研究課題/領域番号 |
23K12600
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研究種目 |
若手研究
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配分区分 | 基金 |
審査区分 |
小区分08010:社会学関連
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研究機関 | 高崎経済大学 |
研究代表者 |
佐藤 和宏 高崎経済大学, 地域政策学部, 准教授 (00823501)
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研究期間 (年度) |
2023-04-01 – 2026-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2023年度)
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配分額 *注記 |
2,210千円 (直接経費: 1,700千円、間接経費: 510千円)
2025年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2024年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
2023年度: 650千円 (直接経費: 500千円、間接経費: 150千円)
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キーワード | 家賃債務保証 / 民間貸家経営 / 追い出し屋 / 賃貸住宅管理業者登録制度 / 改正住宅セーフティネット法 |
研究開始時の研究の概要 |
近年、セーフティネットが盛んに議論されるようになっている。住宅政策においても、2007年に住宅セーフティネット法が制定され、2017年には当該法が改正された。 本研究では改正法の可能性と課題を、民間貸家経営の産業化と機能分化から、家賃債務保証業を中心として、明らかにする。民間貸家経営は、1980年代以降、所有と経営の分離が起こり、所有者としての家主から、産業化とあいまった機能分化(家賃債務保証業、管理業)が生じている。市場重視をうたう住生活基本法の下、改正住宅セーフティネット法を実効的なものとするためには、民間貸家経営の産業化と機能分化を理解することが重要であり、これを明らかにする。
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研究実績の概要 |
およそこの20年間、ハウジングプアや追い出し屋、さらには入居拒否など、様々な住宅問題が発生している。これら問題は、入居者の観点からの分析のみならず、供給者の視点を欠かすことができない。 そもそも、戦後日本の、特に東京圏の、民間貸家経営は、くいつぶし型経営という特殊な経営であった。この経営は、量的供給、「相対的」低家賃、借家関係における規範的拘束などによって、住宅問題が政策的に解決することを未然に抑止した。 他方、こうした経営は、2000年代以降にかなりの程度の変容を遂げた。その変容が、研究課題にも挙げた、産業化と機能分化である。そもそも民間貸家経営は、「民間」経営である以上、市場(化)されていることは前提であった。しかし、民間貸家経営は、第一に、2000年代以降の家賃債務保証業者の台頭と定着、第二に、2010年代後半の民間賃貸住宅管理業(以下、管理業者)の制度化という変化を遂げた。すなわち、これまで家主と不動産業者(宅地建物取引業者、いわゆる宅建業者)を中心としていた民間貸家経営のアクターが、家賃債務保証業者および管理業者も含めて、機能分化が図られたのである。同時にこの変容は、産業化を内包していた。というのも、元々の家主は必ずしも企業経営的な経営ではなかったが、家賃債務保証業者・管理業者は企業的経営ゆえに、民間貸家市場全体の合理化を内包していた。 本研究課題は、必ずしも社会科学研究的に把握されていない現代の民間貸家経営を、産業化と機能分化から明らかにするものである。特に、家賃債務保証業者の台頭と定着に焦点を当て、それとの関係から、住宅問題の発生(追い出し屋)あるいは住宅政策(改正住宅セーフティネット)との関連を明らかにする。こうした作業によって、住まいにおける問題・市場・政策を、一連のつながりの下で理解しようとする試みである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、若手科研の1年目であった。この研究課題の遂行のために、家賃債務保証業に関する基礎過程を明らかにしたいと考えていたが、その基準からするに、いくつかの達成と課題が残された。 第一に、家賃債務保証業の生成・台頭・定着に関する基礎的過程につき、業績を出したが、現時点では一つにとどまっている(「民間貸家市場のデマケーションからみる日本の家賃債務保証」)。この論文では、家賃債務保証業の生成・台頭を、特に追い出し屋問題とその対応が家賃債務保証業の在り方にとっての転換点であったことを意識しながらまとめたものである。家賃債務保証業に関する資料が、当該業界の解説書あるいは判例・法学の論文を除けば、学術論文がない中で、まずは論文として出せたことは一つの達成といえる。 他方、同時並行で進めているものとの関係から、十分にエフォートを割くことができなかったため、今年度は積極的なアウトプットに努めたい。 とはいえ、同時並行で進めた研究は、この研究課題の推進にとっても役立つものであった。そのひとつが、民間貸家研究の方法的視点である(「賃貸住宅政策――賃貸ビジネスの長期運営」)。この評論が研究課題と関わるのは、第一に、「1952年スキームから2020年スキームへ」というテーゼの発見である。第二に、民間貸家経営を規定する変数として、担い手・法・金融の3つが特に重要であると考えた。 いまひとつが、住まいの社会保障化傾向についてである(「住まいはどのように社会保障の課題となったか」)。この論文が研究課題と関わるのは、第一に、住まいそのものがどのように社会保障の課題となったのかが、研究課題の重要な背景をなすということである。第二に、わけても民間賃貸市場が、セーフティネットとして位置づけ直され、それとの関係で(も)家賃債務保証業を捉える必要があるということである。
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今後の研究の推進方策 |
残り2年で、大きくは、相互に関連する3つの課題に取り組みたいと考えている。 第一に、家賃債務保証業に関する資料収集とその整理である。筆者が現在収集している限りでも、およそ120余りの文献があるが、それらをまずは収集し、時系列で事実を確認し、その上でそれを理論的に整理していく作業が、家賃債務保証研究の基礎過程として不可欠であると考える。筆者は、業界経験もなく、法学を出自としていないが、既に出されている業界の解説書あるいは判例研究などとの知見との接合を目指したい。 第二に、「1952年スキームから2020年スキームへ」のテーゼの解明である。まず、民間貸家経営は、宅建業法(1952年)の制定によって、(賃貸含む)仲介に関しては宅建業者が担うことになった一方、貸家経営は法的に規定されなかった。こうした貸家経営の「空白」は、上述したくいつぶし型経営にとっても・そして現在に至るまで、きわめて重要な意味を持った。これを筆者は1952年スキームと呼ぶ。他方、この20年間は、家賃債務保証業に関して、法的規制ではなく、あくまで公示に規定されるにとどまる一方(2017年)、管理業に関して、(サブリース規制法を含む)賃貸住宅管理業法が制定された(2020年)。つまり、貸家経営を空白として出発した1952年スキームは、およそ70年弱の時代を経て、家賃債務保証業および管理業の機能分化と産業化の、制度的総括に至ったのである。こうした視点は筆者によるオリジナルな把握であり、これに関する業績の提出は、研究課題全体にとって重要な位置付けをなすものと考えられる。 第三に、民間貸家経営の方法的視点(国際比較および時間軸)、あるいは現在日本の住宅問題・住宅政策との関連から、第一・第二の研究を統合的に整理・総括することである。これは、日本における居住保障の通史を描く上でも、重要な前提である。
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