのであろうか。本研究は「創り育てる災害遺構」という視点から、そのプロセスについて生活史調査をもとに明らかにしていく。「創り育てる」とは、被災当事者と外部者による語りを媒介とした相互作用のなかで、ともに復興の記憶をつくり、地域社会再生への方途として、災害遺構の価値を見出していくことを示す。
東日本大震災は、災害遺構という被災したモノを媒介として、災害との向き合い方や持続的なまちづくりなど、現代社会が抱える多様で複雑化する課題といかにして向き合うか、初めて本格的に提起した災害といえる。2011年以降、災害遺構をテーマにした研究の蓄積がみられ、災害に対する社会的な意識や関心が高まった。しかし先行研究の大半は、「残す」ための災害遺構論に終始している。「残す」ための災害遺構論の共通点は、被災のインパクトに焦点化した外部者の視点に限定され、被災当事者らの災害遺構を巡る葛藤や意識の変化は等閑視されがちである。 そこで本研究が探究していく災害遺構のあり方としての「創り育てる」とは、被災当事者による語りを媒介とした相互作用によって、他者の合理性に対する理解や共感を社会に広く拓き、また復興および災害伝承の主体を形成していく過程を意味する。具体的には、①災害の種類・性質、②被災地域の主な生業および就業構造、③世代に特徴的な社会的経験で、この3つの観点から、人びとがともに復興の記憶を創り育てていく社会的構築物としての災害遺構を探究する。災害遺構とは、人びとがともに復興の記憶を創り育てていく社会的構築物として位置付けることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度となる2023年度は、在籍していた東北大から岩手大学地域防災研究センターに着任となったこともあり、新たな研究環境および学内業務を知り、慣れること、また大学が社会に果たす役割について模索する1年となり、当初の研究予定との若干の変更があった。 初年度は、熊本地震の災害遺構に関する生活史調査を予定していたが、生活史調査を行う上で重要な、調査対象者との信頼関係構築のため、継続的な来訪と面談が必要であること、加えて原発被災地であり、小学校の災害遺構が保存された福島県浪江町で、住民の声を聴くシンポジウムを複数回運営、開催することになり、調査対象地を福島県浪江町の旧請戸地区住民に変更し、これまで10名ほどに生活史調査を実施してきた。彼らが保存された旧請戸小学校の災害遺構に対して、帰還住民らがどのように捉えているのか、災害遺構を通してどのような意味を生成しようとしているのか。災害の特性に伴う災害遺構に対する当該被災地域住民の新たな捉え方について、探求することができた。特に、3月11日という災禍の儀礼に対し、災害の特性および復興へのプロセスによって、当該地域住民の捉え方に差異があることが浮き彫りになり、2024年3月の研究集会で研究の成果として発表した。 さらに、2024年1月1日に能登地震津波が発生したことも重なり、急きょ能登での調査を始めたところである。
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今後の研究の推進方策 |
2年目となる本年の研究は、主に次の2点となる。1点目は、単著出版である。科研費の研究成果公開促進費の交付内定が決定し、2024年度にこれまでの研究成果を単著として出版する予定である。現在、最終稿に向け、内容の精査・ブラッシュアップ、生活史調査対象者への承諾を行っている。本研究内容の中間報告書としての位置づけにも該当することを踏まえて内容の質を上げていくためにも、当初の予定で挙げている2024年度の調査地である、広島県(戦災遺構)、岡山県真備町(水害にまつわる遺構)に加えて、災害遺構として積極的に保存されてきた経緯のある、台湾への海外調査を検討している。津波災害だけでない、他の災害の特性を踏まえた遺構にまつわる当該被災地域住民の捉え方について、探求する予定である。 2点目は、2024年1月1日に発生した能登地震被災地への調査である。能登では、地震被災地と津波被災地が混在している。また、文化財なども多数保存されてきた能登だけに、今後災害遺構の保存をめぐる議論が想定される。災害遺構をめぐる捉え方と災害復興との関連性を明らかにしていくためにも、2024年度は新たな調査対象地として、能登を加え、研究内容を深めていく。
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